第10話 婚約の使者
ライラを探す。一体どこを? まるっきりヒントがない。しかし探すのだ。どうにかして──。
屋敷に帰ろうとすると、国家の旗を棚引かせた金色の六頭立ての馬車が五両。たくさんの文官が立ち並び、それを迎えた忠臣者の父上は目を白黒させていた。
「王室からのご使者とは。このロバックに何用にございましょう」
「ロバック将軍。リック王太子殿下は貴殿のご令嬢を妃にお迎えしたいとお考えだ」
「娘をでございますか? し、し、しかし、長女のマゴットはすでに近衛兵長の家に嫁ぎ、次女のアウマヤもローゼン伯爵家に嫁ぐことが決まっております」
「いや、その二人ではない」
「この下のカヤはまだ8っつでございますが……」
使者は首を横に振った。
「まさか……」
使者はそれに頷く。父は息を飲んだ。
「ジンを?」
「さよう。ジンジャー嬢をお迎えする。王室から、仕度金と贈り物。それにロバック将軍が欲しがっていた、七宝の剣を授けるようとのことだ」
「し、七宝の剣ですと!?」
七宝の剣は国宝だ。鞘に七つの宝石が埋められている。父はそれを受けられるのは国の最大の功労者だけだと前々から言っていた。
父は跪き、使者より宝剣をうやうやしく受け取った。使者は使命を終えたと声の調子が上がる。
「では、ジンジャー嬢は正式に王太子殿下の婚約者と言うことでよいのだな」
「ご、ご使者どの」
「なにか?」
「息子の……いや、ジンは……ジンジャーにも希望があるかも知れません。ご無礼ではございますが、本人の希望を聞いてみたいと思います。どうか本日のところはお引き取りを」
「ははは。聞くまでもあるまい。次期国王陛下となられるリック殿下の妃になることを国中の若い女性たちは夢見ている。断る理由はどこにもない」
「そうかも知れません。しかし親としては子の幸せを祈るものです。本日のところはどうかお引き取りを」
「さようか。良き返事が来ることを望んでおるぞ」
「はは!」
「将軍。私は主命を帯びてここに来ている。間違った回答だけはせんでくれ」
「はい。その儀しばらくお待ち下され」
「では、陛下と殿下より心ばかりの進物だ。受け取ってくれたまえ」
馬車からたくさんの宝物が降ろされ、目録が父の手に渡される。やがて馬車は私の横を通り過ぎる。
当の本人である私の希望などどうでもいいのであろう。リックは本気なのだ。父が七宝の剣を欲しがっているのを知り、惜しげもなくそれを出してきた。断ればこの家は取り潰しになるかも知れない。
使者の馬車を見送る父に近づいた。
「父上」
「おう。ジンか」
「使者は何と言ってきたのです」
「まぁ、そのう。なんだ。ジンはリック殿下をどう思う」
「将来の国王だと思っております」
「そうか。妃になりたいか?」
「い い え」
「そうか」
父上は七宝の剣を握ったまま天を仰いでため息をついた。
「私は男です。武官です。国家の番犬。それが妃などとバカらしい」
「そうだな。では七宝の剣はお返し申そう。なに。実力で手に入れてみせるさ」
「はい!」
私は自室に戻ると、リックの強引なやり方に腹を立てた。
今度は圧力で来るかも知れない。法律でくるかも。そしたら完全に嫌いになってやる。
ライラをあんな目に遭わせた上に。なんてやつだ。リックのやつ。




