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第五十話『見過ごせぬ運命』

「閉め切った学校に侵入とは、感心しませんね」



 場所はいつものカフェ。


 蒼の入り口の側のテーブル席の向かいには誰もいない。


 後ろだ。


 背中合わせに冥花先生が座っている。

 全く気付かなかったが、彼女の声を認識した途端に、焦げ臭い煙が辺りを漂っているのが分かった。



「先生。 ……すみません、彼女を寝かしておける場所が、思いつけず」

「あなたは真面目そうに見えますが、存外に説教を受けますね」



 溜め息交じりに煙を吐き出すのが分かった。

 蒼は緊張しながらコーヒーを口に運んだ。



「しかし、鬼が出るか蛇が出るかと思ったら、竜が出たような話です」

「やっぱり、聞いてたんですね」

「私は、目ざとい女です。 どうやら、あなたはそれを知っていたようですがね」



 冥花先生が席を立ち、灰皿とカップを持ちながら蒼の前に座った。



「あなたの想い人が信じられなかったのも無理はないでしょう。 この世の大体を知った気になっていた私でも、俄かには信じがたい」



 あの後、ルイは渋い顔をして帰っていった。


 信じる信じない以前に、突拍子もなさすぎて理解できず、どう受け止めていいかも分からないようだった。



「しかし、腑に落ちるものもあります。 『堕天狂化』を知っていたことも、あなたの言葉の意味も、物語を俯瞰的に観測できる読者ならではのものですし」



 冥花先生は新しい煙草を口に咥え、大事そうに庇いながら火を灯す。



「もしそうなら、あなたは確かに特異点です。 あなたからすれば、私たちがどうあがこうと、未来は変わりません。 ……さて、あなたは言っていましたね。 最愛の人が死ぬ運命にあったらどうするかと。 特異点たるあなたは一体、何を捻じ曲げようとしているのですか?」



 蒼は茶色の液体を口に運ぶ。

 この人に見つめられると、コーヒーの味を感じられなくなるような妙な圧迫感がある。


 蒼は静かに口にする。



「………………ぼくは、黒縄 リリアを(たお)します。 そのために、俺は力をつけました」



 冥花先生は背もたれに肘をついて、窓の外を見る。 煙草の匂いを噛み締め、これが現実かを確かめているかのようだ。



「今度は、悪魔が出てきましたか。 読者なら知っているでしょう。 黒縄 リリアは、イカれた連中が集るCODE:Iの中でも常軌を逸している女です。 正直、私でも勝てるかは分からない。 彼女が早乙女さんを?」

「はい。 先生は、ぼくが未来を見れると言ったら信じますか?」

「……まぁ、そういうこともあるのでしょう。 まさか今が最終巻で大団円ということはないでしょうしね」

「まだ先のことです。 でもルイは、その気高い志と、慈母のように優しい気持ちを以って、仲間を守るために黒縄に立ち向かい――死にます」



 心にずんと圧し掛かる重い言葉。

 最愛のものの死など、考えたくもない。


 ハヤトたちと因縁浅からぬ黒縄 リリア。

 ルイに毒を植え付け、その毒は今も体に燻ぶっている。


 ルイが『煌神具』を使う度にその毒は彼女を苦しめる。

 そして、そんな中でも彼女は、ハヤトたちを守るために“二本の『煌神具』”を使い、闇の女王に立ち向かった。


 『対剣』、その代償は大きい。

 毒と力の代償に耐えながら戦場を舞ったルイは、黒縄に致命的な一撃を与える。

 それはハヤトたちに黒縄を破る機会を与えたものの、ルイ自身はその強烈な反動に倒れ、仲間と、最愛の想い人を守り――命を落としてしまう。



「――それより先に、必ず黒縄を斃します。 ……必ず」



 体が強張る。


 握り締めた拳が、振るう相手を求めていた。

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