本編2
一般市民達が混乱し怒号と叫び声が充満するなか、2人で恐る恐る振り返った。土煙が晴れ全身正体が映る。
可愛らしい猫の頭、筋骨隆々な上半身と下半身、手はライオンを思わせる爪をしている。
身長は3mはありそうだ。
「あ、あの佐原君、アレ猫だよね」
日下部さんが困惑している。確かに頭部だけ見てたら猫だよ。でも全身見たら化け物なんだ。
「猫らしきもの(仮)」は暇になったのかキョロキョロ見渡しビルの壁でガリガリ爪とぎし始めた。
ビルの壁が削れかつお節の様に削れていく、こんなのに引っ掻かれたら無事では済まないだろう。
「あ、うん、えと」
「日下部さん!戦わないとそれとエミリアの安否の確認」
「ゴメン…私武器が無いと戦えない。蛇池さんに許可貰えたのこれだけ」
見せてきたのはハンドガン、これだと撃っても致命傷を与えることは出来なさそうだ。
「弱らせてくれればこの銃でもなんとかなるかもしれない」
「何とかします、日下部さんはエミリアが生きてるかの確認をお願いできますか?」
「うん」
何の訓練もしたことなく、自分が何を持っているかも分からないそんな状態から生死をかけた戦いが始まった。
不意打ちとはいえ突撃のスピードが見えなかった…迂闊に動いて攻撃すればカウンターを食らってこっちが死んでしまう。
相手がどう動くか観察しよう、猫の残穢はこちらを見て手を振りあげそのまま純粋に単純に猫パンチしてきた。腕を構えて防御するがトラックが体全体にぶつかるような衝撃だ。上から攻撃してしたおかげで吹っ飛ばなかったが横から殴られていたらエミリアと同じように吹っ飛んでいたかもしれない。
「にゃ!」
猫パンチに耐えたのを確認して遊べるおもちゃとして認識されたのだろうか…目をキラキラさせながら左手で猫パンチを撃ってくる。唐突に視界がブレる、景色が横にスライドしていく右腕、右半身に鋭い痛みが走った。
「あぁ…」
何が起きたかはすぐに把握出来た、上から攻撃してくる猫パンチだけに集中してしまい、右手の猫パンチが横から飛んできた。そのまま壁に激突。頭がグラグラするし意識もはっきりしなくなってきた。
自分の上半身に腕を乗せ逃げないように固定、ゆっくり確実に体重をかけて少しずつ命を奪ってくる。
「ミ゛!」
猫のような猫じゃないナニカが嬉しそうな顔をしながら思い出したのは両親の事、目の前で殺された。その事件が無かったらもっと別の人生を歩めていたのに。
親戚達は俺の事を引き取らず忌み子として孤児院に押し付けた。
そこで出会った希望も残穢に奪われた。
「なんなんだよ…」
目の前で奪われていく人生ばかりで嫌になる。
そして今俺は猫の残穢に命を奪われようとしている。
殴り飛ばしたいけど、手が届かない。乗せてくる手をどかしたいけどそんな力もない。
そもそも俺が手を伸ばせば…両親にしろ、遥香にしろなにか変わっていたんじゃないか?
手を伸ばす事が出来ればいいのに。
悔しい…涙が出てくる。
せめてコイツの顔面に一発は殴ってから死にたい
「ふざけるなァァ!」
誰に対して?全員に向かってそう言った。何もしてこなかった自分、残穢なんて物を生み出した世界それら全てに
腕を両手で掴みながら世界と自分を憎みながらそう叫んだ。
その瞬間、黒い拳が現れ猫の顔面を殴り飛ばした。
「ニ゛ィ゛!」