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第三十八話『価値観の相違』

 日曜日。 からっからに晴れた空気は、夏の香ばしさをわずかに含んでいる。


 休日ということもあって、駅前には人手が多くある。

 実家に帰り家族との時間を楽しもうとするFNDの職員や、日曜であろうと慎ましく働くサラリーマン、駅周りのショッピングモール目当てに集まる少女たち、孫と楽しそうに手を繋ぐ老夫婦など、老若男女問わない。


 大きく盛り上がった駅とその周辺施設を見上げながら、蒼は時計を見た。


 時は正午。 中天に上り詰めた太陽がビルよりも遥か高みから熱を落とす。

 十字に開いた巨大な交差点の隅に人が溜まっていき、信号がその真上で雄大に横たわる空と同じ青色を示せば、ダムの放流のように人の群れが動く。


 早く来すぎただろうか。 何度も人が交差したのを見続けた蒼は頭を掻いてビルに大きく表示されている広告を眺める。


 女子高生たちが写真を撮るスイーツの甘い香りが漂ってきたと思いきや、都会特有の下水の匂いがして蒼は顔をしかめた。


 名物の時計台の下には待ち合わせの学生たちが集まり、各々全力のファッションでデート相手を待っている。


 かくいう蒼も、何度も朱莉に確認をしてもらって恥ずかしくないファッションで固めたつもりだ。 ジャケットの裾を正しながら、蒼はルイの私服姿に妄想を膨らませながら弾む足を宥めつけて制止させる。


 蒼に向かって歩く影がある。 蒼は思いきってそちらを向き、そして言った。


「何で制服?」「何で私服?」



 被った。 ルイはいつものツインテールの横で困った顔を浮かべている。

 蒼は、舞い上がっていたせいで大切なことを一つ忘れていたのだ。





 早乙女 ルイ。 早乙女家といえば、超が付くほどの英才教育で、才能の研磨に余念がない。

 故に、早乙女家の子息子女は普通の育ち方をしない。


 そして、ルイはそんな環境の中でもさらに自分にストイックだ。 時間があれば修練に勤しむ、そんな真っすぐで向上心の塊のような性格。


 故に、彼女は娯楽を知らない。


 そんな彼女が「どこかに出かけよう」と言われれば、行く先は――



「小波~、今日はデートじゃなかったのか~?」

「だからデートしてんだろうがァ!!!!」



 Sクラスの友人の茶化しに、浮かれていた自分を恥じる怒りを乗せて蒼は返事をした。


 体育館の地面を運動靴が擦る音。 摩擦の焦げた臭いと汗の酸味が漂う。

 鈍い音、爽快な音、模造刀同士がぶつかってあげる金切り声。


 そう、ここは紛れもなく聖雪の体育館であった。

 蒼のデートプランは、すぐさま暗礁に乗り上げたのである。

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