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7/11

その恐い顔は何ですか!?

家紋 武範様主催『夢幻企画』投稿作品です。


前話までのあらすじ

異世界『ニホン』から来た夢美に、冒険者仲間からは評価されなかった自身の魔法を認められた幻術師フォロウ。

異世界の娯楽である映画を幻術で再現し、行った試写会は大盛況。いよいよ入場料を取っての本格上映と相なった。

果たして異世界初、有料での上映は成功するのか?


それでは第七話『その恐い顔は何ですか!?』

お楽しみください。

 試写会の翌日夕方。二回目の上映の日。


「な、何これ……」


 集会所の入口に詰めかけたのは、用意した椅子では明らかに足りない位の大人数!


「よっしゃ狙い通りぃ!」

「そうなの!?」

「試写会で前評判を釣って、上映でお金を得る! これが映画の集客の基本よ!」


 得意げに胸を張る夢美ゆめみさん。

 相変わらず分からない言葉は多いけど、お金を稼ぐ事に関しては、夢美さんは僕より遥かにたくさんの事を知ってる。


「さ、そうしたら、私がチケットを売るから、フォロウは集会室の入口でもぎりやって」

「も、もぎり?」

「そ。このチケットの右側を千切るの。左側はお客さんに持っててもらって」


 お昼からここに来て、お婆さんから紙とペンもらって何か作ってると思ったら、これだったんだ……。


「そうか。これがあれば、お金を払った人がどうかがすぐ分かる……」

「そゆこと。それにこの人数、一回じゃ入りきれないから、椅子のかずぶんと、立ち見でいいよってお客さん入れたら、後は三回目に回ってもらうわ」

「きょ、今日二回やるって事?」

「え、いけるの? お客さんが多い時は、明日にしよっかなって思ってたけど」


 相性のお陰で魔力の消費は少ないから、魔法の発動そのものには無理はない。

 こんなにも楽しみにされてる事が少し怖いだけ。

 でもわくわくしてるのも本当だ!


「……やろう!」


 夢美さんが嬉しそうに笑った。


「ありがと! じゃ、お客さん入れるよ! 立ち見のお客さんから入れるから、壁際に立ってもらって! 席に座らないように声かけて!」

「分かった!」


 入口の前で夢美さんが声を張る。


「大変長らくお待たせいたしました! これより上映となりますが、お席に限りがございます! 立ったままでも構わないという方は優先してご案内いたします!」


 朗々とした夢美さんの説明が心地よく響く。


「皆様のご愛顧にお答えしまして、な、な、何と! 本日は二回の上映を行います! チケットをお買い上げ頂けましたら、今からの回でも、ご用事を済ませて次の回でも、ご鑑賞頂けます!」


 すごい。入れなかった人は次に、だと不満が出るけど、自分で次の回でも選べるってなれば、不満も出にくい。


「まずは今回立ち見の方からご案内しますので、ご希望の方はこちらに! 次に、今回を席で見たい方はこちらに、最後に次回の鑑賞をご希望の方はこちらにお並びください! 順にご案内いたします! それではお並びください!」


 魔法で操られたように、人が並んでいく。すごい統率力。

 人を並べる事に子どもの頃から慣れてるみたいだ。


「ご協力ありがとうございます! では次回の方は後程お越しください! 立ち見の方からご案内いたします! 


 さばかれた人達が一列で入ってくる。よし、僕も頑張ろう!


「い、いらっしゃいませ!」

「昨日は来れなかったが、観た奴らはえれぇ褒めてたぜ。楽しみだ!」

「あ、ありがとうございます! い、いらっしゃいませ!」

「うちの嫁と子どもが観て来い観て来いってうるさくてよ。……そんなに面白いのかい?」

「み、観ていただければ……」

「そうかい? ま、期待してるよ」

「ありがとうございます! い、いらっしゃいませ!」

「……おう」


 何か恐い人混じってる! で、でもちゃんとやらないと!


「た、立ち見のお客様は、壁際でお待ちください! 席には座らないよう、お願いします!」


 夢美さんの説明のおかげか、皆従ってくれる。あの恐そうな人も。


「ざ、座席の方は、空いてるところにお座りください!」


 たどたどしい案内だったけど、無事席が全て埋まり、立って観る人も場所を決めたようだ。

 夢美さんが入口から戻って来た。


「お待たせいたしました! それではこれより『人類対大怪獣』を上映いたします!」


 わ、まだ始まってもいないのに拍手が!


「ご期待されている方も多いようですね! ありがとうございます! それでは早速始めましょう!」


 よし、自信を持つんだ! 恐い人もいるけど、きっとこの映画は皆を喜ばせられるはずだから!




「お疲れ様! かんぱーい!」

「か、かんぱーい」


 二度の上映を終えて片付け後、入場料から集会所のお婆さんに使用料を払った夢美さんに、


「打ち上げ行こう!」


 と言われ、酒場へと移動した。


「ぷはー! 日本のより苦味が強いけど、こっちのビールもいけるね!」

「夢美さん、お酒飲めるんだね」

「そりゃ私二十一だから」

「えっ!?」


 うそ! 一つ年上!? 幼い顔立ちで背も低いからてっきり年下だと思ってたのに!


「そんなに意外?」

「う、うん……」

「まぁそりゃ化粧しないと童顔だし、こんな貧相な身体じゃ子どもっぽく見られるよね。セーラー服とか着たら女子高生どころか中学生だよ! あっはっは!」

「えっと……」


 よく分からない言葉が並ぶけど、何となく同意しちゃいけない気がする。話題を変えよう。


「そう言えば、最初に入れたお客さんで、ずっと恐い顔して観てる人がいたんだ」

「……へぇ」

「楽しんでもらえなかったのかな……。それがちょっと気になってて……」

「あぁ、それ多分違うよ」

「違う?」


 夢美さんが麦酒をぐいーっと空ける。


「多分その人スパイ……、あー、密偵だと思うよ。思ったより早かったなー」

「え、何!? どういう事!?」

「ここら辺で娯楽とか興行を仕切ってる人達、いるでしょ? 恐ーいお兄さん達いっぱいのところ」

「ぐ、グレ一家いっか!?」


 この辺りで大きな酒場と賭博場と娼館を持っていて、旅芸人にも顔が効いて、恐い人がいっぱいって言ったら、あそこしかない!


「多分そこ。断りもなく始めた興行、しかも前代未聞の出し物とあれば、黙ってないよね」

「さ、探られてたって事?」


 血の気が引くのがはっきり分かる! グレ一家に目を付けられたら、この町じゃ生きて行かれない!


「うん。で、脅威だと思われたら潰しにくるし、使えると思われたら抱き込まれる。今日の帰りには、いや、判断が早ければそろそろお迎えが来るんじゃない?」

「勘のいい女だな」


 ひえっ!? 気が付けば恐い人達がずらり!


「お察しの通り、俺はグレ一家のダイガシーだ」


 さ、さっきの恐い人!


「うちの親父がお前達の顔を見たいと言ってる。着いてきてもらうぜ」


 故郷のお父様お母様、先立つ不幸をお許しください……。

読了ありがとうございます!


お金の単位と貨幣価値の調整が面倒だったので書きませんでしたが、夢美がフォロウに平均月収と日用品の値段を確認して一人千円くらいの料金にしています。子どもは半額。これなら庶民にも安心。


打ち上げを楽しむ二人に迫るグレ一家いっかの影! 娯楽を取り仕切るという彼らの目的は?

フォロウと夢美は無事に帰る事が出来るのか!?

次回『呼び出しの理由は何ですか!?』

お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フォロウくんまさかの20歳。 純朴だからもっと下かと思ってました。 グレ一家、グレーゾーンで稼いでそうな一家ですね、トップの頭は良さそう。 [気になる点] 上手く言いくるめられれば強力な…
[一言] 夢美さん、二ホンで何の仕事に就いてたの? 怖い人が来ることも、織り込み済みって……。 元芸能マネージャーか何かだったのかしら?
[一言] これは怖いですね。 でも、夢美さん、度胸が座ってますね。
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