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名作激情

海亀のスープ 或いは a=b b=c ならば a=c

作者: 風風風虱

1.


「ああ、ちょっと君」


 身なりの良い紳士が近くを通りかかったボーイを呼び止めた。


「これは亀のスープで間違いないかね?」


 ボーイはテーブルに置かれた少し茶色かかったスープをしばらく見つめていたがやがてニッコリ微笑んだ。


「はい。亀のスープで間違いありません」

「そうか。それは良かった。美味しかったと料理長シェフに伝えてくれたまえ」


 紳士はナプキンで口元を拭くと店を出ていった。


2.


 バキン バキン


 厚い肉切り包丁がまな板に置かれた大腿骨を次々と叩き割る。そして、男は割った骨を煮えたぎる鍋に放り込でいった。


「ああ料理長シェフ料理長シェフ


 厨房のドアのところからボーイが顔を覗かせる。


「ああ、なんだ? つうか、勝手に厨房のぞくんじゃねえーよ! 今度やったら頭かち割って鍋に放り込むぞ!!」


 髭面で頬に大きな切り傷のある男、とても料理長とは思えない風貌の男は、これまたドスのきいた声で本気か冗談か分からないセリフを吐き出した。


「いえね、さっきのお客さんが亀のスープ美味しかった、って言ってたのではやく報せようかと」

「亀のスープだと? ああ、これのことか」


 料理長は顎でグツグツと音を立てる鍋を示した。


「そりや、こりゃあ店の自慢だからな。しかしまあ、亀のスープか。そりゃそうだがその客っーのは亀のスープ食べたことねぇんだろうな、きっと。

そんな奴に褒められても嬉しかねぇな。

ガハハハハハ」


 料理長が大笑いするのをボーイは訳も分からず眺めるだけだった。



3.


 ホテルの一室。

 深夜。ベットの片隅に腰かけた紳士がほっと胸を撫でおろしていた。

 紳士は心の中で昔の事、船乗りだった頃を思い出していた。

 ある時、紳士が乗っていた船が難破して無人島に仲間と共に漂着した経験があった。

 無人島の生活は苦しく、飢えで仲間が次々と倒れていった。紳士もまた、餓死寸前まで追い込まれた。朦朧とする意識の中で船長がスープを飲ましてくれて、一命をとりとめたのだ。

 スープには少し筋張った肉も入っていた。

 あの時、思わず食べてしまったが一体あの肉はどこから手に入れものなのかずっと疑問だった。

 救助された後に船長に聞いたら亀の肉だと言われた。

 あの時、食べたのは亀のスープだと言われたのだ。本当にそうだったのか……? 

 もしかしたら、と言う考えが実はずっとあったのだが、怖くて聞けずに今まできてしまった

 あの時の船長ももう亡くなってしまったので、聞くことも叶わない。だから、今夜勇気を出して食べてみたのだ。 亀のスープを。


「今日、勇気を出して亀のスープを食べてみて良かった」


 と、紳士はしみじみと呟いた。


 なぜなら、今日食べた亀のスープはあの時食べたスープと全く同じ味だったからだ。


「やはり、あれは()()()亀のスープだったのだ」


 紳士は再び呟くと、ベットへ横たわり目を閉じた。


 もう悪夢を見ることもないだろう


 そう考えながら紳士は深い眠りに落ちるのだった。


2023/09/03 初稿


亀のスープではなくて海亀のスープでしたので、題名を修正しました

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― 新着の感想 ―
[良い点] 紳士~っ! それ同じ材料やけど、たぶん自分思ってるのとちゃうで!(Т^Т) [一言] そういう店ありそう……。
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