試写会って何ですか!?
家紋 武範様主催『夢幻企画』投稿作品です。
前話までのあらすじ
役立たずと冒険者仲間から追放された幻術師フォロウが、偶然助けたのは『ニホン』からの異世界転移者、夢美だった。
冒険者としては役に立たなかったフォロウの魔法に可能性を見出した夢美は、共に完成させた幻術による映画を多くの人に観せようと提案したのだった。
それでは第五話『試写会って何ですか!?』
お楽しみください。
「ここが集会所ね!」
「……うん」
時間は昼過ぎ。
僕と夢美さんは、集会所の前に立っていた。
一晩考えた結果、酒場は気性の荒い人もいるし、子どもにも観せるなら、旅の劇団とかが時々上演する、町の集会所の方が良い、と話すと、夢美さんは納得してくれた。
助かった。酒場よりは大分怖くない。でも……。
「ほ、本当に行くの?」
「当たり前じゃない! せっかく作品が出来たんだから、人に観てもらわないともったいないじゃん!」
「そ、そうかなぁ……」
確かに夢美さんと作った映画の幻術は、面白かったし感動もした。
でもそれが大勢の前で同じように喜んでもらえるかは分からない。ましてやお金を貰うなんて……。
「それとも体調良くない? 昨日無理させちゃったからさ。魔法が使えないとかなら、また別の日にするけど」
「い、いや、寝れたから大丈夫」
昨夜はベッドを夢美さんに使ってもらって、僕は椅子で寝たけど、早朝に起きた夢美さんが、
『あ! ごめん! 私ベッド占領しちゃって! 今からでもこっちで寝て! MP回復しないでしょ!』
とベッドで二度寝させてくれたので、身体は元気。
『エムピー』って何だか分からないけど。
「よし! じゃあ行こう!」
「うん……」
張り切る夢美さんに続いて、僕も集会所の入口をくぐった。
「エイガ? 何だいそりゃ?」
受付のお婆さんが胡乱な目を向ける。
うん、そうだよね。それが普通の反応だよね。
「映画って言うのは、この世界でまだ誰も観た事がない最っ高のエンターテインメントですよ!」
「え、えんたー? 何じゃそりゃ?」
「論より証拠! フォロウ、予告編観せてあげて!」
「は、はい……」
昼前に起きてから言われるままに作った、『ヨコクヘン』という短い方の物語を展開させる。
「な、何じゃ!? りゅ、竜が、町を! あぁ! 燃えている! 戦士も、魔法使いも蹴散らされて……! さ、最後の希望!? よ、よせ! 一人で竜に突っ込むなど! あぁ!」
男が竜に突撃する場面で、大きな口が迫った瞬間、お婆さんが手で顔を覆った。ここで『ヨコクヘン』は終わり、と。
「……あぁ……」
お婆さん震えちゃってるよ! やっぱりこれ駄目だ!
夢美さんの方を見ると、あれ? にこにこしてる?
「どうですか? 続き、気になりません?」
「気になる!」
うわ! 凄い反応! 竜よりびっくりした!
「これはどえらいものを持って来たのう! 今までの演劇や吟遊詩人の語りが子どもの遊びに見えるわ!」
「でしたらここで上映してもよろしいですか?」
「勿論じゃ! 今から人を集めて、そうじゃな、夕方からやれるか!?」
「はい。よろしくお願いいたします」
決まっちゃった!
夢美さんが僕に向かって指を二本立てる。『ニホン』の風習かな? 表情からして『やったね!』って意味っぽいけど。
「そうじゃ、普段劇団や吟遊詩人にはいくらか金を払っておるが、報酬はどうする?」
「今回は試写会なので、結構です」
え!? お金貰うんじゃないの!? 『シシャカイ』って何!?
「良いのかい?」
「その代わり、二回目以降は、観る人一人ずつからお金を集めます」
「成程、あんた、商人だね」
「似たようなものです」
夢美さんとお婆さんが、何か通じ合ってる。
「じゃあ集会室は好きに使っておくれ。あたしはこれから片っ端から声かけて来るから」
「お願いします」
よく分からないけど、『トビコミデノエイギョウ』って凄いんだなぁ。あっという間に話が決まっちゃった……。
「さ、準備しよ! 椅子並べて、場所作らないと」
「は、はい!」
呆然とする僕の背中が、夢美さんに叩かれる。
そうだ、やると決まったからには、しっかりやらなくちゃ!
……何て言われるのか分からないのが、かなり怖いけど……。
夕方。
集会室には十数人のお客さんが集まっていた。
僕としてはあまり多くなくて安心したけど、夢美さんはがっかりしてないかな……。
「すまんかったね。大分声かけて回ったんだけども……」
「いいえ、急な話ですし、十分です」
気にしてる様子は無さそうだ。
「さぁ皆様! 本日はお忙しい中お集まり頂き、まことにありがとうございます!」
わ! すごい通る声! 大声って感じじゃないのに、全員がお喋りをやめて夢美さんを見た!
「今ここに集まられた皆様は本当にラッキー! 今まで誰も見た事のない最高の出し物を、その目で、耳で、味わう事が出来るのです!」
わわ! 皆の目が輝き始めた!
「異世界から伝わった最高の娯楽の一つ、その名は映画! さぁこれからの時間、たっぷりとお楽しみください!」
わわわ! そんなに持ち上げないで!
「本日その映画を上映いたしますのは、幻術師フォロウ・ワンダー!」
いやぁ! 名前を呼ばないでぇ!
「これから皆様の前には魔法による驚きの映像が流れますが、身体には影響ありませんのでご心配なく! ただ興奮で夜眠れなくなっても、当方では責任は負いかねます! 眠り薬のご用意を!」
笑い声がしてちょっと会場の空気が和んだ。すごいな夢美さん……。
僕の緊張も少しほぐれた。
「では始めましょう! 映画『人類対大怪獣』! どうぞ!」
夢美さんの合図で、会場全体に準備していた魔法を展開する。
お願い、少しでも楽しんでください……!
読了ありがとうございます。
えぇい! 営業のコミュニケーション能力は化け物か!
夢美の営業力は、日本でもチートレベルです。
いよいよ始まる試写会。
映画を何も知らない異世界の人に、果たして怪獣ものの面白さは伝わるのか!?
次回『この反応は何ですか!?』
お楽しみに。