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18話 寝起きは幼なじみの馬乗りから。


「早く起きなさい、ひなくん。遅刻するよ、ひなくん」


だんだんと目が覚めて、やっと視界がクリアになると、そこには俺の足の上、馬乗りになる黒髪ショートの少女がいた。



軽い体重をめいっぱい尻に重心をかけることで、ぐりぐり押し込んでくる。


身体を触れ合わせることにすらまったく遠慮のない少女は、日野梨々子、俺の可愛い幼なじみだ。


どこまでも正しい彼女は、今日も寝坊の類に厳しい。

エプロン姿でおたままで握る徹底ぶりで、俺にこう呼びかける。


「今日、あたし朝ごはん多く作っちゃったんだ。今日お弁当いらないって言ってたの忘れてた。早く起きて全部食べてくれないと遅刻する」

「……なんだよ、その理由。全部食べなかったらいいだけじゃ?」


たぬき寝入りを決めようと思ったが、つい反応をしてしまった。


時計を見てみれば、まだ7時にもなっていない。

いつもより30分近く早い時刻だ。どうやら俺は本当に、朝ごはんを作りすぎたがために、起こされたらしい。


まぁ、いいんだけどね? むしろ、朝ごはんを用意してもらった身だ。

贅沢なことを言って、亭主関白宣言をするつもりは毛頭ない。


「ひなくん、今日の寝ぐせはいい感じに決まってる」

「……よし、ちょっとぼさぼさに仕上げてくる」

「うん、そうしなさい。じゃあ、あたしご飯よそってくる。二度寝したらダメ。分かった?」

「はいはい、神に誓いますとも」


ぼけっとした頭ながら、俺は制服へと着替えを済ませる。洗顔、歯磨きのついてでに、宣言通りダサい髪型をあえて作ってから、リビングへと向かった。


そこで待ち受けるのは、我が姉・山名遥と、梨々子の2人だ。


「……おはよう、ひな」


おぉ、我が姉ながら俺に似て、朝に弱いこと弱いこと。

とんでもないロートーンボイス、否、酒やけボイスだ。ヤンキー漫画に出てくる姉御としか思えない、ドスの効いた挨拶をしてくるので、こちらも「おはよう」と返事をする。


どうやら、姉も無理に起こされてきたらしい。

用意してもらった紅サケの塩焼き定食には、まだ手を付けられていない様子だった。


「お姉、講義は何時から?」


姉は現在、大学2年生だ。

昔から頭だけはよく、ここから電車で数駅のところにある国立大学に通っている。


将来は立派な研究者を嘱望され、俺よりずっと親からも周りからも期待を受けている彼女であるが――


「昼からよ。だから、もっと寝て、昨日深夜までやった飲み会の疲れを取るつもりだったけど……りりちゃんに起こされたのよ。朝ごはん食べて健康な生活を取り戻した方がいい、って」


3つも年下であるはずの梨々子には、頭が上がらなかったりする。


というか、俺たち姉弟はどちらもそうだ。

俺は、動画で得た収益の多くを出前に費やすくらい炊事能力には自信がないし、姉にいたってはもっとひどい。


過去には、『500Wってなに? レンジでチンしたら爆発したんだけど』と言って、見るも無残に破れた冷凍うどんの袋を見せてきたこともある。

聞けば、外袋ごと『いけるわよね』と突っ込んだらしい。


そうつまり、底辺中の底辺の家事能力なのだ。二人寄り添い支えあっても、生きていけるか怪しいほど、俺たちの能力は低い。


それを梨々子が支えてくれているのだ。


「遥姉、綺麗なのにもったいないから。ちゃんと規則正しい生活するだけで、すごく美人になるのに。肌荒れも、目の下のクマも消えたら、誰よりも美人さんなのに」

「あぁん、りりちゃん、いい子~! いい子すぎて、ひなに嫁がせたい……! 動画の美夜ちゃんより、やっぱり、りりちゃんがいい」


「……おい、お姉。朝っぱらからなに言ってるんだよ。まだ酔いが残ってんのか?」

「失礼な。酒を明日に持ち越さないのは、大学生の必須スキルよ。

 そのまんまのこと。姉としては、ひなだけじゃなくて、私をセットで受け入れてくれる人じゃないと困るし? ひなと離れたら死ぬし」


治らないんだよな、このブラコン精神……。


朝一から堂々と寄生宣言をかます姉に、俺はため息を一つつく。


それから手を合わせて、梨々子の用意してくれた朝ごはんに手をつけていった。

紅鮭の塩焼き定食、たしかに味噌汁、サラダに玉子焼きもついてきて、それはまるで旅館の朝ごはんみたいなボリュームだ。


けれど、どれも安定して美味いのだから、多少量が多いくらいでは、どうということはなかった。

三人、綺麗に完食しおえる。


時計を見ると、7時45分。

時間もなんやかんやで帳尻が合わさって、ゆっくり歩いてもちょうど間に合うくらいの時刻になっていた。


「これくらい手伝うよ。なんでもやらせるわけにはいかないからなー」


俺はシンクに立ち、梨々子と並んで洗い物を手伝うこととする。

皿を握ったらなぜか淵を割るようなドジっ子属性な姉とは違うのだ、俺は。ほんとの最低限だが、生活を営むスキルくらいは持っていた。


泡を水ですすいだ皿を、梨々子に手渡す。


「お嫁さんにしたくなったでしょ。もちろん、本物の」


と、梨々子はなんの気なさそうに少しだけ口角をあげて言う。

俺は「どうかな」とわざと濁して返してやる。もう、これくらいの発言じゃ、お互いに意識をしあったり動じたりはしない。


むしろ、言葉の裏に潜んでいるトゲの方が俺には気にかかった。


今の発言は明らかに、誰かを意識している。


「……細川さんのこととなると、毒が混ざるよな、梨々子」

「最近、なんか動画の雰囲気変わった……ような気がするから。前より親しく見えるから、ちょっと思うところがあっただけ。なんにもないならいいけど」

「ない、って何回も言ってるだろ。あくまでビジネスの関係だ」


「ふーん。今日、突然お弁当いらないって言いだしたのも関係ない? もしかして、あの子に作ってもらう、とかない?」


それは、あまりにも的確過ぎる指摘で、一瞬どきりとして大きく胸が跳ねる。


しかし、例の恋人らしくなるための練習については、いまだ梨々子に伝えてはいない。というか、この先もたぶん伝えられない。


ずきりと胸が痛みはしたが、俺はそれを顔に出さないようにして首を横に振り、空のグラスを彼女に手渡した。



実際、俺と美夜との間には、なんにもない。

たとえ本物に見せかけるため練習を重ねていようと、それはあくまでビジネスの関係のため。


そう、だよな……?


と少し揺らぐのは、今日も『おはよう』のメッセージが来ていたから。

『今度モーニングコールしてほしいなぁ。朝から声聞くって恋人っぽいよ? 私がかけるのでもいいよ』


と、その内容は続く。


……これだけは、どうにか断ろう。


梨々子の怒りで、朝から食卓が地獄の空気感になってしまうのが目に見える。

俺の食事だけ、デスソースがふんだんに使われるなんて展開もごめんこうむりたい。




そんなわけで二章、スタートです。

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