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第二十三話『どす黒い水色』

確かな手ごたえがある。 ハヤトは勝利の感触を確かめるように、倒れ伏す蒼の顔面に突き刺さる拳を引き抜こうとした。


 だが、その手が動かない。

 よく見ると、ハヤトの拳は、蒼の顔面に届く寸前、蒼の右手に止められていた。



「今のを止めるのか。 結構やるな」

「どうも。 まだまだいけるぞ」



 蒼が膝を折り曲げ、ハヤトの腹に蹴りを突き刺した。 ハヤトは衝撃を殺しながら後方へ跳ねる。 蒼はゆっくりと立ち上がった。



「そうかな? 今ので分かっただろう。 お前が強いのは認めるが、俺には勝てない」

「上からモノを言うなよ主人公。 そういう言葉は大人の読者から反感を買うぞ」

「何の話だ?」

「それに俺は、“このまま勝とうなんて思ってない”」



 蒼の目にさらなる凄みが奔る。 彼の左手が徐に右手を縛る腕輪に向けられた。


 カチリ、という音と共に腕輪が外れる。 瞬間、蒼の体に、未知の、ぞっとするような冷酷な力が流れていくのが分かった。



「何だ……?」



 蒼の目が、水色に染まっていく。 蒼の左手首に巻きついた起動装置に水色の電流が流れ、鍵が吐き戻された。


 何かが起きる。 『煌神具』と同じ力の体系でありながら、もっと根源的で、荒々しく、おぞましい何かが、目覚めのときを待っている。



「少しくらい犠牲を払わないと、最強には届かないのがモブの性だよ」



 蒼は宙へ舞った鍵を見ずに右手で捕えた。


 水色の電流が奔り、空気が淀む。


 そして、純然たる力の歪みの中心で、蒼は力強く唱えた。



「……『狂れ(バグれ)――堕天(だてん)狂化(きょうか)』ッ!!」



 蒼が再び鍵を突き刺す。


 その、ほんの一瞬前。



『そこまでッ!!』



 切羽詰まったような声で、試合を中断する声があった。

 蒼の手が止まり、彼は憎々し気に教師席を見上げた。



「……くそ、やっぱり止めに来るのか」



 舌打ちをして外した腕輪を元に戻す。 蒼の目に、黒の色素が戻っていった。



「冥花……?」



 ハヤトも教師席を見上げる。 マイクを握り締めているのは、校長でありハヤトとは因縁深い羽搏 冥花だ。


 しかし、彼女の視線は、ハヤトではなく蒼に向けられていた。



『選手たちの安全を鑑み、試合のこれ以上の続行は認めません!』



 残念がる声と、一息ついて安堵する声が、半分半分というところだった。



『これまでの戦闘で判定し、勝者は如月 ハヤト!!』



 しかし、これには一様に観客席がわっと盛り上がる。



『何と! 勝者はFランクの如月ハヤトくん!! 期待のブラックホース小波くんを相手に下克上です! いやぁ凄まじい戦いぶりでした!!』



 すごい、すごい。 そんな賛辞が、ハヤト目掛けて降り注ぐ。


 だが、ハヤトはの意識はそんな賛辞をすり抜けて、修羅の如き力の陰を匂わせた蒼から、離せなかった。



「……悪いな、変な勝負吹っ掛けて。 ただ、力を試したかっただけなんだ。 お前なら、全力でぶつかってもいいと思ってさ」



 蒼が土ぼこりを払いながらハヤトを見た。 今見れば、何てことはない普通の少年だった。 その言葉のどこにも、先ほどまでの好戦的なものはない。


 求められるまま軽く握手を交わすと、蒼は友人らしき生徒たちに手を振りながらのんびりと出入口へ歩いていく。



「よくやったわハヤト!!」

「ナイスハヤトくん!!」



 観客席からルイとセナが一際大きな声援を送ってくる。 蒼がルイの顔を見つめていた。


 その真摯な横顔に、ハヤトは決意の漲りを感じた。


 かくして、ハヤトは三回戦に駒を進めることになる。



「……やれやれ、面倒なことにならないといいけどな」



 彼のその言葉が、叶ったことはない。

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