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14話 夢の中でも会いたいらしい。

おはようございます〜、引き続きよろしくお願いします。



その日は、撮影のない日だった。


ただし、仕事がないわけではない。

代わりに、既に撮り終えた動画を編集するという仕事が残っていた。本来なら、それぞれの家で別々に、かつ孤独な作業をしているところだが……


『今日一日どうだった?』


なんてメッセージが来て、


『よかったら今から話し合おうよ、ね?』


なんてメッセージを受け取ってしまえば、断る理由を探す方が難しかった。俺の方から言いたいことだってあったのだ。


今日は俺の家に集まることとなる。


ちなみに、俺の部屋は撮影部屋になることもあるうえ、梨々子が掃除に入ってくれるから、しっかりと整頓されている。

もちろん、見られたくないあんなものや、こんなものは皆無だ。

いきなり女子がくるからって、慌てることはまったくなかった。


「どうだった? 美夜ちゃんと恋人ごっこ、一日体験コースは」


と、美夜は部屋に入るなり、メッセージと同じことを尋ねた。


クッションの上にぺたんと女の子座りをすると、向き合っている俺の方へぐいっと身体を伸ばして、前のめりの姿勢だ。


おかげで制服のシャツはぴんと張り、そもそも短く折り返されたスカートはその禁断の内側が見えるか見えないかまで、まくれあがっている。


なんとなく煽情的なその姿に、俺はひとまず目を逸らす。


「どうだった、もなにも……。まじであんなことずっとやるのかよ。ちょっとした恐怖体験だったんだが? 下手なホラー映画より、背筋凍った」

「それも慣れだよ、慣れ。ちなみ私は明日以降も続行の予定だよ、もち。動画を伸ばすためなら、それくらいやらないといけないと本気で思ってる。

ここらでしっかりと、演者同士の仲を深めておかないとね」


それを引っ張り出されると、俺はどうにも弱い。

が、ここで折れてばかりでは、いつまで経っても言われるがままだ。


ただでさえ、この女神様は理論武装で攻撃をしてくる。身を守るすべは、持っておかなくてはなるまい。


「そりゃ、動画のためになるなら……とは思うけど、今日、赤松に絡まれてただろ? ああ言う面倒くさいことが今後も起きるんだぞー」

「いいのいいの、あんなくらいの粘着慣れてるから。昔からよくされるんだよね。でも、助けてくれてありがと」

「……あんな手、何度もは通用しないからな」

「そのときは、また別の方法で助けてよ、彼氏さん♪ 今日の助け方は、ちょっとださかったから今度はもっと颯爽と駆けつける感じで、『美夜は俺のだから、誰にも渡さないキリッ』みたいな!」


美夜は、感情をこめて、声音を渋く格好よくして言う。


いやいや、と俺は単純に首を振った。


たとえ動画が回っていても、そこまでキザなことは言えない。それをなにもないところで言うなんて蛮勇は、もちろん持ち合わせていなかった。


「あは、冗談だよ。それに今日のも十分格好良かったしねー。はっきり言うと、普通にどきっとしたし」


美夜は、少し頬を染めて、こめかみをかく。


それは、お世辞というようには聞こえなかった。なにより、飾り気のない表情がそう物語っていた。


……本当にどうしてしまったんだろうか、このパートナーは。


前までの俺たちは、もっとビジネスライクでドライな関係だったはずだ。

動画外では、こんな軽口をたたきあったこともない。お疲れ様です、さようなら、くらいのあっさりしたものだったはずだ。


『動画のための恋人ごっこ』はともかくとしても、やはり最近の美夜は少しおかしい気がする。


「……あんまり、そういうことさらっと言ってくれるなよ。照れるだろ」

「お。照れろ照れろ~。……はっ、今のとか、めっちゃ本物の恋人って感じのやり取りじゃなかった? こういうの増やしていきたいね」


そこから彼女は一人、今日の反省へと入っていく。


俺はと言えば、「今度は手作りお弁当食べてもらうからね」とか、「朝から挨拶できたのはよかったね」とか語る、その美しすぎる横顔をまじまじと見てしまう。


こうして見ていると、動画のために無理をしているようには見えない。

むしろ心底楽しんでいるかのように映って、訳が分からなくなってきたのだ。


「全部あくまで、動画のため、なんだよな……?」


そして念のため、再確認を入れる。

彼女は間髪入れず、当たり前じゃんと答えて、こくりと首を縦に振った。


「でも、その代わり本気だよ、私は本気で練習して、もっともっと山名と恋人っぽくなりたいと思ってる。

これでも必死なんだよ? ほら、山名にはもともと幼馴染の日野さんがいるでしょ? 二人、ちょー仲いいじゃん。

でも、そこに割って入ってでも、山名の彼女は私じゃなきゃいけないから。私、きっと山名の心をつかんで見せるからね」

「……動画の中の話だろ。ちゃんとそこまで言えよ、誤解されるだろ」


俺は換気のための開けていた窓の外を見る。

目と鼻の先に見える窓は、日野家の、それも梨々子の部屋のものだ。


そしてうちの幼馴染は、美夜のことを「お邪魔虫」と言い切るほど、なぜか敵視している。余計な誤解を招きそうな発言は避けていただきたかった。


「ふふ、ごめん、わざと。聞こえてたら聞こえてたでいいの。ちょっとした宣戦布告だからさ、今の。私は本気で山名の恋人になるつもりだし!」

「……だから、動画の話だって言ってくれよ」

「あは、やーだ。分かり切ってることだから、あえて省略してるの♪」

「……あのな。無理やりにでも言わせてやろうか」


俺が冗談でこう言うと、美夜はけらけら笑い、「やだやだ」と言いながら狭い部屋を這うようにして逃げ惑う。


最終的に俺のベッドによじのぼって、くるっと布団の中にとじこもって、その潤む瞳で俺を見る。


「匂いたっぷりつけといたから、これで今日の夜は私の夢を見て寝られるね、山名。うわ、やば。今の恋人っぽいよね、夢で逢うなんて」

「……ファブリーズかけておくから」

「なら、ファブリーズに負けないくらいこすりつけるよ? 絶対、夢に出てやる~。夢でも恋人になってやる」


などと、この美人は言ってのけるのだ。


しかも追い打ちをかけるかのように、豊かなその胸元に俺の枕をぎゅうっと抱え込み、そこに優しい吐息をたっぷりと吹き込みながら。


……あぁ、調子が狂うったらない。

本当に細川美夜はいったいどうしてしまったのだろう。いや、どうしたもなにも俺が考えすぎているだけなのかもしれない。


こういうのも全部、動画の中でより恋人らしく振る舞うため。

動画を伸ばすため、だよな……? いや、きっとそうに違いない。


今はそう考えなければ、理性がどこかへと飛んでいってしまいそうだった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 美夜側の心情が出てこないのでむしろワクワクしてしまう。
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