この胸の高鳴りは何ですか!?
家紋 武範様主催『夢幻企画』投稿作品です。
前話までのあらすじ
異世界『ニホン』から転移してきた女性、夢美を助けた幻術師フォロウ。
幻術で映画を再現する事を提案されたフォロウは、完成した作品の影響力に驚愕する。
町の娯楽を仕切るグレ一家のヤーサにも認められた映画は、今日も人々を魅了する。
それでは『この胸の高鳴りは何ですか!?』
お楽しみください。
怪獣もの映画第二作目『竜の子と少年』は前作を遥かに超える観客を呼んだ。
未曾有の大雨に濡れた森の中。
少年が持ち帰った大きな卵。
そこから生まれたのは竜の子ども。
『わ、可愛い!』
『くるるるる……』
『僕と友達になってよ!』
すくすくと育つ竜の子。深まる二人の絆。
そんな平和な日々に襲いかかる巨大な怪獣。
少年と町を守るべく、小さな羽根で飛び立つ竜の子。
しかし力の差は歴然。竜の子は傷付き、地に落ちる。
少年が小さな身体を広げて、竜の子の前に立つ。
震えながら。涙をこぼしながら。
それでも目を逸らさずに。
『ぼ、僕の友達を傷つける奴は、ゆ、許さないぞ!』
迫る止めの一撃!
それを受け止める巨大な竜!
『下がれ下郎。我が子に仇なすとあらば容赦は出来ぬぞ』
襲いかかる怪獣! 迎え撃つ竜!
激闘の末、怪獣は退散した。
『少年よ。洪水で見失った我が子を救い、守ってくれた事、感謝する』
『友達だから当たり前です! な!』
『きゅー!』
二人の仲睦まじい様子に、竜はおずおずと口を開く。
『……だが竜は人とは暮らせぬのだ。掟があるのでな』
『え、お別れ、なの?』
『きゅーん……』
二人の落胆に、怪獣の咆哮にも微動だにしなかった竜が慌てる。
『……だが、まぁ、友と遊ぶ事を禁ずる掟は無かったはずだ。たまに森に来る位なら、まぁ……』
目を輝かせる少年と竜の子。
『遊びに行くよ! 必ず!』
『がうっ!』
『僕達はずっとずっと友達だ!』
『がおー!』
あぁ、何度見ても良いなぁ。
最後の別れの場面、僕の好みを話して変えてもらっちゃったけど、泣いちゃう子どももいないし、二度三度と観に来てくれる人もいて嬉しい。
「お疲れ様! 今日も大盛況だったね!」
「夢美さんこそお疲れ様」
夢見さんが僕の肩を叩いてくれる。
券を作ったり、お金の管理をしたり、宣伝したり、一緒に新作を考えたり、僕の何倍も大変なのに、いつも僕を気遣って労ってくれる。
僕にももっと力になれる事はないかな。
「あ、あの!」
「? 何ですか?」
あ、さっき観てくれたお客さんだ。忘れ物かな?
「このエイガって、恋物語とかないんですか?」
「はいよいつもの!」
女将さんが頼む前にお酒を運んでくる。もうすっかり顔馴染みだ。
「かんぱーい!」
「かんぱーい」
このやり取りもお馴染みだ。
「今日も満席三回! 順調だね!」
「新しいのが喜ばれてて良かったよ」
「最後の展開、やっぱりあれが正解だったよ! リピーターもすごいし!」
「り、りび?」
「何度も観てくれる人って事!」
夢美さんは上機嫌だ。お酒を飲むのも早い。
「で、どうする? さっきのリクエスト、作る?」
「り、りくえすと、あ、恋物語の事?」
「そ。彼女にしたい人と一緒に観て、いい感じになりたいなんて、映画の醍醐味だからね」
そ、そうなんだ。でも……。
「……ヤーサさんとの約束は大丈夫かな」
「悲恋じゃなきゃヤーサさんとことは被らないでしょ。念のため明日にでも確認してみるけど」
すごいうきうきしてる。映画で恋物語、か。やってあげたい、けど……。
「ん? 何か気乗りしない?」
「え、いや、その……」
「恋愛の経験がないとか?」
うぐ。
「平気だよ。私もないし」
え。
「仕事が忙しすぎて、休みもないし、恋愛なんてする暇なかったから。ま、本とか映画とかドラマとかで、知識だけはいっぱいあるけどね!」
「そ、そうなんだ」
何かちょっと安心……。
「……じゃあ、さ。次の休みにデート、しよ?」
「で、でーと?」
「二人で恋人みたいなお出かけ! 買い物したり、ご飯食べたり、お喋りしたり、当てもなく散歩したりするの!」
あ、逢引き!? そ、そんな、僕と夢美さんが!?
「いや?」
「ぜ、全然嫌じゃない!」
「じゃあ決まりね。すいませーん! おかわりー!」
にっこり笑ってお酒のお代わりを注文する夢美さん。僕はお酒のせいか、心臓がばくばく言っていて、水を頼んだ。
三日後。
僕は鏡の前で最終確認をしていた。
映画の入場料が安定した収入になってきて、夢美さん用にもう一部屋借りたので、落ち着いて支度をする事が出来る。
「大丈夫、かな?」
映画のための逢引き。夢美さんとは恋人でも何でもない。
それでも隣を歩く以上は、恥をかかせたくはない。
いつも頑張ってる夢美さんが、羽を伸ばして楽しんでくれたらいいな。
「フォロウー? 支度できたー?」
「うん、今行く」
扉を開けると、わ、何これ。初めてみるふわっとしたスカート姿。髪もふんわりとまとめてあって、普段のぴしっとした感じと全然違う! 可愛い……。
「お、フォロウ。今日は決まってるね!」
「ゆ、夢美さんこそ……」
「にひー。気合入れて買った甲斐があるわー」
この日のためにわざわざ……?
「あ、そうだ。映画だとこういう時のお決まりの台詞があるんだ」
「どういうの?」
「待ち合わせの場所、随分前から準備して、女の子は待ってるの。そこに男の子が来て、先に来てる女の子を見て聞くのよ。さ、何て聞くんだと思う?」
「え、えっと……」
急に聞かれても……。
「えっと、ごめんね、どれ位待たせちゃった?」
「んーん、今来たとこ」
わ! そんな嬉しそうに笑われると、し、心臓が!
「え、でも何で? いっぱい待ってたんでしょ?」
「そんなの決まってるじゃない。好きな相手に気を遣わせたくないし……」
え、僕の手を、夢美さんが、握って……!
「待った時間は会えた瞬間に嬉しさに変わるからよ! さ! 行こっか!」
夢美さんに手を引かれ、僕はちょっとつんのめるようにして歩き出す。
胸の高鳴りは、強くなっていくばかりだ……。
読了ありがとうございます。
はい。予想通りフォロウ君は初心です。
実家で姉二人妹二人からバレーボール以上に「弟のくせに」スパイク、「お兄ちゃんでしょ」レシーブを受け続け、冒険者仲間だったタッカビーシャ様が美人でナイスバディなのに性格がアレだった事で、恋愛や結婚に希望を持てなくなっていました。
過去形です。ふふふ……。
二人の初デートの行方は!? 恋物語の映画は完成するのか!? そしてフォロウの胸の高鳴りの結末は!?
次回本編最終話『ハッピーエンドって何ですか!?』
お楽しみに!