呼び出しの理由は何ですか!?
家紋 武範様主催『夢幻企画』投稿作品です。
前話までのあらすじ
異世界『ニホン』から来た夢美のアドバイスで、自身の魔法で映画を再現した幻術師のフォロウ。
異世界初の映画上映は大成功を収めたが、地元の興行の元締め、グレ一家に目をつけられてしまった。
屋敷に招かれた二人の運命は?
それでは『呼び出しの理由は何ですか!?』
お楽しみください。
「よお。呼び立てて悪かったな」
グレ一家のお屋敷の応接間。
立派な、かつ威圧的な調度品に囲まれて、親父と呼ばれるヤーサ・グレさんは、僕らにそう言った。
「ま、楽にしてくれや」
出来ませんよそんな事ぉ! このまま半日もいたら、僕の心臓が持ちません!
「お招きに預かりまして、ありがとうございます」
夢美さんは全然平気そう! 何で!?
この人がどれだけ恐いか分かってないのかな!?
「本日はどのようなご用件で?」
「まぁ待ちな。酒を用意させてる。そっちの宴会を邪魔しちまったみたいだからな」
言い終わるのを待っていたかのように、若い男の人達がお酒を運んでくる。全員もれなく恐い。
「言うのも何だが良い酒だ。遠慮なくやってくれ」
これ飲んだら顔が紫色になって泡吹いて死ぬやつでしょ!? やだやだ飲みたくなぁい!
「頂戴します」
「ゆ、夢美さん……!」
小声で制しようとしたけど、夢美さんは構わず口を付ける。
「あ、美味しい。フォロウも頂きなよ」
「えっ、あ、うん……」
更に杯を傾ける夢美さん。こうなったら僕だけ保身に走る訳にもいかない。
覚悟を決めて口を付ける。味なんか全然分からない!
「ほぅ……」
ヤーサさん! 何ですかその「よく飲んだな」って感じの呟きは! やっぱり何か入ってるのこれ!?
「ふぅ、ご馳走様です」
「へぇ、イケる口だな。もう一杯飲むかい?」
「嬉しいですけど、酔ってしまって大事なお話を聞き逃してしまうのも失礼なので」
「そうかい。じゃあ用件を話そうか」
何だか分からないうちに話が進んでる! 杯を置いて、二人の様子に固唾を飲む。
「エイガって言ったか? あれを観せちゃあくれないか?」
えっ? その為に私達を呼んだの? 本当にそれだけ? 観せれば帰してくれるのかな。それとも……?
「そうでしたか。……フォロウ、いける?」
「は、はい!」
「それでは上映させていただきます」
助かるのかどうかも分からないまま、魔法を展開する。今日三回目の映画が僕達を包み込んだ。
「成程ね……」
観終わったヤーサさんは、そう呟くと溜息を吐いた。
「いかがでした?」
「いやいや、面白かった。ダイガシーが血相を変える訳だ」
ヤーサさんが愉快そうに笑う。恐い。
ダイガシーさんって今日映画を笑いもしないで観ていたあの恐い人だよね? あの人が血相を変えたってどういう事!?
「このままじゃウチに来る旅の一座が全員食いっぱぐれるってな」
ひえええぇぇぇ! これは夢美さんの言ってた「脅威なら潰す」ってやつ!?
「旅の一座の得意な演目は?」
何訊いてるの夢美さん! 潰されちゃうよ!
「……英雄譚と悲恋ものだ」
「ではこちらの演目から外しておきます」
「……ったく、勘がいいとは聞いていたが、ここまでとはな」
あ、れ? ヤーサさんの恐い感じが消えた?
「勘は外れでした。てっきり私達に一家に入れと言われるかと思っていましたけど」
「何でもかんでも抱え込むと思われると、食い詰めた馬鹿どもが芸人を名乗って際限なしに押し寄せる。住み分けさえしてくれりゃ、好きにやってくれ」
「ありがとうございます」
そうか、ヤーサさんが目をかけてる旅の一座が、映画に取って代わられたら、グレ一家の面目が立たない。それで夢美さんは演目が重ならないようにすると答えたのか。
何この高度な交渉。全然ついていけない。
「それにお前さんならともかく、そっちの坊主はウチに三日もいたら死んじまいそうだ」
三日なんて買い被らないでください。半日で十分です。
「ま、何かあれば相談くらいには乗るからよ。話がついたところで、どうだもう一杯」
「いただきます」
親子ほど歳の離れた二人は、楽しそうに杯を合わせた。
ダイガシーさんに見送られ、僕達はグレ一家の屋敷を出た。
あぁ生きて屋敷から出られるなんて! 神様っているんだなぁ!
「あぁ、怖かったぁ……」
「そう? 話の分かる人だったじゃない」
「あ、うん、話せばそうだったけど、顔とか態度とか……」
「私が日本で相手にしてた連中と比べたら優しいもんよ」
ニホンってどんな世界なんだろう……。
「それにあれだけ話がスムーズに進んだのは、フォロウのお陰でもあるんだから」
「そ、そう? 映画、そんなにすごく喜んでたって感じじゃ無かったけど……」
「映画もだけど、お酒」
お酒?
「フォロウさ、ヤーサさんの事めちゃめちゃ怖がってたでしょ? 多分毒殺も疑ってたんじゃない?」
「え、あ、まぁ、ちょっと……」
「でもフォロウはそんな恐いお酒を飲んでくれた。あそこからヤーサさんの態度が変わったもん」
夢美さんを一人で死なせる訳には、って自棄で飲んだのが、いい方向に働いたのか……。
「あれが無かったら、映画を観るまでもなく、街から追い出されてたかもね。そっちの方がヤーサさんからしたら楽だし」
やっぱり恐いよー! 優しくなんかないよー!
「しかし悲恋はいいとしても、ヒーローものが使えなくなったのは痛いわー」
「あぁ、次回作?」
「そ。いっそ任侠ものにしちゃおうかな。ヤーサさん達を主役にしてさ」
「よく分からないけど、絶対やめた方が良いと思う……」
楽しそうにそう言う夢美さんに、すごさと頼もしさと、ちょっと危うさを感じる帰り道だった。
読了ありがとうございます!
ビビってる人の絞り出すような勇気が大好きです。ダ◯よりポ◯プなのです(笑)。
元締めに気に入られ、映画を妨げるものは何もなくなった。完成した新作。増える客足。正に順風満帆。
そんな二人に舞い込んだ一つの依頼が、新たな波乱を呼ぶ!
次回『この胸の高鳴りは何ですか!?』
お楽しみに。