51話 生配信スタート!
こうして美夜が本調子を取り戻してくれたのち。俺たちはついに、生配信をする段へと移る。
準備は、万端整っていた。
それぞれ化粧も施し終え、光の当たり方や音の聞こえ方など、細かいチェックもすでに終えている。
カメラも、PCにつないで設置済みだ。
これで流れてくるコメントを拾いながら、配信を行うことができる。
もういつ始めてもいい状態。
そのはずなのだが……、俺はついついセットを再確認する。
生配信は一度流れてしまえば、取り返しがつかないのだ。
「山名ってば、オロオロしすぎだよー。緊張してるの?」
しかし美夜に、その緊張感はない。
お気楽そうに、ジャグリングみたく水のペットボトルを手元で弄ぶ。
「そうじゃないって。学校とか住所とか特定されたら恐ろしいだろ。だから心配になっただけだよ」
「なるほど、そういえばそうだねぇ。でも、ファンの人に囲まれるって展開は少し憧れるよね。シャツに大きくサインとか書いちゃってさ」
ペンを握るジェスチャーをしてみせる美夜に対して、いやいや、と俺は首を横に振った。
そんな平和なファンだけならばいいが、ありがたいことに登録者は3万人超もいてくださる。
「一部には、もっと過激派もいるだろうよ。付き合ってくれないと帰りません、とかストーカーとかされるかもよ」
「おぉ、それは怖いかも……? 山名ファンの人が私を刺しに来るかも!」
「逆だろ、逆。細川さんファンに俺がやられる。そんなわけだから、もう少し確認を――」
と、そこまで言ったときだ。
美夜はおもむろに身体を起こすと、カメラに触れる。するとPCに表示されるのは、『レコーディング中』の文字だ。
「なっ、なにを」
焦りの声が漏れるが、もうこの一瞬が世界に向けて配信されているのだ。
『30分前から張り付いて待ってました! キタコレ!』
『ついに!! 世界一番と尊いチャンネルの生配信がはじまる! 伝説がはじまる!!』
『ひなたくん、どうかしたの?』
なんて、画面いっぱいにコメントが流れてきたら、今さら止めることもできなかった。
配信がはじまった以上、俺と美夜は、誰もが憧れるような恋人同士。少なくとも、それを演じなくてはいけない。
「はい、始まりました! 『日夜カップルチャンネル』生配信! お月様担当、みやと〜?」
ばっちり、カメラ目線であった。
両手を使って三日月を作る恒例のポーズとともに、美夜が挨拶を行う。レンズを通して俺にばっちり視線をよこした。
「……太陽担当、ひなたです」
そうなったら、俺もそれに倣うほかない。
とはいえ、スイッチを切り替えきれなかった俺とは対照的に、美夜は拳を握りしめ意気揚々と声を上ずらせる。
「初! 生配信だよ、ひなた! 初ものだよ!」
「あ、あぁ、めでたいよな。勝手が分からないところもありますが、今日はよろしくお願いします……!」
「あは、やっぱ固いよ。ほらほら、もっとリラックスして? 私がいるから大丈夫だよ」
なんて、美夜はふざけて俺の肩をもみこむ。
「おぉ、これは随分と凝ってますなあ。まるで四十肩!」
「まだ10代だから! 腕も足もめちゃくちゃ伸ばせるからな? 体育のテストじゃ柔軟性は高い方なんだ。後ろで手だって結べるし」
「おぉ、見たいよ、それ! ほら、やってみて?」
完全に、美夜のペースだった。
やるとも言ってないのに、カメラを指さし、純粋な期待に瞳を揺らす。
そんな彼女に乗せられひっぱられ、気づいたときには俺もいつものペースを取り戻していた。
配信を始める前の気負いが消え、不思議と心が軽くなっている。
やり方は強引だったけれど、結果として俺は美夜に救われていた。
……やっぱりお互い様だ。
迷惑をかけたりかけられたりするくらいは、俺と美夜の間では当たり前なのだ。
それこそ、本物の彼氏と彼女みたいに、お互いに頼りあっている。
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