全米が泣いたって何ですか!?
家紋 武範様主催「夢幻企画」投稿作品です。
異世界『ニホン』からやってきた夢美に幻術の可能性を教えられ、映画を作る事になった幻術師フォロウ。
冒険者仲間に追放され、幻術の意味を見失いかけていたフォロウにとってそれは救いだった。
しかし映画を全く知らないフォロウは、夢美の求める『怪獣もの』を作り上げることが出来るのか?
それでは第四話『全米が泣いたって何ですか!?』
お楽しみください。
「こ、これで、完成、ですか?」
「うん! すごく良くなった! 面白かったよ!」
へろへろの僕と対照的に、とてもつやつやしている夢美さん。昼前から食事とトイレ以外はずっと幻を見ながら修正をし続けて、もう日も暮れたというのに元気だ……。
「もう一回最初から観ていい?」
「……いい、ですけど……」
まだ観る気力があるの!? その熱意はどこから来るんだろう。ちょっとげんなりしながら魔法を発動させる。
広域爆裂魔法の実験によって目を覚まし、町に現れた竜。
破壊される家、燃える町、逃げ惑う人々。
魔法使いや屈強な戦士達が立ち向かうが、歯が立たない。
『もう駄目だ……。お終いだ……』
絶望が町を覆う。死を受け入れ始める人もいる。
国は賢者達を集めて対策を練る。錬金術師達が研究を重ねる。
そして出来上がった、竜の体内の炎を消し、動きを止める薬。
しかし、誰がそれを竜の口に入れる?
『俺がやろう』
一人の男が手を挙げる。飛翔魔法の使い手だ。
家族は泣いて縋る。生きて帰って来れないと分かっていたから。
それなのに男は笑う。
『泣くな。俺の魂はお前達の未来と共に生きてる』
薬を抱え、飛翔する男。
迫り来る炎を躱す、躱す、躱す。
『お前なんぞにあいつらの未来はやれねぇよ』
炎の隙間を縫って、竜の口に飛び込む男。
竜がもがき、天を仰ぎ、その巨体が倒れる。
惨劇の終わりを示すように、雲が晴れ、光が差し込む。
皆が涙して見上げる空には、男の屈託のない笑顔が浮かび上がっていた。
「……はぁ……」
自分が作った幻術にどっぷりハマってしまった……。
作ってる最中は夢中で気づかなかったけど、これ、すごく面白かった! これが夢美さんの言う映画なんだ……。
「……うぅ、ぐすっ……」
夢美さん、泣いてる!? 慌ててハンカチを差し出す。
「夢美さん、あの、これ、使って」
「……ありがと」
ハンカチに顔を埋める夢美さん。何と声をかけていいか分からない。
「……ふー、スッキリした。ありがとね」
「!?」
顔を上げた夢美さんの顔が、何だか幼くなってる!? 若返りの魔法!?
「あ、化粧はげちゃった。ちょっと顔洗わせて貰っていい?」
「あ、うん、洗面台は、そっち……」
「ありがと。借りるね」
夢美さんはさっと立ち上がると、ぱたぱたと寝室を出て行く。お化粧だったのか、あぁびっくりした。
僕の知ってるお化粧って、一目でそうと分かるものばっかりだった。『ニホン』って別の世界なんだなと改めて思う。
「お待たせ。ごめんね、びっくりしたでしょ」
「う、うん、急に泣いたから……」
お化粧に驚いたとは言いにくい。
「そりゃ泣くよ! やっぱり主役は若い男より渋いおっさんだよね! 守るべきものがある人が命懸けで危機に挑む! そして皆を守って死ぬ! こんなの泣くじゃん!」
最後に男が竜の口に突撃する展開を強硬に主張してたの、夢見さんじゃないか……。破滅願望でもあるのかな……。
「とにかく最高! これは売れるよ!」
「え? 売れる?」
あれあれ? 知ってる言葉なのに意味が分からない。売れるって何? 何を売るの?
「だからこれを上映……、人からお金貰って観せるんだって」
「……へ?」
え、こ、これを、人に、観せる!?
「ストーリーはベタだけど、この映像と音の迫力なら、全米が泣いた!も狙える!」
「言ってる事が何一つ分からない……。これを他人に観せてお金貰うなんて無理だよ……」
「無理かどうかはやってみなきゃ分からないって! フォロウの魔法、凄いんだから!」
何でこんなに僕の魔法を評価してくれるんだろう……。嬉しいけど。
「異世界で人が集まるっていったら、やっぱり酒場!? 時間も夜だし、行ってみよう!」
「え、いや、夢美さん、今日こっちに来たばっかりなのに、もう少しこの世界に慣れてからでも……」
「大丈夫! 飛び込みでの営業には慣れてるから!」
「『トビコミデノエイギョウ』って何ー!?」
勢い込む夢美さんに、
「こんな酒場が忙しい時間に行っても取り合ってくれない」
「明日昼間の暇な時間に行こう」
「異世界から来て疲れてるだろうから今日は休もう」
と必死に説得して、今日のところは納得してくれた。
「じゃあまた明日、おやすみ」
そう言うと夢美さんはベッドに横になって一瞬で寝た。早い!
疲れてるとかじゃなく、すぐ寝てすぐ起きないといけない仕事、例えば兵士とかの寝方だ。
「……ぐぅ……、ぐぅ……」
子どもみたいに寝顔はあどけないのに、きっと過酷な生き方をしてきたんだろう。
今夜くらいはゆっくり寝ていてほしい。
……それは良いとして、僕、どこで寝よう……。
読了ありがとうございます。
おっさん主人公好きは私の趣味です。裏であれこれ考えていながら表には出さず、いざって時に真意が明かされるって良いですよね!
無事に完成した映画。しかしそれを人前で上映する事に不安を覚えるフォロウ。夢美は大丈夫と背中を押すが、異世界初の映画上映は叶うのか?
次回『試写会って何ですか!?』
お楽しみに!