彼女が欲しいので、とりあえずクラスの女子全員の下駄箱にラブレター入れてみた。
短編書いてみました。
突然だけれど、俺の話を聞いてくれないだろうか。
俺は、小中高と一度もモテたことが無い。これは、由々しき事態だ。自分で言うのもなんだが、中学までは、自分が顔が良い方の部類に入り、勉強もそこそこ、運動もそこそこできると思っていた。
今はモテていないけど、この三つがそろってるんだから、高校に!高校に入ったら俺はモテるはず!という考えのもと中学を過ごしてきた。
なのに、なのに…
「なんで、俺はモテないんだぁぁぁぁぁ!!??」
「ちょっ、うるさいよ、健っ。こっちまで恥ずかしいから、そんな大声で叫ぶのやめてよ」
場所は、校内のカフェテリア。
前にいる髪が少し赤みがかった中性的な顔立ちをした小学校からの親友が俺に小声でそういう。
「いやな? 俺は、もう悟ったんだよ。気づくのが遅かったけど、俺は、遂に分かったしまったよ、雫」
俺は、フォークで雫を指す。
「何を?」
「これまで、お前が励ましてくれたけど、もうわかったぜ」
「だから何を!」
「ああ、俺は、自分を過大評価してたってことだ」
「いや、だから、それはっ」
「いや、もういいぞ、雫。俺は、もう自分のスペックを理解している。そう、つまりもう雫は、励まさなくていいってことだ! ああ、目から涙が」
「はぁ、なにいってんのさ。これまで言ってきたのは励ましじゃなくて、本当のことだよ」
「ああ、俺も前まで信じてたよ。でもさ、でもよ!!! 高校に入ってしかも二年も経ってんのに! 一度も彼女が出来た事ないのはおかしいだろ!?」
「だ、だから、恥ずかしいって。取りあえず座って、落ち着いて」
雫は、興奮している俺を宥める。
カフェテリアということもあり周りには、たくさんの生徒がいる。だから、さっきから雫は恥ずかしがっているのだ。
でも俺はそんなの知らない。
(雫は、モテてるから、わからないんだよぉぉぉ)
雫は、中性的な顔立ちということもあり一部の層から圧倒的支持を得ている。
が、俺は何も良いものを持ってなくモテない。俺は、もう気持ちが収まらなかった。モテないことに対しての怒り。ちょっと、理不尽ではあるけれど。
そんな時、俺に一つの案が浮かぶ。
(ふふふ、思いついたぞ、もう手段なんてどうでもいい…。モテないんだから)
「ねえ、気持ち悪いから、そのゲスい笑みやめてよ」
「…ふふ、ん? ああ、ごめんごめん。ま、とりあえずだ、雫。俺は、明日今思いついた作戦を決行する。ふふ、名付けて『くじ引き彼女』だ!」
「はぁ、なんでわかってくれないかなぁ。後々、面倒くさくなるような事はやめときなよ。あ、あと由香のことも考えなよ」
「由香? なんであいつが出てくんだ?」
由香というのは、俺らと同じく小中高から一緒の幼馴染である。昔からよく三人で遊んでいた。
「はぁ、流石に気づいてよ…」
「え? ま、よくわかんないけど、とりあえず後で由香にも相談してくるぜ」
「由香も一応女子ってことわかってるよね?」
「ん? もちろん」
「はぁ…」
終始、雫はため息をついていた。理由は、謎だ。
────────
「あ、待ってくれたんだっ」
嬉しそうに笑みを浮かべる由香。
俺は、帰りのホームルームが終わるといつもは雫と真っ直ぐ帰路へとつくが、今日は、由香にも雫と同じような話をするために由香の部活が終わるのを待っていた。
ちなみに雫は、「由香とちゃんと二人で話して」と言って去ってしまった。
「おう、この俺の由々しき問題について語るためにな」
「何よそれっ、馬鹿らしい問題だったら許さないわよっ」
由香は笑いながらそう言う。
「ああ、大丈夫だ、重要な問題だからな」
「ふ~ん。で? なんなの、その問題ってのは」
俺達は、同じ歩幅で高校の最寄り駅まで歩き出した。
「そう…問題はな……」
「早く言いなさいよっ」
ためにためているとそう言って叩かれる。
「ごめんごめん、問題は、彼女ができないってことだぜ」
「あんたのことだから、まともな問題じゃないと思ってたけど、ほんとに馬鹿らしい問題じゃないのっ!」
「いや、マジだからマジ」
「あんたなんかに彼女なんかできないわよっ」
「ぐはっ」
由香のダイレクト悪口アタックにひれ伏しそうになる。俺は、負けじと反撃した。
「あ、ゆ、由香が俺の彼女になってくれてもいいんだぜ」
「ば、バッカじゃないの! そ、そ、そんなた、健の彼女なんてっ、じょ、冗談言わないでよっ」
「ごめんって、俺も別に由香のこと幼馴染としてしか見てないから安心してよっ」
「え……」
突然の沈黙。
(え、俺なんか墓穴掘ったか?)
黙り込む由香の顔を見ると、口に力が入っていた。
これは、由香がいつも不機嫌な時にやる癖である。しかし、何のせいでこうなってんかよく分からない俺であった。
「ど、どうかした…?」
「な、何でもないわよ!!! バカ健!!!」
自分の腹に小さな拳が突き立てられる。
「ぐはっ」
とても強力な一撃。そして、そのつかの間、由香は、俺を置いて走り去っていた。
「…ええ」
何が起きたのかよく分からず、困惑するしかない。
さっきの沈黙は、なんだったのだろうか。沈黙の直前に放った言葉は、『幼馴染としか見ていない』みたいなことを言った気がする。
(もしかして……嫉妬?)
「いやいや、ないない」
何を考えているんだ俺は。
(俺と由香は、幼馴染で…幼馴染だから…なんだ?)
「くっそ、いつも由香の事を考えると狂っちまいそうになる」
(なんでだろう…)
そう不思議に思うが、いくら考えても答えは出てこない。
「とりあえず、今日は寝よう」
────────
翌朝。
「よし、今日は、とにかく作戦決行日だ」
ぐっすりと眠った俺は、作戦を楽しみにしながら学校へと向かった。
「よっ、雫っ!」
「ねえ、どういうこと? 朝、由香泣きつかれたんだけど?」
軽快な挨拶で、雫に、挨拶するといきなりそう詰められる。
「え、ああ、ま、まあ、色々とあって…」
あははと苦笑いをかます。
「あのさぁ、あんだけいったよね。なんで、守れないかなぁ」
「ごめんごめん」
「それは、後で由香に言って」
「そうだな、後で謝ってくる」
そして、俺達は席についていく。俺の席は、雫の後ろの席である。つくと、雫はすぐに異変に気付いた。
「…なんか視線感じない…?」
「ああ、それ多分俺のせいだわ」
「ん? …どういうこと?」
何かを察したのか、眉間にしわを寄せながら俺の近くに寄ってくる。
「いや、だから昨日言っただろ?」
「ま、まさか……」
「おう、『くじ引き彼女』を決行したぜ」
「…どんなことしたの?」
「え、クラスの女子全員の下駄箱にラブレターぶっこんできた」
「な、な、な、なにやってんのさ?!」
雫の突拍子のない大きな声がクラス中に響き渡る。当然、周りの注目も浴び、恥ずかしくなったのか、雫は静かに座った。
もう二度と注目されたくないのか、次は小声でしゃべりかけてきた。
「ねえ、そんなことしたら……」
「え?」
そう雫がしゃべりかけようとした瞬間、突然俺の前に白い紙を持ったクラスの女子が現れた。
雫が言わんとばかりに、ため息をつく。
「ちょっと来てくれるかな、水谷 健くん」
「え、は、はいっ!」
普段しゃべったこともない女子に、自分の名前を呼ばれ背筋がピンと張る。白い紙を持っているため、ラブレターに気付いているのは確かだが、これから俺は、断られるのだろうか。
(やば、なんか緊張してきた)
長い黒髪を束ねた名前の知らないクラスの女子についていくと、着いたのは人影の無い踊り場であった。
その女子が止まると、俺も止まる。
「これ、ありがとう」
手に持った俺のラブレターを見せながらそう言う。
「あ、ど、どういたしまして」
「で、返事なんだけど、よろしくお願いします」
「ですよね…って、え?!」
こうして、俺に初彼女ができた…はずだった。
『よろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
「な、なぜだ……」
「はぁ、だから言ったんだよ」
「噓だ…俺がこんなにモテるはずがない」
「今は、どんな状況なの?」
「19人中、9人OKを貰った…」
「で、何か見えた?」
「おう、OKもらう度、なんか彼女欲しいのは、そうなんだけど、誰でもいいわけじゃないって思い始めたんだよ」
「ふ~ん」
昼休みでもあり、雫は焼きそばパンをむさぼりながら聞いている。
「で、凄い勝手だと思うんだけど、改めて考えると好きな人いたってことに気づいたよ」
「ほうほう、じゃあ、とりあえず、クラスの女子全員に謝ってきたら?」
「おう」
────────
放課後。
「いひゃい」
「あはっはっはっ、何その顔」
笑いながら俺の腫れ上がったほっぺをつんつんする雫。
「いてっ、やめろよ」
あの後、告白を受け入れてくれた人も含め、女子全員に謝ってきた。顔のとてつもない腫れは、報復だ。
「そーだ、好きな人には告白しないの?」
「いや、今思うと酷いこと言っちゃったからなぁ……」
「由香に?」
「うん…って、何で分かった?!」
「ん~っと、わかりやすいからかなぁ」
「くそぉ、幼馴染には勝てないか」
「じゃ、帰ろうっか」
謝ったり、日直の仕事をしたりと色々なことをしていたら、もう教室には俺と待ってくれていた雫しか残っていなかった。
「おう」
そして、雫と下駄箱まで行くと、
「ん? ゆ、由香?」
先には、何やら居ても立っても居られないような様子の由香がいた。
「あららぁ、僕はお邪魔そうだから先帰ってるね~」
「え、ちょ、ちょっとっ!」
雫は、由香を見るなり去っていく。
下駄箱に、残るのは俺と由香の二人だけ。窓から差し込む夕暮れの光が俺たちを照らしていた。
(まずは、昨日のこと謝らないと…)
由香は黙っており、気まずい中俺は、由香のほうへと近寄って行った。
「ゆ、由香、き、昨日はごめん…」
必死に謝るが、由香からの返事はない。
「ゆ、由香…?」
呼びかけながら、由香のうつむいた顔を覗き込む。そして、あることに気づく。
(えっ、な、泣いてるっ?!)
内心めちゃくちゃ驚きである。あの気の強い由香が泣くところなんてあまり見たことがない。
が、同時に俺に襲い掛かる焦り。
(やべ、泣かしてしまった、どうすればいいんだ)
女の子とあまり接したことのない俺は、どうすればいいか分からず、あたふたしていた。
そんな時、微かに由香の声が聞こえる。
「────ったの?」
「ん?」
「──きあったの?」
「ん?」
「付き合ったのって聞いてんのよ!!! ぐすん」
「ん、どういうこと?」
昨日のことと何も関係がない質問に戸惑う俺。
「だ、だって今日、周りのみんながあんたのことについて言ってて、告白の返事を受けてたみたいなことをた、た、たくさん聞いたから! ぐすん」
由香は、涙ぐみながらそう言う。
「ああ、そ、それは、一時の気の迷いってやつで、あはは、付き合ってないよ」
由香の質問に答えると、由香の涙はすーっとひいていく。
「つ、付き合ってないのね?!」
「え、う、うん」
「もう、心配だったんだから…」
「心配…?」
「はっ、こ、これはっ! 違くてっ!!」
必死になって、『心配』という言葉を誤魔化そうとするが、すぐにそれをやめた。
「あぁぁぁ、もういいわ! 馬鹿らしくなってきちゃった」
由香は、顔を上げて俺と見つめ合った。
「健! あなたが好きよ! 前から、ずーーーっと!!!」
この日は、俺の人生において最高の日となった。
読んでくださりありがとうございました!
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