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4 ダービーミリオネア

RRCという名前で駿馬は確信を強めた。ここは競馬RPG「ダービーミリオネア」の世界だ。元の世界で中央競馬はNRC (ナショナルレーシングクラブ) だが、大人の事情でRRCなのかもしれない。


 惜しむらくはイベントの出演記念にもらった「ダービーミリオネア」をほったらかしていたことだ。もともとゲームなんてやらないし・・・無類のゲームオタクとして有名な競馬仲間の三条学なら、この世界に飛ばされても、かえって喜んでいたかもしれないのに。


 何れにしても、その『ナンデモ電機ステークス』に勝利することで世界が開けるのではないか。愛子には何度も首を横に振られたが、これも縁だからという強引な理由で押し切り、最後は彼女も折れた。もちろん、本心は有難いはずだ。ただ、ハヤテオウの能力は見せておかないとな。


「あの・・・ハヤテオウの血統を教えていただけますか?RRCのような手続きは必要ないのですが、馬券は販売されるので、登録の際に血統表は出さないといけないのです」

「ああ・・・そうですよね」


 危なかった。普段はお手馬の血統なんて父と母ぐらいしか見ないが、たまたま特集番組でインタビューに答えるために、ハヤテオウの血統だけは一夜漬けで覚えておいたのだ。ただ、ハヤテオウも芝野駿馬も知られていないこの世界で通じるだろうか・・・。


「え・・・あのキングフィロソフィーですか?彼のお父さん」

「そうです。母馬はレジェンドルビー」

「伝説のマドンナ・・・」

「はい、そのレジェンドルビー」


 なんだ、繁殖の牡馬や牝馬は元の世界と同じってことか。スマイルティアラという名前は聞いたことがない。もしかしたら「ダービーミリオネア」のプロローグの1つなのかもしれない。しかし、本当にゲームの世界に飛ばされるなんてことがあるのか。やっぱり痛みも苦みも感じる夢なのだろうか。とにかく、ここで生きていくしかないわけだが。


「そんな良血馬を独立レースに出すなんて、なんだか申し訳なくなってしまいました」

「いっそRRCに登録しますか?そこで勝ちまくれば白金なんたらの借金なんてすぐに」

「それは無理です」

「なぜでしょう?」

「登録料が300万円かかるんです。しかも返済期限は絶対なので、間に合うレースが『ナンデモ電機ステークス』しかないの。やっぱり駿馬さんたちにご迷惑は・・・」

「いえいえ、出ますよ。そのレースに勝って、残りのお金からRRCの登録料を出してもらうのはどうですか?それならギブアンドテイク成立でしょう」

「はい。ありがとうございます」


 その場で涙ぐむ愛子を見て、駿馬は思わず胸が苦しくなった。


 競馬ゲーム「ダービーミリオネア」の世界に飛ばされた確信が強まったが、不思議おなことに。絵に写るものは割とリアルな感覚だし、目に映るものがちょっと絵的であること以外は元の世界とあまり変わった感じがしない。


 とりあえず困っていることと言えば、愛子に本当のことを伝えにくいことだ。駿馬は勝負服や帽子など、ステッキ以外のジョッキー仕様で、ハヤテオウはナショナルダービーのゼッケンと鞍を身に付けている。しかし、財布も無ければ、身分を証明するものもない。


 元の世界では若くして東部リーディングの上位に付けていたぐらいだから、勝ち負けの馬に乗せてもらうことが多かったし、収入もそれなりにあった。正直、円の価値が同じであればスマイル牧場の借金を用立てるぐらい何でもない。しかし、ここが異世界であれば銀行の通帳やキャッシュカードから引き出せるわけもない。


 住民票、社会保険、運転免許証・・・そういうのはゲームの世界ということで省略化されてたり、簡略化されているのだろうか。これまでの常識で考えすぎてもしょうがないけど。


「あの、良かったらレースの日までここに寝泊まりしてください」

「え?」

「駿馬さんが寝ている間に、遠くから飛ばされてきたとか言っていたので」


 そんな寝言を発していたのか・・・変な奴に思われていないだろうか。まあ変な奴に違いはないが。


 それにレースまでの準備がありますからね」

「あの、財布を持ってなくて・・・」

「全然いいんですよ。むしろ、お金なんていただけません」


 借金を抱える牧場と一文無しのジョッキーと馬。ああ・・・そういえばトレジャーカップに出る予定だったマルチプライズはどうなったかな。当然、騎手は誰かに乗り替わりだろう。そんなこと考えても仕方がない。

 夢か現実か分からないけど、この世界でゼロから生きていくしかない。僕がジョッキーであることに変わりはないのだ。おかわりのコーヒーを飲みながらそんなことを考えていると愛子が再び話しかけてきた。


「今日はゆっくり休んでください。明日、ハヤテオウのメディカルチェックに行くので、競走馬専門のお医者さんに連絡を取っておきますね」

「えっと、それはどう言う・・・」

「これもRRCの登録場に比べたら簡易ですけど、正確な年齢とか、怪我の有無や健康状態、あとは増強剤など不正がないかとかのチェックをしてもらって、運営に提出しないといけないの」

「なるほど・・・」


 そんなのもあるのか。当然と言えば当然だけど、元の世界からやってきただけに、ちょっと不安はある。

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