ハッピーエンドって何ですか!?
家紋 武範様主催『夢幻企画』投稿作品です。
前話までのあらすじ
異世界ニホンから来た夢美のお陰で、魔法による映画の興行に大成功した幻術師フォロウ。
客からの希望で恋物語の映画を作る事となり、恋愛経験のないフォロウのために、デートを提案する夢美。
二人のデートの結末は? そして恋物語は完成するのか?
それでは最終話『ハッピーエンドって何ですか!?』
お楽しみください。
「フォロウ。この置物可愛いね」
好み、独特だね……。
「あ、そっち一口ちょうだい」
は、半分持っていかれたー!
「あそこのベンチで休憩しよ。飲み物買ってくるねー」
何で躊躇いもなくお酒買ってるの!?
「甘い物は別腹ですわー」
七個目……。
夢美さんとの逢引きの練習は、知らない事ばかりで戸惑って、驚かされて、振り回されて、とてもとても楽しい!
気が付けば夕方。あっという間の一日だった。
「あー、楽しかった!」
「僕も楽しかった」
「良かったー」
まただ。夢美さんが笑うのを見るたびに、胸が締め付けられるように痛む。
何だろう。何かをしなきゃいけないような焦りが身体の奥から込み上げる!
「ん? どしたの?」
「な、何でもないよ」
「なーんか隠してるなー?」
腕に抱きつかれる! 胸の痛みと心臓の鼓動がより強くなる!
「白状しろー!」
「な、何でもないったら!」
「むー、強情だなー」
腕をつかんだまま、夢美さんは僕を引っ張っていく!
人通りのない路地で、夢美さんは止まった。
「フォロウ」
「な、何?」
「教えてくれないなら、ちゅーしちゃうぞー」
「な、何、ちゅーって」
「キス」
な、何それ?
「く・ち・づ・け」
くちづけ。……口づけ!?
「な、ななな、何言ってるの!?」
「嫌なら秘密を話しなさーい。何か困ってるんでしょー?」
はい困ってます! 今は主に夢美さんのせいで!
「に、ニホンでは当たり前なの!? こういうの!」
「えー、まぁ、ありきたりかなー」
ありきたり!? 何て恐ろしい世界なんだニホン!
「ゆ、夢美さんはした事あるの!?」
「ないよー」
な、何かほっとする。
「な、なら結婚する相手に取っておいた方が!」
「でも映画のラストシーンにはキスは不可欠だしさー」
……え?
「映画の、ため?」
「そうだよ。経験しといたら再現するのも楽でしょ?」
……頭が真っ赤になった。
何を言ってるんだこの人は。
あぁそうかそうか。この逢引きもそのためだもんな。
馬鹿だった。浮かれていた。
夢美さんも楽しんでくれてる、なんて幻だった。
幻術師が幻に踊らされるなんて、これ以上に滑稽な話もない!
「……帰ろう」
「え、フォロウ?」
戸惑う夢美さんの方を見もしない。大股で路地を出る。
「待ってフォロウ! 怒らせちゃった!?」
追いかけてくる声を振り払うように足を早める。
「待ってって! ごめん! 調子に乗り過ぎた!」
後ろから聞こえる足音が走るそれに変わる。
「お願い! 話を聞いて! フォロウが悩んでる事があるなら、何か力になりたいって思って! 聞き方が悪かったのは謝るから!」
つかまれた手を強引に振り払う。
「っ!」
瞬間、見えてしまった。親に叱られた子どものような、小さく弱い夢美さんの姿が。
「……何で」
頭の中の赤い怒りが口からあふれ出す!
「何でそんなに自分を大事にしないんだ!」
流れ出した言葉は止まらない!
「映画のため! 皆のため! 僕のため! 夢美さんは必死に働いて! 頑張って! 自分のものを惜しげもなく差し出して! なのに僕からは何もあげられなくて!」
「ふぉ、フォロウ……?」
「悔しいよ! もっとやりたい事をやらせてあげたい! 楽しい事を味わってほしい! 今日だってそうなればいいなと思っていたのに、やっぱり映画のためで!」
「フォロウ、あの……」
「君に幸せになってほしいんだ! これまで頑張ってきた分報われてほしいんだ! なのに君は頑張り続けて、無理し続けて……! 胸が苦しくなるんだ!」
「……」
「僕に出来る事は何だってする! あげられる物は全てあげる! どんな困難にだって立ち向かってみせる! だから、だから……!」
最後の赤いひとしずくがこぼれる。
「自分を大事にしてよ、夢美さん……」
怒りが僕の支えだったみたいに、力が抜けて膝をつく。目から涙があふれる。駄目だ。僕がこんなだから夢美さんを頑張らせてしまうのに……。
「立ってフォロウ」
硬い声。怒ってるんだろうな……。
のろのろと立ち上がる。
「顔上げて」
言われるままに顔を上げると、すごく真剣な顔をした夢美さんが僕を見ていた。
手が頬に置かれて引っ張られ、思わず目をつぶる。
あぁ、一発や二発で済めばいいけど……。
「!?」
痛みは来なかった。
代わりに唇に柔らかい感触が……。
目を開けると、夢美さんの顔が目の前にあった。
怒ったような、泣き出しそうな顔で僕と唇を重ねる夢美さん。
今まで見たどの顔よりも、可愛くて、綺麗だと思った……。
「誤解のないように言っとくけど、私、仕事は好きなの!」
「……はい」
「日本でのブラック職場と違って、頑張った分成果はもらえるし!」
「……はい」
「皆が喜んでくれるのが楽しくて仕方ないし!」
「……はい」
「ほしいものとか、したい事って、あんまり考えた事なかったから、映画にのめり込んじゃっただけだし!」
「……はい」
「自分を犠牲にしてるなんて考えた事もなかったし!」
「……はい」
「聞いてる!?」
「……はい」
僕の手を引く小さな夢美さんの頭が揺れてる。
怒ったような声が優しく頭に響く。
手の温かさと柔らかさが、辛うじて僕の身体を支えていた。
「あと! もう一つ!」
気が付けば部屋の扉の前だ。ふわふわしているうちに着いちゃった。
「わ、私は、映画のためだけに、今日一日デートしたわけじゃないから……!」
僕を見つめる夢美さんの顔は、もう夕陽も沈んだのに真っ赤なままだ。
「この世界に来てから、助けてくれて、支えてくれて、一緒に頑張ってきたあなたが、あなたが大好きだから! キスだって、されてもいいかなっていうか、されたかったからだから!」
キス!
その言葉に頭がのぼせたように熱くなる!
「あの、だから、その……、ひゃっ!?」
身体が自然に夢美さんを抱きしめる。
途端に僕の胸に満ちる安心感と幸福感。
あぁ、あの焦りはこうしたかったからなんだ。
「ありがとう、夢美さん。……大好きだよ」
「わ、私の方がもっと好き、だから!」
絡む視線。
僕は膝を曲げて、目をつむった夢美さんともう一度唇を重ねた。
「今度の映画、すごいわねぇ!」
「あの口づけ騒動を元に作られたんだってな!」
「こればっかりは、映画より直に見た衝撃の方がすごかったなぁ」
「でももう一回観るんだろ?」
「当たり前さぁ!」
あの後作り上げた恋物語の映画は、事前の騒動もあってか、すさまじい人気を博した。
……僕、市場の真ん中で、怒りをぶちまけちゃってたから、仕方ないと言っては仕方ないんだけど……。
恥ずかしいいいぃぃぃ! 何でこれを作品にしようって言えるの!?
「フォロウ、次の回、始まるよ」
「う、うん……」
作ってる間も僕だけ真っ赤になってて、夢美さんは全然平気そうだった。
ニホンってどんな所なんだろう……。
「さぁ! お待たせしました! 今日も皆様を切なく甘い恋の世界へご招待! おやおや? 何度か見た顔の方もいらっしゃいますね?」
会場がどっと笑いに包まれる。
「それでは解説はいりませんね! どうぞたっぷりとお楽しみください!」
魔法を発動する。
脚色はされてるし、登場人物の顔も違うけど、僕ら二人のこれまでが流れ、あの日の想いのぶつけ合いに繋がっていく。
「毎度毎度恥ずかしいなぁ……」
「そう? 私は気にしないな」
本当に全然気にしてない顔。だから何でそんなに平気なの!?
「だって、フォロウが導いてくれたハッピーエンドだもん。今まで見たどんな物語よりもお気に入りなんだから!」
その笑顔を見ちゃうと、何も言えなくなる……。
「フォロウ」
「何?」
「私、幸せだからね」
「僕もだよ、夢美さん」
どちらからともなく顔が近づき、僕らは口づけを交わした。
……僕はその日、初めて幻術の制御に失敗した。
映画は途中で途切れてしまい、さぞお客さんが怒るかと慌てのに、何故かすごい拍手をもらった。
「も、もう一回、だって。……どうする?」
「し、しませんよ!」
「……しないんだ」
「そもそもこういう事は結婚する時にするもので……」
突然、夢美さんが頬を押さえて真っ赤になった。
「結婚、してくれるんだ……!」
突然静まり返る会場! もう! 何でこんな時だけ!
……言わなきゃ、収まらないよな……。
「……夢美さん」
「は、はい!」
「……僕の妻になってください」
「……喜んで!」
会場はどの映画よりも大きな拍手と歓声に包まれた……。
読了ありがとうございます。
はい! 甘々ハッピーエンドでございました!
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます!
『夢幻企画』のお陰で、また自分の幅が広がったと思います!
……オチが甘々ハッピーばかりじゃないかって?
ち、違うんです! いや違わないけど、今までは完結してない小説は投稿しない主義でしたから!
完結できるかドキドキしながら書く楽しさを味わせて頂きました!
書こうかどうか迷っていた作品も形に出来ました!
家紋 武範様、ありがとうございます!
……まだ完結になってないですって?
最後におまけの一話がありますので、追放もののお約束、カーテンコールとしてお楽しみください。




