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第七十八話『ニアミス その3』

「恋愛なんて、嫌いだぁ」

「ええ、私もこと恋愛においては痛い目ばかり見ます」



 アンタの人生のどこに恋愛する暇があったんだ?

 そんな視線を、冥花は完全に無視した。


 気を取り直して、ハヤトはまた空を見上げた。



「……前いた世界ってさ。 結構過酷だったんだよな。 しょっちゅう人は死ぬし、街を焼かれるし、いるはずの神様は戦争の火種になるばかり、食料がねぇわ魔物が毎日のように襲ってくるわ戦争はするわの、何かもう、生きるだけで精一杯の世界でさ」

「前に言っていましたね。 でも、あなたは人類のために尽力したとか」

「まぁな。 でも、人間といえばどいつもこいつも最低な連中ばっかりだったよ。 生きるのに必死だった奴らは、本当に不条理で理不尽だった。 そんな中で、俺が唯一信じられたのが、愛だったわけだが」



 ハヤトよりも小さく、それでいて力強かった一人の王女の顔が思い浮かぶ。

 彼女と結ばれた愛の感情は、あの過酷で醜かった世界で唯一の美徳だった。



「その感情のおかげであの世界を信じ抜けたと思う。 ……ただ、俺がそう思えたのは、それが向かい合っていた愛だったからんだろうなぁ」



 ハヤトは頭を掻いて唸る。



「今になってみれば、愛情ほど理不尽で過酷なものはない。 尊ぶべきなのに、一歩間違えたらこれほどに難しい感情はない。 ……どうすりゃいいのか、分かんねぇよ」

「……まだまだ、青いですね。 世界を救った少年も、恋には勝てませんか」



 冥花はからかうように笑う。

 ハヤトがじとっとした視線を送りつけるが、それは彼女に笑いの種をくべるだけだった。



「こういうことでしょう。 恋愛は悪ではない。 故に、彼女から、いや、彼女たちから向けられる愛情を、切り捨てられない。 それで、鈍感なフリをして、ごまかしていると。 ふふふ……青臭いですね」

「何ウケてるんだアンタ」

「いえ……ただ一つ、助言をするなら。 そんな風に彼女たちに思わせぶりな態度をし続けているから、嫌われるんじゃないですか? 男からすれば、それほど腹立たしいことはないのでは」



 随分と心に刺さることを楽しそうに言ってくれるものだ。

 だが、彼女の言うことは正しい。 ハヤトとてこのままでいいとは思えないし、自分のやっていることが都合のいい逃げであることは分かっている。



「どうにか、相手を傷つけないではいれないのかね……」

「諦めなさい色男。 あなたの優しさが相手を大きく傷つける前に、男ならケジメをつけてみてはいかがです? もっとも、あなたがフッて彼女たちが諦めるかは別の話ですがね」



 しれっとタバコを吸おうとする冥花。

 ハヤトはまた冥花からタバコを強奪する。



「青春に痛みはつきものですよ」

「もうそんな年じゃねぇよ……でもまぁ、そうだな」



 ハヤトが自嘲気味に笑みを浮かべて深く息を吐いたときだった。

 突然、街が騒がしく悲鳴を上げ始めた。



『緊急警報!! 緊急警報!! 『不干渉毒野』に歪みを確認!! “Aランク”『トウカツ』発生の予兆あり!! 現界予想場所は奥多摩ニューシティG―23!!』



 冥花が眉をひそめる。

 ハヤトもまた、その違和感に気づいた。



「Aランクが自然発生する頻度って、一年に一回程度って話だったよな?」

「ええ。 以前Aランクが現れたのは……三ヶ月前です」



 作為を感じる。

 キュクレシアスが使ったあの装置か?

 そうなれば、この襲来はCODE:Iの仕業ということになるが……。



「CODE:Iの仕業だとしても、妙ですね。 G―23地区といえば、クレーター西側の外れにあるただの住宅街……何故そんな場所を襲わせるのか、理解しがたい」



 冥花は目を閉じて思考に浸る。 サイレンがけたたましく鳴り響き、空に赤いオーロラがかかった。


 少しして、冥花は瞼を開いた。



「……陽動?」



 ハヤトの携帯が鳴る。 すぐに応えて耳元に手を当てる。

 セナだった。 息が荒い。



『ハヤト、どうしよう……!! ユミが行くって言ってた場所、G―23地区なの……! 電話が繋がらないよ……!!』



 ユミとは、セナのアイドルグループの一人だ。



「分かった。 必ず俺が助ける。 セナは避難してろ。 ……心配すんな、ユミは必ず俺が助けっから」

「……市民の救助、避難誘導、そして『トウカツ』の討伐はFNDの仕事ですよ」



 駆け出そうとしたハヤトを冥花が制する。

 しかし、ハヤトは不敵に笑って言い返した。



「文句言える立場かよ。 アンタも、今すぐにでもどっか行こうって顔してるぜ」

「…………あなたが死ななければ、尻拭いはしましょう。 くれぐれも、FNDに迷惑はかけないように……お互いにね。 何だか、嫌な予感がします」



 冥花とハヤトは、同時に走り出した。

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