第十四話『食堂にて、ぼっち二人の昼食』
入学から三日。 授業が本格的に始まろうとしている。
校門を出て、繁華街を抜けた先にある寮に帰り、また学校に戻るのも、これで三往復目になる。
その間、蒼とルイの関係に、進展はこれっぽっちもなかった。
「なーなー。 一緒にご飯食べましょうって、ちょっとキモイよな」
蒼は長テーブルに顔面を横たわらせながら言う。 場所は食堂。
下級生上級生問わず入り乱れ、和気藹々とした若者らしい空気が流れている。
行き交う生徒たちの手には水色のカードが握られている。 あれはいわば財布のようなもので、この都市の中では、あれを翳すだけで通貨の代わりになる。
学校から指定された上限額までは、何に対しても使い放題という、破格の待遇だ。
そんな設定もあったなぁと感心ながらきつねうどんを買ったのだが、中々口が進まない。
「そうだな~。 先ずは一緒に帰りましょうとかからの方がいいんじゃない?」
隣に座った刹那がから揚げ定食をつつきながら答える。 蒼の九十度傾いた視線の先では、例の幼馴染三人組がテーブルで向かい合って食事を楽しんでいた。
セナがいるせいで周囲の視線は否応なしに吸い込まれ、その隣で食事を摂るハヤトに対する僻みも凄まじい。 とはいえ蒼の視線はその向かいに座っている金髪の美少女一筋だ。
「はぁ……やっぱ早乙女家って教育厳しいんだなぁ……食べ方めっちゃ上品だ……」
「うどん伸びてるよ」
この場には、刹那と蒼しかいない。 霧矢は気の合う仲間を二人見つけたようで、朱莉はと言えば既に六人組の女子グループの一員になっていた。
流石朱莉だ。 何事も卒なくこなせるし、人付き合いも上手だ。
かくいう刹那と蒼は、未だクラスにそれほど馴染めていない。
「でも、早乙女家って代々聖雪のSクラスを首席で輩出してる家系なんだよね。 Fランクにいるせいで、周りの声とかも色々あるみたいだよ。 そのせいで、あの子があの三人組以外の人と話しているの見たことないなぁ」
刹那の言う通り、セナには嬉々とした視線が集まる中、ルイに対するモブどもの視線や言葉は厳しいものが多い。 落ちこぼれや才能の持ち腐れなど、ふざけた悪評が出回っているのだ。
“何も知らないくせに”、随分好き勝手言ってくれるものだ。
「はぁ……でも他人の心配してる場合じゃないなぁ私」
「………………まだクラスで友達は出来てないのか?」
蒼は突っ伏したまま尋ねる。
「うーん。 中々気の合う人がいなくて……ギャルとかもいるし」
ギャルが誰のことかは想像に難くない。 刹那は基本教室の隅っこで読書に勤しんだりゲームをしたりと一人趣味が多いので、中々肉体派の多いこの高校で友人を見つけるのは難しそうだ。
「……多分だけど、そのギャル、悪い奴じゃないと思うよ」
蒼はミミアの人柄を知っているので、案外気が合うのではと思う。
だが、刹那は「ないない」と苦笑気味だ。
そんな刹那が、ふと話題を切り替えてくる。
「前から聞こう聞こうと思ってたんだけど、“その腕輪とグローブ何”?」
蒼は顔を上げて刹那を見る。 彼女は、どこか不安げな顔で蒼の右手を観察していた。
蒼の右手には、いつも欠かさず指ぬきグローブが付けられている。
その根元に、“栓を締める”ように虹色の腕輪が巻きついていた。
中々答えづらい質問だった。
「それ、去年の冬からずっとしてるよね? その腕輪高そうだけど、いくらしたの?」
「百万」
「百万ッ!?」
「嘘だよ」
結果、茶化してあしらうことにした。 刹那は珍しく肩を怒らせている。
そんな刹那から逃げるように、伸びきったうどんをささっと食べ終え、蒼は立ち上がる。
「アドバイスありがとな。 早速試してみるよ」
未だ腑に落ちない顔の刹那に背中を向け、足早に食堂を立ち去った。