友を憂う
最近友人が心配でならない。マルチ商法に引っかかっていたと思えば、次にネズミ講と、ありとあらゆる詐欺商法に引っかかっている。彼とは10年の付き合いだが、彼は今までまじめに勤勉に、優秀な人間として生きているように見えた。
彼は、それ以外は普段と変わらなかった。いつも通りに大学の講義を受け、いつも通り友達と話し、いつも通りバイトに行っていた。
私は彼に大丈夫かと聞いたのだが、彼は
「大丈夫、少しまとまったお金が欲しくて。」
と返すのみだった。まとまった金が欲しいのであるにしても、こんな一歩間違えれば犯罪行為となるであろうことに聡明な彼が気付かないだろうかと疑問に思いつつも、大丈夫と言われた手前、これ以上問いただすこともできないだろうと思い、そこでこれ以上詮索することはしなかった。
ある日、彼との共通の知り合いであった女性が行方不明となった。その知り合いは人脈が広かったため、大学内でも騒ぎになり、多くの人がその安否を心配していた。私も彼女を案じていたのだが、その居場所よりも、彼女と一番親しかったであろう友人がまるで何も起きていないように日々を過ごしていたことが、私にとって大きな疑問となっていた。
そこから数ヶ月たった今日、私は彼に呼び出されていた。いつも通りに合流し、ファミレスに行こうとしたとき、彼は近道があると言い、私の返事も聞かずに歩き始めた。
昼間の喧騒の中、街を歩く。彼は黙っていた、まるで何かを隠しているのがばれたくないとでもいうように。
彼は街の片隅の裏路地へと入っていった。真っ黒な車が近くの車道の隅に泊まっていた。私も彼に続く。静かな暗い道を歩く。
いきなり背中に強い衝撃を感じた。すかさず受け身をとるが、誰かに押さえつけられているのか、起き上がることができない。
「今の今まで、僕を信じてくれて、どうもありがとう。」
前からそんな声がした。ああ、どういうわけか知らないが、嵌められたってことなのか。
「申し訳ないって思ってるよ。でも、僕はもう戻れないんだ。」
心のこもっていない声で彼はそういうと、ポケットから白い粉の入った袋を取りだした。
「初めはストレスの解消のためだったんだ。でも、止まらなくなってさ、新しく買おうと思ったら、ものすごい値段でね、もう全部捨てたさ、これを買うために全部捨てた。それでも足りなくなって、臓器でもなんでも売ればいいと言われたけど、僕は五体満足でいたかった。そこで僕は思いついたんだ、僕じゃない人間の体を売ればいいんだってね。」
いきなりなんだ?それは薬か?全部捨てた?自分じゃない人間の体?
「数か月前のこともそうだ。そして今度は君だ。」
数ヶ月前?彼女のこと?だからお前はあの時…、
首を絞められる。ゆっくりと意識が落ちていく。
「ありがとう、僕の親友よ。」
その言葉を最後に私の意識は途切れた。