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20 赤毛とマカロン

 この世界で目覚めた時に「人馬一体」を獲得したとか・・・そういう声を聞いた。そしてハヤテオウと心の会話ができたり、ハヤテオウを通してライバルの能力が分かったりという不思議なことが起きたが、姫子には起きていないうことか。


「この世界で目覚めた時に、何かを獲得したみたいな声を聞かなかった?」

「えっと・・・ああ、それなら剛腕がどうこうって」

「何か元の世界から変化は?」

「もともとグランドシャークに乗る予定だった有馬さんの話だけど、私が乗ると力強さが増すみたい」


 なるほど・・・姫子は馬と心の会話をすることができない代わりに、彼女が乗ることで馬そのものをパワーアップさせる能力を授かったのだろうか・・・それが誰からかというのは考えても仕方がないと駿馬は思った。


「最初は驚いたけど、落ち着いて話すことができて良かった。姫子ありがとう」

「私もあなたに会うまで、正直少し寂しかったんだ。鮫島ファームの人たちはみんな優しいし、毎日がつまらないわけじゃない。ただ、やっぱりね・・・」

「ああ」


 それ以上聞く必要はない。もともといた世界から突然知らないところに飛ばされて、元の世界には戻る方法があるかも分からない。そもそも居場所すらないかもしれないのだ。


「あ、そうだ。駿馬も受けるのよね、2ヶ月後の登録試験」

「ああ」

「短期研修プログラムがあって」

「愛子さんから聞いてる」


 姫子はちょっとむくれたが「まあいいわ」と声に出して、自分も参加する予定だと駿馬に教えた。ラヴリービズもハヤテオウと同じ時期にRRC登録をするという。この世界に飛ばされた時期はズレているが、競走馬の登録と騎手の試験が決まっているのだから奇遇でもなんでもない。しかし、まさか騎乗できないデビュー戦を任せるジョッキーが・・・


「武井祐太郎!」「武井祐太郎!」


 まあ、それも当然か。ゲームを名前しか知らないという姫子に「ミリオネアのラスボス」のことを言っても仕方ないが、それだけ信頼に足るジョッキーということだろう。あとは新馬戦がラヴリービズと被らないことを願うしかない。


 二頭の出走スケジュールは共有することで意見が一致して、相変わらず川面でイチャイチャいしているハヤテオウとフラワースマイルのリードを取り、愛子の待つスマイル牧場の家屋に戻った。


 戻ると愛子はすぐに紅茶を持ってきてくれた。色とりどりのマカロンもあるが、ソファーに座った姫子はちょびちょびとティーカップに口を付けるだけで、マカロンを手に取ろうとしない。


 その理由を女性に聞くのは野暮すぎるのでやめておいた。駿馬も無事に登録試験に合格し、さらに実績を上げるまでできる限り斤量の軽い馬にも乗れる体にしておくことを考えると、そんなに羽目を外すことはできないが、愛子のマカロンは元の世界で食べた記憶がないほど美味しいことを知っている。


 姫子も少し申し訳なく思ったのか、目が我慢できなくなったのか「あの、じゃあ1ついただきます」と断ると左手でピンクのマカロンを掴み、端の方をはぐっと噛んだ。


「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜美味しいッ!」


 そう言った直後には口の中に丸ごと放り込んでいた。その後、お皿に載った残りのマカロンをじーっと見つめている。食べたくても食べられない可愛そうな女子の目だ。


「・・・良かったら、お土産に持って行って」

「えっいいんですか?」


 愛子は「日持ちはすると思うから」と言ってから姫子の耳元まで口を近付けて何かを伝えた。これはきっと男は聞かない方がいい内容だろう。そう勝手に空気を読んだ駿馬はテーブルの『キャンター』を手に取った。


 この前はハヤテオウのライバルになりそうな馬たちばかり気にしていたが、ロイヤルオークスを大目標にする2歳の牝馬情報も掲載されていた。その手の動きを、姫子も紅茶をするりながら目で追う。


「来年のオークスでナンバーワンの注目馬・・・ロンリーローズ。先日の新馬戦を圧勝。母親譲りの赤毛の美しい馬体は・・・赤毛?」

「わっ本当に赤い。私の食べたマカロンみたい」


 駿馬はプッと笑いそうになったが、笑っていいタイミングか分からないので堪えて言葉を繋いだ。


「こんな色の競走馬、見たことある?」

「全く無い」


 二人の様子を不思議そうな表情で愛子が見ていたが「赤毛は珍しいけどティアラのお姉さんが赤毛で・・・ファンシーローズ」と答え、冊子を横から覗き込む。ロンリーローズのプロフィールに目をやって「あっ」と声を出した。


 ロンリーローズ(牝2歳・赤毛)

 父:ダブルプラズマ

 母:ファンシーローズ


 ロイヤルオークスを目指すラヴリービズの最大のライバルになりうる馬がスマイルティアラの血筋か・・・ブラッドスポーツと呼ばれる競馬の世界には色々な血の命運が繋がれていく。それはこの世界でも同じであることを駿馬は思い知らされた。





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