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可愛そうな俺に異世界転生を!

 目の前に死神がいる。

 冗談のように聞こえるだろ? 俺もできれば何かの冗談だと思いたいのだが……。

 死神がいるんだよ……、黒いマントに鋭く大きな鎌、マントのフードからは骸骨の顔が見えている。それはそれはもう、恐ろしい見た目をしている。

 いや、まだコスプレの可能性があるからと期待したのも束の間……こいつ釣り糸もなく浮いているのだ。

 そもそも俺がいるのは男子トイレの洗面所だ。

 鏡に写るその死神は骸骨の顔で俺の方をガン見している。

 ……もしかして、隣でプルプルと震えているおじいちゃんじゃなくて、俺の魂を狩り取りに来たんか?

 いやいや、さすがに隣のおじいちゃんだよね? 俺じゃないよね?

 すぐ隣で、手を洗っているおじいちゃんが何事もなく、男子トイレから出ていくが……死神はいまだに鏡の中に残っており、俺の方をガン見している。

 俺だぁあああ! 俺だよおおおお! 魂刈り取られるの俺だあああ!

 ちょっと待ってくれよ! まだやりたいことが山ほどあんだよ!

 つーか俺まだ、一六才だよ! 中学生の間青春という青春をすべて勉強に捧げて、必死に受験勉強もして、やっとこさ超難関校にも合格して、これから楽しい高校生活が始まるって言うのに!

 死ぬのか! まだ彼女の一人も出来た事ないのに! 童貞なのに! 死ぬのか!?

 そんな俺の心境なんてどこ吹く風と言わんばかりに、死神が鎌を振り上げる。

 いやああああああ、刈り取らないでえええええ、まだやりたいことがたくさっ……。

 俺の意識は死神が鎌を、俺の首めがけて振り下ろした瞬間に無くなった。



 ここ……どこ?

 意識が戻った、しかし場所は男子トイレの洗面所ではない……どこまでも続く白い空間の中にポツンと俺がいた。

 体もあるようだが、妙に軽いような気がする。


「ようこそ、カイトさん。ここは天界と人間界の狭間よ」


 瞬きと同時にいきなり目の前に人が現れた。

 いや……よく見ると翼の様なものが見えている。

天使の類だろうか?


「私の名前はアンヘル、地球の女神代理をしている天使です」

「えーっと……よ、よろしく?」

「はい、よろしくお願いします」


 よくわからないが、このアンヘルとか言う女神代理……めちゃくちゃ美人だ。

 体つきも引っ込むところは引っ込んでおり、出るところは出ている。

 つまりどういうことかというと……美人ってことだ。

 それに声音(こわね)もとても優しくて、きっと性格もいいのだろう。


「それでは、えーとカイトさん」

「はい?」

「まずはあなたに謝らねばいけないことが……」


 アンヘルは、とても申し訳なさそうな顔で俺の事を真っすぐに見据える。

 そして、ゆっくりと話出す。


「私の指示ミスでグリムちゃんにあなたを殺させてしまいました」

 ん?

「ごめんね~」

「おいこら、ポンコツ天使」


 このポンコツ天使、ミスで人を殺すとか……女神代理失格だろ。


「ポンコツとは失礼な、女神代理の任は結構荷が重いんだよ~、むしろ君は僕の頑張りをたたえて、肩でも揉んで叱るべきだ! っていうか天使じゃなくて今は女神様と呼びなさい人間!」


 口調が急に変わった……、どうやらさっきまでの丁寧なしゃべり方は外面用らしい。


「何が肩を揉めだ! てめぇのその無駄にでかい胸を揉みしだいてやるよ! このポンコツ天使!」

「な、何を言う! 女神の神聖な胸を揉むだと! は、恥を知れ人間め! って何だいその手は! ほ、本当に僕の胸を揉む気なのかい⁉ ちょ、ちょっと待って! やめて! やめて!」


俺が両手をわしわしとさせながら、アンヘルににじり寄っていると、本気で怖がっているアンヘルが後ずさる。


「く、くるな! ちょ、グリム! グリム! 助けて! たすひゃああああ」


 誰かを呼んでいたアンヘルだったが、俺はアンヘルに馬乗りになってその胸を揉みしだく。


「うん、やわらかいながらもちゃんと弾力があるな」

「何を感想まで言っているんだ君は⁉ いいから降りろ! 女神にまたがるとは一体どういうことだ! グリム! この人間をどけてくれ!」


 先ほどから呼んでいグリムという者が現れる気配はなく、俺は気にせずアンヘルの胸を堪能してると……突然後ろから首根っこを掴まれて後ろに投げられる。


「うわあっ!」


 飛ばされた俺は、何事かとアンヘルの方を見ると……そこには、黒いマントと大きな鎌を手に持った……超絶美少女の死神がいた。

 先ほどの骸骨顔は一体何だったのか……ちゃんと肌が合って、肉付きのいい足まで生えている。


「あ、あれ? 死神?」

「は、はい……あの、先ほどカイトさんの首根っこを刈り取らせていただいた者です。投げちゃってすみません……一応私の上司からこのポンコ……じゃなくて、女神代理のアンヘル様の命令に従うように言われているので……」

「今僕の事、ポンコツって言おうとした⁉」


 アンヘルがうるさいが、そんな事よりも……先ほどまでとは別人の姿の死神ことグリム……、フードから覗く赤い瞳、垂れ目や口調からもとても優しい雰囲気があるが……綺麗な手にしっかりと握られた鎌がすべてを相殺している。


「そ、そうか……それは大変だな、心中お察しするよ」

「どういうことだい! まるで僕の事をめんどくさい奴みたいな扱いをしちゃってさぁ! まったく失礼しちゃうよね! そんな奴は僕の独断と偏見で地獄行にするよ!」


 騒ぐアンヘルにグリムが詰め寄る。


「アンヘル様、本来は彼の隣にいたおじいさんの魂をここまで案内するはずだったのに、ちゃんと書類には目を通しているんですか? これでミスは何回目ですか?」

「うっ……ちょちょっと、グリム……見てるよ、女神代理である僕をカイトがゴミでも見るかの様な目で見ているよ……」

「まったく、それが嫌なのなら、仕事はちゃんとしてくださいよ。現世の娯楽にばかりうつつを抜かしてはいけませんよ」

「だって! モンハンが面白いの悪いんだもん!」

「ゲーム機はしばらくの間没収です」

「なんでぇえ!」


 俺は一体何を見せられているんだ……。

 死神であるグリムから説教を受ける女神代理のアンヘル。


「えーっと……それで俺って結局どうなるの? 一応はそっち側のミスっぽいし……生き返れたりするの?」


 俺が二人にそう聞くと……。


「ごめんね、復活とかそういうのはできないんだ……」

「は? え? じゃあ何、俺ってこのまま死んだまま?」

「うっ……そ、そうです」


 俺の見幕にビビるポンコツ女神代理が、恐る恐る答える。


「ふざけるなぁ! 俺はこれからだったんだぞ! これから彼女たくさん作って、高校生という限られた青春を謳歌するはずだったのに! どうしてくれるんだ! 俺のハーレム計画! ラブコメみたいな俺の学校生活を返せぇえええ!」


 俺が怒鳴り散らすのを、呆れた表情で見るアンヘルとグリム。


「ある意味冤罪でもない?」

「ふざけるな! 冤罪どころか! まだ何もしてないわ! 始まってすらいないわ!」

「ひぃぃぃ! ごめんんさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」

「はぁ……もうこんな上司嫌だ」


 ビビるアンヘル、呆れるグリム、そして切れ散らかす俺。

 カオスな状況だが、アンヘルの言った一言で俺は一気に冷静になる。


「なら、君を異世界に転生させるからさ……今回の件は許してくれない? 何か一つ特典も付けるからさ」

「な、何だと……」

「ど、どう?」

 アンヘルが恐る恐る聞いてくるのを、俺は満面の笑みで答える。

「アンヘル様! よろしくお願いします!」

 俺の異世界転生が決まった瞬間である。


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