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第三十六話『CODE:I』

 以下、『世界最強の大魔導士、現代ファンタジーに転生して無双する』、三巻冒頭からの切り抜きである。




 炎。 幼年の彼女にとって、不思議と発見に満ちた全世界であった町が今、赤い怪物のような姿になって盛り上がっている。


 破滅。 暴虐。 反逆。 激突。 死。


 そのときの彼女には難しすぎる黒の概念が辺りを跋扈していた。 燃え盛る炎はあまりにも熱く、黒々とした天蓋から落ちる大量の水滴はあまりにも冷たい。


 当時五歳の早乙女 ルイは、あまりのショックに我を忘れ、大泣きして耳を塞ぎ、一緒にいた友人のことも顧みずに母を呼び続けた。

だが、場の轟音は塞いだ耳の隙間を縫って襲い掛かる。


「逃げろッ!!」

「テロリスト!!」

「助けてぇ!!」



「愛の下に死せよ」

「愛の下に死せよ」

「愛の下に死せよ」

「愛の下に死せよ」



 鋭利に尖った熱い怒号に悲鳴がルイの心臓に突き刺さり、鼓動を速める。

 一方、冷淡に同じ言葉を繰り返すものたちの声がある。


 炎に照らされ、逃げ惑う男の背中に槍を突き刺す人間の影が映った。


 漆黒の鎧を纏った人間たちが二列に並んで歩幅を合わせ進む。


 手に持った槍の柄を断続的に地面に叩きつけ、その度に炎や雷が漏れ出す。

 顔面を覆う鎧には、槍をモチーフにしたスリットが入っており、そこから赤い光が目玉の代わりに一つ点灯している。


 『CODE:I(コード:アイ)』。 当時少女はその名を知らなかった。


 イヴェルシャスカの槍奪還を掲げ、その力で世界を塗り替えようとするテロリストだ。


 ルイの故郷は、彼らの襲撃を受けていた。


「愛の下に死せよ」

「愛の下に死せよ」

「愛の下に死せよ」

「愛の下に死せよ」



 どす黒いくぐもった低い声。 空を数多の閃光が奔り、ビルが中ほどで弾け飛ぶ。


 無抵抗な人間が刺し殺され、水に襲われて溺死し、土に挟まれて押しつぶされる。


 号泣するルイ。 そんな彼女の閉じた耳に、深々とした足音が聞えてくる。


 流れる黒髪は、寂莫たる宇宙の空洞の如き闇を孕む。 幼き少女の目に、その黒髪の少女の持つ水色の瞳は異様に映った。


 人間としてあるべきではない悪魔の道、それを歩き続けてきたような、とにかく常人ではない瞳。 口元には妖艶な笑み。


 ルイは本能的に彼女を恐れ、体を震わせる。 少女はルイの前に立ち、影を被せた。



「ごきげんよう、早乙女家のお嬢さん」



 少女は屈み、ルイに視線を合わせる。


 この業火と殺戮に包まれた街の中でその所作は優しく思えたが、それがとにかく不気味で、深く昏い。



「綺麗なお顔ね」



 声を詰まらせたルイの頬に、冷たい手が乗せられる。 皮を剥ぎ取るような威圧が、頬を這う。


 黒髪の少女は微笑み、そのまま、その唇をルイの唇に押し当てた。


 頭が真っ白になる。 同時、何かが、体の中に入り込んできた。


 確かな意識があるのは、ここまで。 ルイの喉元から赤黒い液体が込み上げ、口づけを交わす口元からどくどくと零れていく。


 意識が毒に喰われていく。


 地面に崩れ、空を仰いだルイの体に、雨が打ち付ける。 瞠目した瞳を雨が叩こうと、体の内側を侵食する毒に苛まれた意識と体は反応を示さない。


 体がびくびくとのたうち、呼吸が止まる。


 少女が立ち去っていく。 代わりに歩幅の小さい足音がした。



「ルイルイ!! しっかり!!」



 遊びに来ていた友人のセナだった。



「お前!!!! 私の友達に何をした!!!!!」



 聞いたことのない友人の怒号だった。 しかし、黒髪の少女は悠々と立ち去っていく。

 消えていく意識。 そんな彼女の意識に、もう一つの声が入り込んでくる。 それは、光だった。



「何をされたんだ?」

「分からないよ、分からないよッ」



 やけに大人びた空気の少年だったのを、朧な中で確かに覚えている。 泣きじゃくるセナの隣で、冷静にルイを見つめている。



「お願い、助けて……お願い……!!」

「……任せろ。 俺が助ける」



 セナの無茶なお願いを、少年は意外にも快諾した。

 少年の体に光が宿り、ルイの顔面に手を伸ばした。

 ルイの意識が消える。


 ――この日からであった。

 彼女の人生が大きく狂い始めたのは。

 そして、彼女の一途で素直じゃない恋が始まったのは。

                                        』


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