この反応は何ですか!?
家紋 武範様主催『夢幻企画』投稿作品です。
前話までのあらすじ
異世界からやって来た夢美に、自分の魔法の可能性を見出された幻術師フォロウ。
言われるまま作り上げた異世界の娯楽『映画』を、多くの人に見てもらおうと提案されてフォロウは戸惑うが、話はとんとん拍子に進み、試写会の幕が上がった……。
それでは第六話『この反応は何ですか!?』
お楽しみください。
倒れた竜に光が差し、惨劇の終わりを告げた。
皆を守るために竜の口に飛び込んだ男の笑顔が、涙で見上げる町の人の目に浮かび上がった。
「……ふぅ……」
やっぱり面白かった。でもお客さんの反応が気になって、今回は昨日ほど楽しめなかったな。
会場は、と見ると、皆黙ったまま動かない。怒ってるのかな……。
……ぱち。……ぱち。
ん?
……ぱちぱち。……ぱちぱちぱち。
んん!?
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち!
うわわ! 会場の全員がすごい勢いで手を叩いている!
「面白かった!」
「感動したよ!」
「おじちゃんかわいそうー!」
「また観たい!」
「最高だったぜ!」
うわ、うわぁ……! す、すごい、皆こんなに喜んで……!
「ね? 言った通りでしょ?」
いつの間にか横に来ていた夢美さんに肘でつつかれ、はっと正気に戻る。
「うん、夢美さん、すごいや……!」
「フォロウがすごいのよ」
鳴り止まない拍手の中、夢美さんがうやうやしくお辞儀をした。僕も慌てて同じようにお辞儀をする。
拍手はまだ鳴り止みそうになかった。
しばらくざわざわしていたお客さんが帰った後、夢美さんと二人で椅子の片付けと掃除をする。
一通り片付けて受付に終了の報告をすると、
「いやー! 素晴らしかったよぉ! いいもん観してくれてありがとねぇ」
「こちらこそ会場を貸して頂き、ありがとうございました」
受付のお婆さんが、夢美さんの手を両手で握って上下にぶんぶんした。
「あんたもすごいね! 幻術ってあんな事まで出来るんだね!」
「あ、あの、どうも……」
僕の手もぶんぶんやられる。ちょっと痛いけど嬉しい。
「二度目は金取るって言ってたけど、という事はまたやってくれるのかい!?」
「えぇ、今度は本上映で、お客さんから入場料を頂きます。今回の会場費はその時にお支払いしますので」
「いいよぅ! 別に何も用事はなかったんだから!」
目が輝いてる。お昼の時の胡乱な目が嘘のようだ。
「それよりまだ観てない奴らに観せてやりたいからさ! 明日の夕方、もう一回頼めるかい?」
「フォロウ、どう?」
「あ、はい、出来ると思います」
「分かりました。では明日またお昼過ぎに準備に伺います」
「待ってるよ!」
お婆さんに見送られ、僕と夢美さんは集会所を出た。
すると、
「……おねーさん」
「あの、すみません、お忙しいでしょうに」
あれ? 子ども? お母さんが申し訳なさそうに頭下げてるけど、何だろう?
「あ、さっき観てくれた子だね。どうしたの?」
「ねー……。あのおじちゃん、しんじゃったの……?」
「え……?」
あ、子ども涙目だ。
「あ、いや、その、えーっと……」
夢美さんも困ってる。さっきの堂々とした様子とは別人のようだ。
「すみません、うちの子、あのエイガ?というのがすごく気に入ってしまったみたいで、どうしてもあの男の方がどうなったのか聞きたいと……」
「おじちゃん、いきてるよね? おうち、かえれるよね……?」
「あ、あの、あれはフィクションだから、その……」
子どもが今にも泣き出しそう。夢美さんも困ってる。
僕は急いで魔法を構築して展開する。何となく考えていた、あの結末の先を。
『ふー、やれやれ。死ぬかと思ったぜ』
竜の口から顔を出す男。
『あなた……!』
『おとーさん!』
皆が英雄の元に駆け寄る。
妻と抱き合い、子どもを抱き上げる。
幻ではない笑顔がそこにあった。
「おにーさん、ありがとう!」
「ありがとうございました!」
機嫌を直した子どもと母親が手を振る。良かった。
「フォロウ」
「……は、はい……」
「今の結末……、あれは昨日のうちに作ってたの? それとも子どもが泣きそうだから今作ったの?」
「え、あの、今……」
あれだけ細かい作りにこだわっていた夢美さんだ。急拵えはやっぱり不愉快だよなぁ……。
「すごいじゃん! エンディングテロップの後のどんでん返しみたいでさ!」
え……? 喜ん、でる……?
「しかもそれを子どもが泣きそうだからって理由ですぐ作れるって、技術もそうだけど心意気がいいね!」
「そ、そんな事……」
こんなに面と向かって褒められるの、いつぶりだろう……。
「私は自分の観たいものしか頭になかったけど、フォロウは観る人の気持ちに寄り添っていた。そんな人と一緒に映画を作れた事、嬉しく思うよ」
……それは僕が言いたい事だ。
夢美さんが僕の魔法の可能性に気付いてくれたから、今日の充足感があるんだ。
ありがとう、夢美さん。
「僕の方こそありが」
「さ! そしたら次回作作らないとね!」
へ……?
「え、あの、明日やるのは今日と同じやつだよね?」
「そうよ」
「じゃあ何作るの!?」
「だから次回作。同じのじゃすぐ飽きられるからさ。今度は怪獣と怪獣を戦わせるか、それとも最初の案のヒーローものにするか、路線を変えて悲恋ものとか?」
うきうきと話す夢美さん。
そうか、まだここで終わりじゃないんだね。感謝の言葉はまだしまっておこう。
あの作業を思い返すと溜息が出そうになるけど、でも僕もちょっとだけわくわくしていた。
読了ありがとうございます!
やっぱり物語はハッピーエンドじゃなくちゃね!
あ、このお話はまだ続きますよ! ブックマークの解除なんてまだ早い(笑)!
いよいよお金を取っての上映会。
無料だから集まった試写会と違い、見たこともないものにお金を払って人は集まるのか?
そしてお客さんの反応は?
次回『その恐い顔は何ですか!?』
お楽しみに。