第五十五話『物語にない続き』
以下、『世界最強の大魔導士、現代ファンタジーに転生して無双する』、一巻最終章からの切り抜きである。
『
《『執行者(Enforcer)』、Caution》
《『接続』》
琴音の背後に、巨大な執行者の幻影が浮かび上がる。
白いローブを目深に被り、下半身はない。 顔面はとっくに白骨化し、しかしその眼窩から真紅の目玉が獲物を探して光る。
手に持った斧には歴戦の錆びた血がこびりつき、それすらその死神然とした幻影の狂気に当てられててらてらと光っているようだった。
ハヤトは息を呑む。
「卑劣なテロリスト……さあ、断罪の時間です」
顔を上げた琴音のルビーの瞳が光ると同時、死神が斧を振りかぶり、袈裟に振り下ろした。
大量の紅い血が飛び散り、ミミアが口元を押さえた。
だが、それは血ではない。 琴音の正義と怒り、冷徹な裁きを下す力の集合体なのだ。
飛び散った紅いそれは弾け飛ぶかに思えたが、空中で静止、時を戻したかのように琴音へと収縮する。
そうして出来上がるのが、紅い戦闘衣。 フードの下で紅玉の双眸が光り、銀色の髪が覗く。
手に持った斧の柄を地面に叩きつけてから、琴音はハヤトの隣に並んだ。
「趣味悪いぞその変身」
「お構いなく。 私は気に入っています」
二人は敵に向き直る。
突き出た巨大な口から、饐えた臭いと牙が姿を見せた。
竜だ。 白く、顔面に口しかない竜。
テロリストが苦肉の策で『トウカツ』と融合して生み出された怪物。
『笑わせる! 私に勝てるものなどいるものか! ふははは!! 力が漲ってくるぞ!!』
前の世界にいた気高く知性の高い竜族を思えば、冒涜に近い。
「ハヤト……」
「大丈夫だ、後は俺たちに任せろ」
ルイの弱々しい言葉に応える。
安心したように、ルイは膝をついた。
ミミアとセナも傷ついた体を引きずりながら頷いた。
「さぁ、かかってこいよ化け物」
ハヤトは、不敵に笑う。
(中略)
『バカなッ!? 私がたかだか小僧一人に負けるはずがない!!』
「ただの小僧じゃねぇよ。 お前、“世界を統べた小僧”を相手にしてるんだぜ?」
ハヤトは上空で腕を掲げながら醜い竜を見下ろす。
掲げた手の先には、星を思わせる漆黒の巨大なエネルギーの球体。
森が風圧になぎ倒され、地面が抉れる。
竜が火炎を吐き出すが、ハヤトに届く前に押しつぶされる。
『何なんだ貴様は!! 『煌神具』を使わずに!! ありえない!!』
「お前には教えてやんねぇよ。 ただ、一つ言えるのはな――」
琴音を見下ろす。
傷つき、疲れきった少女。 体に力がこみ上げる。
「お前は、最強の男を、怒らせちまったんだよッ!!!!!!」
(中略)
地面に叩きつけられるキュクレシアス。
男の目には、目の前の少年の力が全く理解できなかったようだ。
「よっ、と」
着地するハヤト。 琴音がハヤトに向かって微笑む。
「まぁまぁ強かったぜ、お前。 まぁ、上にはもっと上がいるがな」
少女たちの元へ歩む。 可憐な少女たちもまた、ハヤトへと駆け寄った。
『トウカツ』の声はもうしない。 FNDや先生が駆けつけて何があったのかと驚きを隠せないでいるが、FNDの人間たちはすぐに我に返ってキュクレシアスを捕らえた。
これで、戦いは――
』
終わったと思った、そのときだった。
耳を劈く轟音が、山林部に轟いた。
振り返ったその先で、世界の色を塗り替えるような水色の爆発が天へと昇る。