12 背後からの刺客
ナンデモ電機ステークス 出馬表
1-1 グランドシャーク 6牡
1-2 アイドルハンター 4牝
2-3 ハヤテオウ 2牡
2-4 ホソマッチョ 7牡
3-5 パワフルウーマン 6牝
3-6 メシノタネ 10牡
4-7 サンクスギフト 6牡
4-8 ミスダイナマイト 5牝
5-9 クラダシキング 7牡
5-10 オヤマノタイショウ 8騸
6-11 ダッシュマイケル 5牡
6-12 アラフォーチャン 7牝
7-13 ブラックアロー 8牡
7-14 ケンショウマネー 6牡
『ナンデモ電機ステークス』芝2000メートルのスタート時刻が来た。メインストレッチ前に設置された台にスターターがのぼり、ファンファーレが鳴り響くと歓声が響き渡った。規模こそ大きくはないが、駿馬とハヤテオウが何度も体験してきた地面を揺るがすような感覚が全身を駆け巡る。
係員たちの先導に従い、各馬順調にゲートにおさまるかと思いきや、3番のハヤテオウを含む奇数番の馬たちがゲートに収まりかけたタイミングで、一頭が暴れ出した。ダッシュマイケルだ・・・
「おい、マイケル!おとなしくしろ〜」
秋野勝利が叫んでいるが、なんか芝居くさい。
「(ハヤテ、あれわざとだよな・・・)」
「(ワザとだね)」
「(ゲート内で待ち時間が長引きそうだけど、大丈夫か?)」
「(全く・・・問題・・・ないぞ)」
強がってはいるがイライラしてきているようだ。元の世界ではデビュー戦からナショナルダービーまで、幸運にもゲート内で長く待たされる経験が無かった。ゲートチェックは何の問題もなくパスしているが、長く待たされることを想定したチェックまではしなかったのだ。
結局、散々ゲート前で暴れたので、最初に奇数の残り馬と10頭を先に入れてから最後に入れることになったようだ。迷惑なことだ・・・係員が覆面を持ってやってきた。それをダッシュマイケルに被せて視界を遮り、ゲートが見えないようにしようと近寄った瞬間、秋野ジョッキーがポンと首を叩くと、素直に進んでゲートに収まった。
その間にもハヤテオウがイライラがマックスになりかけていた。これはまずいと思った駿馬は奥の手を出した。まさしく左手のグローブをハヤテオウの鼻に持っていく。
「(フラワーの匂い・・・)」
「(そうだ。フラワーのためにもレースに集中するんだ)」
「(よし、頑張るぞ!)」
フラワースマイルを売却の運命から救うための戦いだ。そのフラワーがハヤテオウに走る力を与えてくれると言うのは感動的だが、その想いに浸っている場合ではない。スタートが秒読みになると駿馬は心を無にした。大外のケンショウマネーがゲート内におさまる。そして最後の係員がゲートの外側に外れて安全を確認する。
バンッ!
ゲートが開くとともに14頭が一斉に走り出した。いきなり飛び出したのはダッシュマイケル・・・と、最内のグランドシャークだ。芝が深く、並の馬ではダートより足抜きが重くなりそうな最内を気にすることなく突き進む。なんと言うパワータイプだ。
しかし、さすがに外側の良い馬場を疾走するダッシュマイケルが先頭に立ち、グランドシャークが続く。3番手には8番のミスダイナマイトが躍り出た。少し間隔を開けて1番人気のブラックアローが外めから加速して付けていく。
やはりラビットと見られるダッシュマイケルの少し後ろを追走していく作戦か。前目に付けるには少し不利な枠だが、ハヤテオウを通して得られたパラメータに従うならスピード、スタミナ、パワー、メンタルが総合的に優れる中でスピードが高い。外枠からでも最初の直線のうちに前めを取ってくることが予想できていた。少し後ろ目のハヤテオウは5番に付ける。
「(よし、悪くないぞハヤテ。このままキープだ)」
「(命令すんな)」
「(命令じゃない。指示だ。フラワーのための)」
「(わかったよ)」
鼻を奪ったダッシュマイケルが早くも最初のコーナーを回り、インに切り込んでいく。これだけ馬群を引き離していたら多少斜めにコースを切っても斜行にはならない。すぐ後ろに相変わらず最内の経済コースを突き進むグラウンドシャークが続く。
2馬身ほど離れてミスダイナマイト、さらにブラックアロー、ハヤテオウ・・・7番のサンクスギフトは少し後ろ目か。駿馬からは見えないが、後ろの有力馬には気を配っておく必要がある。第二コーナーをぐるっと右に回った。それまで最内にいたグランドシャークの漆黒の馬体が少しだけ外に膨らんだ。
イナカノベルトか・・・そしてダッシュマイケルはダイナーレディが教えてくれたあたりにコースを取る。ミスダイナマイトはど間ぐらいのコースを取ったが、少し減速した。ダッシュマイケルの通ったルートをそのまま後ろからグランドシャークが追いかけ、ミスダイナマイトより前に出る。
1000メートルの表示板を通過。1分1秒。ハヤテオウは良馬場のほぼ平均ペースだ。駿馬は元の世界の競馬学校で嫌と言うほど体内時計を身に付けていたが、感覚というより頭の中にそれが浮かんで来た気がした。先頭のダッシュマイケルは59秒前半ぐらいか。
せっかくダイナーレディに教えてもらったが、イナカノベルトを進もうと駿馬が考えた瞬間、目の前に青毛の後ろ姿が飛び込んできた。サンクスギフトだ。入り込まれた・・・前の馬とコース取りに気を取られた隙に内側から加速されたのだ。
仕方なく最内から3頭分ぐらいにあるイナカノベルトをサンクスギフトの後ろから走るしかない。しかし、後続の他馬がハヤテオウを外側から追い越した。まさか・・・サンクスギフトは一時的に加速してハヤテオウを追い抜くと、減速して足をタメるシフトを取ったのだ。
外から二頭、三頭と追い抜かれたハタヤテオウ。その少し前でサンクスギフトが馬群に包まれないギリギリぐらいの位置どりで、外側から来る馬たちを牽制している。
先頭から11番ダッシュマイケル、1番グランドシャーク、13番ブラックアロー、8番ミスダイナマイト、7番サンクスギフト 、10番オヤマノタイショウ、2番アイドルバンター、5番パワフルウーマン、12番アラフォーチャン、そして10頭目に3番ハヤテオウと続く。上位人気馬に全て前を行かれてしまった。後続4頭はバラバラ続いており、ペースに付いていけてないか、追い込みにかけるかだろう。
残りの向正面をそのままイナカノベルトで行くか、ダイナーレディが教えてくれたコースでダッシュマイケル、ブラックアローの影を追うか・・・よし。駿馬は覚悟を決めた。
「(ハヤテ、ブラックアローの後ろに付けるぞ)」
幸いにもハヤテオウを外から追い越した馬たちはそのままブラックアローの内側を取ろうとしており、5馬身ほど前方のブラックアローの後ろは空いていた。駿馬が手綱で合図するとハヤテオウは反応良く外に膨らみ、ブラックアローとの差を少しずつ詰めて行く。わずか100メートルほどで内側に転じた2頭を差し返し、イナカノベルトを行くサンクスギフト にほぼ並びかけた。
それでこそハヤテオウだ!




