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2 スマイル牧場

 平地愛子・・・どこかで聞いた気もするが、名乗られて返さない訳にはいかない。


「あ、芝野駿馬です。漢字でシュンメと書いてシュンマと読みます。こっちは・・・愛馬のハヤテです」

「(おい、愛馬って照れるぞ。ていうか紹介でオウ省略するな)」


 ひとまずハヤテオウのツッコミは無視する。さっきまで鼻をひくひくしてこっちのことなど気にしてなかったくせに・・・


「はあ、そうですか。それで、こんな場所に何の御用ですか?」

「ああ、えっと、怪しいものではないです・・・」

「(怪しいだろ!)」

「では、どんなご用件で?」


 背丈はほぼ同じぐらいだが、少し屈みながら上目遣いをされるとむず痒くなる。


「(おい、ハヤテ。どうしたらいい?)」

「(知るか。自分で解決しろ)」


 初めてこっちからも言葉に出さず、心の会話を試してみたら繋がった。しかし、こんな態度の奴だったのか。いや違う・・・未だ姿が見えない牝馬に気持ちがいって、こっちのことなど上の空なのだろう。何しろ2走目では白毛の牝馬のことばかり気にして直線まで気合いが乗らず、危うく負けそうになったくらいだ。一か八か、レース中にステッキを使ったのはあの時だけだ。


「なんて説明したら良いか・・・実は道に迷っちゃいまして」

「あ、ああ。それでしたら、このスマイル牧場は・・・」


 愛子さんがせっかく説明してくれても地名がうまく耳に入ってこない。効き慣れないからだ。言葉は完全に理解できるのに・・・でも、待てよ。スマイル牧場・・・平地愛子・・・あ、何かの公開イベントにゲストとして招かれて、競馬ゲームだったか。


 ええっとゲームのタイトルは「ダービーミリオネア」で、物語の拠点がスマイル牧場、女性オーナーの名前が・・・平地愛子!


 謎は全て・・・解けてない。一体何が起きているのか。もしかして、夢でも見ているのだろうか。


「あの、柵の外からすみません。平手で頬を打ってくれませんか?」

「えっ」

「お願いします」

「(おいおい)」

「で、では・・・」


 バシッ!

 グハッ!


 見た目によらず、怪力・・・・駿馬の意識は飛んでいった。


 バシッ・・・という強烈な音とともにノックアウトされた駿馬が目を開けると、大きな二つの瞳と整った鼻、唇・・・愛子の顔が真上から迫っていた。こ、これはもしや・・・


「あの、大丈夫ですか?」

「えっ、ま、まあ・・・」

「ごめんなさい、こんなことになるなんて。人を打つことなんて滅多にないので、私加減を知らなくて」

「(滅多じゃないけどあるのか・・・)いや大丈夫です」


 ようやく愛子の顔が遠のいた。良い意味でのサプライズは駿馬の妄想で終わった。ようやく我に帰って辺りを見回すと、簡素な建物の中にいる様子だ。きっとあの小屋だろう。


「あの、失礼ながらスマイル牧場って静かというか」

「はい・・・どこまで話して良いか。け、経営が厳しくて、今は自家用の家畜と繁殖はんしょく前の牝馬が一頭いるだけでして」

「すみません、ぶしつけに。あ、ハヤテ・・・ハヤテオウは?」

「ああ、あの黒鹿毛のお馬さんなら馬房にいてもらっています。すごくお利口さんなのはすぐに分かったのですが、万が一にも逃げてしまったらと思って」


 元の競馬界であればハヤテオウのことを知らない関係者はいないだろう。どんなに小さな牧場であろうとも。世代のナンバーワンホースと期待され、圧倒的な人気に応えてナショナルダービーを圧勝した、少なくともゴール板を独走で駆け抜けたハヤテオウなのだ。


「本当に立派なお馬さんですね。あれだけの風格があって・・・でも鼻をひくひくさせてて、愛嬌もある」

「(そこは褒めないでいいです)」


 ハヤテオウのことは知らなくても彼が並の馬でないことは見て分かる。素人でないことは明らかだ。それにしても馬房って、その牝馬と隣合ってたりしたら大丈夫だろうか。


 しばらく会話をしていると、突然、外からドタドタと騒々しい音がした。そしてドアがドンドンと鳴り響く。扉が開いていたのか、柵を乗り越えてきたのか分からないが、招かれざる客が来たことは明らかだった。

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