怪獣ものって何ですか!?
家紋 武範様主催『夢幻企画』投稿作品です。
【前回までのあらすじ】
不思議な光に包まれていた女性を保護した幻術師フォロウ。目を覚ました彼女から事情を聞くと、『ニホン』という世界からやって来た異世界転移者で、夢美と名乗った。夢美はフォロウの魔法に大いに興味を示して、こう言った。
「ねぇ、映画作らない!?」
それでは第三話『怪獣ものって何ですか!?』
お楽しみください。
「ね、映画、作ろうよ! 絶対楽しいからさ! ね! ね!」
「と、とにかく一旦落ち着いて。ほら、水飲んで」
僕は迫る夢美さんを落ち着かせるべく、水を勧める。
「あぁ、ありがと。……ぷはー! 美味しい!」
少し落ち着いた夢美さんに、とりあえず分からない事を聞いていこう。
「あの、そのエイガって何ですか?」
「あ、そうね。この世界にはないもんね。えっと、私の世界の娯楽の一つなの」
「娯楽……」
「映像と音で、物語をつづるもの、かな?」
「成程……」
考えた事もなかった。幻術を娯楽に使うなんて……。
「フォロウの幻術って、すっごいリアルだから、とんでもない作品が出来ると思うのよね!」
僕の幻術にこんなに感激してくれた人がいただろうか。ここまで買ってくれる人がいただろうか。
冒険者としては行き詰まっている僕だ。この世界に来たばかりの夢美さんのやりたい事を手伝うくらい、やってもいいかな。
「分かったよ。僕で良ければ」
「ありがとう!」
「で、どんな物語を作りたいの?」
「うーん、色々あるけど、最初は大人も子どもも大好きな、怪獣ものかな!」
また分からない言葉が出てきた……。
「それ、どんな話なの?」
「町に巨大な怪獣が現れてね? 家を踏み潰したり、熱線を吐いて町を燃やしたり大暴れするの! で、逃げ惑う人の中、勇気ある人が立ち向かって、怪獣を倒したり、追い返したりするの!」
ところどころ分からない言葉はあったけど、竜退治の物語と似てる感じだなぁ。
「うーん、何となく、分かった、かな?」
「ちょっとやってみて!」
言われるままに、僕は魔法を展開する。
「おお! 凄い! 竜だ! 行け! 町をぶっ壊せ!」
何か物騒な事を言ってる……。
死ぬほど仕事させられてたと言っていたし、鬱憤が溜まっているのかな。
「凄い! 火を吹いた! 燃えてる! ひゃっほー!」
大丈夫かなこの人……。
あんまり興奮させ過ぎても怖いし、そろそろ英雄を出そう。
『そこまでだ! 悪い竜め! 私が成敗してくれる!』
英雄の剣が光り、竜を切り裂く!
『これでこの町にも平和が戻った! また何か危機があったら呼ぶがいい! 私はいつでも駆けつける! さらばだ!』
颯爽と立ち去る英雄。
うん、ありきたりだけど悪くないなぁ。
夢美さんは……。
「……違う」
「えっ」
あれ? 何か不機嫌そう!
「こういうのじゃなくて! 怪獣を倒すのは、あくまで普通の人で、特別な力じゃなくて知恵を絞って戦うのがいいの! 勝てる保証もない中で、必死に活路を求める、そういうのが怪獣ものの醍醐味でしょ!?」
「そ、そうなんだ……」
よく分からない……。
「そこ修正して、もう一回観せてくれる?」
「う、うん、分かった」
「後、建物が壊れる時に、家具の破片とかも混ぜて欲しいな。そこにあった生活が壊されたって感じが欲しいの」
「……はい……」
もしかしてとんでもない事を引き受けちゃったんじゃないかな……。
期待した目を背中に感じつつ、僕は溜息を吐きながら、新たに魔法を構築した。
読了ありがとうございます。
はい、皆大好きゴ○ラです。全く映画のない世界での第一作目なら、やはりパワーのあるこれかな、と。
意外と細かい演出までこだわってくる夢美! フォロウは見たこともない映画を完成させる事が出来るのか!?
次回『全米が泣いたって何ですか!?』
お楽しみに!