第10話:言ってはいけないあの言葉
怪しい居候のスドウ(ストロベリーマフィン)の秘密を暴くべく、ゲームを持ち掛けたタナカ。その行方はいかに?
「負けた人は、1つ自分の秘密を話す――それがルールです」
タナカは視線を逸らさなかった。
――さあ、スドウさん。あんたはどう応える?
秘密にまみれたスドウがこの勝負を受けるかどうか。
流されてしまったらそれで終わり。
だがそうはさせない。タナカは目を逸らさなかった。
「いわゆる罰ゲームというやつだな。……それは面白い」
スドウは薄い唇を片方だけ上げる。
――乗った!
心の中でタナカはガッツポーズを作る。
「して、ゲームというのは?」
ゲームに乗った上、スドウ氏はタナカにゲームの内容まで委ねるらしい。
よほど自信があるに違いない。タナカは息を呑む。
だがこれは間違いなく好機だ。遠慮なんてしてる余裕はない。
「今からやるのは、『外来語禁止ゲーム』です」
◆
「では、お先にいただきます」
トースターで温め直したチーズベーグルは、
やや控えめな塩気と生地のもっちり感が好相性だ。
ハチミツをかけても美味しいと職人のフジさんが言っていたのを思い出し、
食品棚を漁ってみる。見つかったのは瓶の底で白く固まった年代物で、
店のショーケースから新しいのを調達しようとタナカは心に決めた。
「ぐ……美味そうだな」
「はい。スドウさんの分もありますから、お後でどうぞ」
「う、うむ」
『外来語禁止ゲーム』で一番に外来語を発してしまったのはスドウ氏だった。
ゲームのタイトルを口にしてしまい、一発ドボン。ありがちな罠だ。
しかしスドウ氏は醜く抗うようなことはしなかった。
そして故郷に妻と娘夫婦、そして孫娘を残していると話した。
――まあ金持ちそうだし、その辺の家族構成に違和感はないな。
タナカはベーグルの最後の1かけらをコーヒーと共に飲み込み、
もう一歩踏み込んでみる。
「スドウさんの故郷って、ここから遠いんですか?」
「うむ、遠いな。具体的な距離や時間を答えることは難しいが。
それより、タナカくんの食べたべー……ソレの味はどうだった?」
「ああ、美味しかったですよ。塩気がちょうどよくて」
「本体の上に何がかかっているんだったかな?」
――来た。だけどここで素直に『チーズに決まってるでしょう』なんて
言うオレじゃないんだよね。
「ヤギの乳を煮詰めた物ですね」
「なるほど、そうだったな。……ヤギ?」
「ええ、そうみたいですよ。これ原料が牛乳じゃなくて、ヤギ乳らしいです。
日本では珍しいですよね」
「…………」
――何だ、今の沈黙は? 警戒してるのか?
引っ掛け要素なんて会話のどこにも入れてないのに。
「スドウさん、どうかしましたか?」
「すまん。孫娘のことを少し、思い出していてな」
「お孫さん……だいぶ会ってないんですか?」
「さあな。その質問には、次に罰ゲームを引いた時に答え――あっ」
「あ」
気まずい沈黙の時間が流れる。
「我輩としたことが、2度も同じ言葉に引っかかってしまうとは……」
「ド……そう気を落とさないでください」
「ん? タナカくん、今何か違う言葉を言おうとしていなかったかね?」
「そんなことはありません」
「まあ目をつぶろう。我輩の罰……秘密の開示がまだだからな」
「ええ。お孫さんの話でしたよね?」
「そう、我輩の血を引く唯一の孫……」
スドウ氏はコーヒーをひと口味わうと、
どこか遠い目をしてぽつりぽつりと語り始めた。
「この世界の誰よりもいとおしい、孫娘の話だ」
//11話につづく!
お読みいただきありがとうございました!
ゲーム途中ですが、ここから魔界シーンに入ります。
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