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第十二話『いきなりぼっちの危機』

(かー、やべぇこれ)


 一年のSクラス。 教室は賑わっているが、久しぶりの新しい教室の空気に蒼は完全に気圧されていた。


 今回は転生してすぐとは違い、元々友達がいる状態ではない。 

 しかもここは名門の頂点。 これがまた、意識の高い連中ばかり。


 おちゃらけてアニメの話でも出来そうな人間が見当たらない。


 ルイのことばかりで、学校生活の方は何も備えがなかった。

 このままだと、前世と同じか、もしくはそれ以上に酷い有様になるのは自明だ。


 だが、冴えない、そんな言葉が似合うまま終わるつもりはない。



(まずは、このクラスの全員と友達になってやる)



 少なくとも、それぐらいの気持ちで友達作りに励もう、と思った。


 すでに、教室にはいくつかの群れがある。 その内の一つは、群れているというよりは、光に集っている状態に近い。


 二年前のCJC優勝者であり絶対的ヒロイン、白峰 琴音。 彼女もSクラスの住人だ。


 男女問わず様々な角度の質問を投げかけられていて不憫だが、彼女はそんな蒼の心配を余計なお世話だと言わんばかりに涼し気で、可憐にクラスメイトに接している。


 物語には描かれない裏でこんな苦労があるのかと思いつつ、蒼はこの集団は後にしようと席を立つ。

 食卓では苦手な食べ物から食すタイプの蒼は、先に一番友達になれなさそうな人間のところから攻めることにした。


 窓側の後ろの席に陣取る男三人のグループだ。 制服を着崩し、目つきも悪い彼らは、いわゆる不良である。 それでもSランクにいれるということは相当の実力者。


 ガタイのいい真ん中の男は、染めた金髪をいじりながら琴音を下卑た目で見ていた。

 彼の名前は、岩槻(いわつき) (げん)、二年前のCJCではベスト4。


 そしてこの男、実は一巻に登場する。


 その立ち回りと言えば、主人公グループに因縁をつけ、近日開催される一年生同士のバトルトーナメントで決着を望むものの、主人公ににぼこぼこにされるという悲しいものだ。

 正直自業自得ではあるが、明らかに主人公のダシにされるその姿は、同情の余地がある。



「俺、小波 蒼。 これからよろしくな」



 蒼が手を伸ばすと、岩槻は楽しみの邪魔をするなと蒼を睨み上げる。

 すると、周りの取り巻きが蒼を見て嘲笑を浮かべた。



「へぇ~。 小波くんさ~、さっき校門で告白してたよね? 面白いね」

「そうなの? ウケるなぁ、ははは」



 そう言って取り巻き同士散々笑い合う。 何だか高校生にありがちな陰湿なイジリだ。

 岩槻に関してはまるで蒼に興味がなさそうで、さっきから琴音をずっと見ている。



(ぶん殴るぞお前ら)



 そんな物騒な考えをしまいつつ、体の内から熱が噴き出す前にとっとと退散する。

 なるほどこれは難儀だなと思いつつも、彼は男女問わず自己紹介をして回ることにした。



「俺、小波 蒼。 よろしくな」

「あ……うん」



 こんな会話を、二十回は繰り返したと思う。 やはり先ほどの告白が痛手になったのだろうか。


 少し会話が弾む相手もいたが、それほど盛り上がることもなく、蒼は最後に琴音の前に流れ着いた。 始業間近で、琴音の周りには人がいない。


 流石のオーラに、汗が一滴、落ちる。



「し、白峰、さん。 俺、小波 蒼。 よろしくね」



 琴音はルビーのような瞳で蒼を優しく見上げ、微笑みを浮かべる。



「小波くん。 こちらこそよろしくお願いします。 去年のCJC、見事でしたね」



 掃いて捨てるほどいるモブの一人の事情がヒロインの口から当たり前のように出てきたので、ぽっと頬が熱くなる。


 これが周囲を惹きつける圧倒的ヒロイン力という奴だろうか。 天使のような人だと心で絶賛しつつ、たじたじしながら握手を交わし、蒼は席に戻った。


 手は驚くほど柔らかかった。


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