表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/199

2-38.テスト一日目が終わって。

〇望〇


 放課後。

 テスト一日目が終わり、太陽が沈む前、僕らはいつもの空の下に居た。


「僕らには学校の屋上が似合うと思わないかい?」

「ええ、ソラもそう思いますわ」


 僕は振り返りながら、入口から入ってきたソラ君へと視線を向けた。


「『リク君は預かった、返してほしくば、放課後屋上に~望~』って、脅迫状を気取ったおつもりですの?」

「目的は達したから、問題ないと思うがね?」

「ふふ、そうですわね。

 ソラの手紙は意味を成しませんでしたしね」

 

 ソラ君が昔のことを思い出しながら楽しそうに笑う。


「リクさんは元気ですか?」

「元気だね。

 美怜をお姉ちゃんと慕っていて、すごく楽しそうだ」

「ふふ、あの妹、どうにかしてあげようかしら?」


 ソラ君がフフフと顔を空に向けながら、疑問を吐き出す。

 だから、僕は答える。


「姉らしくしてあげたらいいんじゃないかな?」


 ソラ君がそのエメラルドグリーンの眼を大きく開けて、こちらを見てくる。


「……意地悪ですわ。

 ホント、意地悪ですわ。

 ぜ~んぶ、判っていらっしゃるんですから」


 僕に詰め寄ってくるソラ君。

 そしてポンと僕の胸をグーで一叩き。


「妹と述べてたからね、確信が持てた。

 君は美怜を盗られたのと同時に、美怜に盗られたのを悔しいと思っている。

 違うかい?」

「そうですわ。

 あの出来事の前、美怜さんのことをお姉ちゃんと呼んでることで気づきましたの」


 ソラ君は僕の制服に顔をうずめ、少し震える。


「悔しいと。

 唇を噛むぐらいには」


 強く、僕の制服が握られていた。

 だからと言う訳ではないが、軽く頭を撫でてあげる。

 こうすることでオキシトシンを出させ、心の安定をさせることが出来る。


「うう」

「ほらほら、こんな所、美怜にもリク君にも見せられないだろうね?」

「……望君しかいないからいいのですわ」

 

 甘えさせてほしいらしい。

 仕方ない。

 彼女の精神の安定のためだ、と軽く抱きしめる。

 リク君も美怜もこんなソラ君を観れば一発でコンプレックスを解除できるとは思うんだがね?

 さておき、


「落ち着いたかね?」

「はい、はしたない真似をして申し訳ありませんでしたわ」


 しばらくし、離れたソラ君の謝罪。

 彼女の雫が制服を濡らしている。

 

「君の笑顔にはその価値はあるとは思うがね?

 さておき、テストはどうだったかい?」

「少し見えている失点がございますね。

 昨日の件で心が乱れているのかケアレスミスが、未熟ですわね」


 ふむ、ならばちゃんと言っておいた方がいいだろう。


「美怜はテストの点で君をしっかり倒す」


 ソラ君が固まる。

 美怜はテストが終わると頭を知恵熱で机の上に突っ伏していた。

 ただ、同じく僕の席の前で突っ伏し悲嘆している水戸と違う。

 ちょっとズルい手を教えてあるので確信がある。

 といってもカンニングとかではない。

 最大限、彼女の天才を発揮できるためのおまじないのようなモノだ。

 さておき、


「その目的は、リク君のソラ君へのコンプレックスの解消のためだ。

 美怜という実例を見せて、リク君に可能性をみせることで解消する。

 君に言ってなかったプラン❺で、僕が誘導した」

「ソラに負けろとは言われないことは判っています。

 それをあえて言って頂いたのは、逆に応援して頂いている形ですわね?」


 事実だが、肯定も否定もしない。

 言葉にすれば、それで思考が固まってしまう。

 彼女の、受け手の納得に任せた方が良い。

 何も言わずに自分で納得させるというのも、時には必要なのだ。


「いじわる。

 ほんとーに意地悪ですわね、望君は

 でも、優しい。

 気合いがはいりましたわ。

 明日、後半戦は気を抜きません」

「よかった」


 ふんすと、鼻息荒く、ソラ君が自分の両手を強く握る。


「ちなみに望君はキス、美怜さんとしたいんですか?」

「したんだ」

「――は?」


 ソラ君がピタッと止まった。

 とりあえず、頬を抓っておく。

 スベスベとした張りの良い手触りが癖になりそうだ。

 離すとペチンと良い音がした気がした。


「痛いですわ……」

「現実だからね。

 ちなみにソラ君とのデートの後だ。

 五老スカイタワーで僕からだね」

「えっとですね、怒ればいいんですか?

 それとも悲しめばいいんですか?

 嫉妬でも良いですわよね、デートの締めを他の女性に盗られるなんて。

 イヤでも、家族愛情表現ならセーフ?」


 ソラ君が僕の頬っぺたを抓り返してくる。

 ソラ君は戸惑い、怒り、悲しみ、ごちゃごちゃでとても人間らしいモノだった。


「えっと、はい、浮気者と引っぱたくのはありでしょうか。

 望君からと言われましたよね?

 あれだけ、ソラの心を搔き乱したのに!

 いやでも、まだ好きだと言って貰ってなくて片思いで、浮気ですらない!

 この女たらし! となじれば良いんですか⁈」

「とりあえず、いつも通りでいいんじゃないかな?」

「はい☆」


 投げられた。

 そしてソラ君がのしかかってくる。

 何というかいつも通りの僕らだ。


「落ち着いたかい」

「ええ、とても落ち着きましたわ

 望君、正直すぎませんか?

 少しは取り繕うとか、無いんですか?」


 呆れて言われる。

 そうして欲しいと言う不満を浮かべるではなく、ゲジ眉を弓にし嬉しそうにしている。

 そうしたらこうだ、


「ソラ君、ありがとう。

 こんな僕を好きになってくれて」

「いじわる。ずるい。おんなたらし。

 何でお礼をここでおっしゃられるんですか?

 これ以上、望君を責められないじゃないですか。

 信頼されて嬉しいことを見透かされているのに言ったらめんどくさい女性ですわよ。

 それはイヤですわ」

「ソラ君」

「はい?

 今度はどんな爆弾をソラにぶつけてくるんですか?

 もう何が来ても驚きませんわ」


 彼女から垂れてくる金髪を右手ですきながら、驚かすことにする。


許嫁いいなずけの件、進めてくれ」

「……ずるい」


 ポツリとソラ君から洩れる。

 そして彼女は顔を僕の胸にうずめて、体をピタリと合わせてくる。


「本当にずるいですわ!

 いつもいつもいつも!

 なんでこんなに心を搔き乱すんですか、望君は!

 ううう、好きがあふれてどうにかなってしまいそうですわ!」

「それは本当にうれしいね?

 ただ、許嫁だからね、婚約でも何でもない。

 油断しているとリク君にとられてしまうかもしれないぞ?」

「い・じ・わ・る・で・す・わ!」


 顔を上げ、僕を上目遣いで見るソラ君。

 と口では言いながら、嬉しそうな声色。


「お互いの父親に嵌められた感があるのは甚だ不快ではあるけどね。

 魚人の件は知っていたし、ああなるだろうと想定していた。

 しかし、ソラ君という餌に引っかかるのを見ていた僕は、魚人はおろか自身を凄く嫌だと思った。

 自己嫌悪した。

 なら、こういう形でソラ君を僕のだと、示しておくのは有りなんだろうね。

 自分は思ったより独占欲が強い人間らしい」

「望君のモノ……」


 ソラ君はその言葉を咀嚼するように反芻する。

 女性をモノ扱いする最低のモノ言いだ、自分自身が違和感を覚える。

 とはいえ、僕の手元から放したくないのは事実でこれ以外の言いようがなかったのだ。

 好きだと言えればよかったのかもしれない。

 ただ、性格的なモノが厳密に言わせていた。


「はい、ソラは望君のですわ」


 嬉しそうに猫のようにすり寄る彼女を衝動的に抱きしめていた。

 脳裏に浮かんだのは赤い光景。

 夕日が炎のように見えたのかもしれない。

 確かめる。

 細い体つき、彼女の匂い、ソラ君は僕の手に確かにいた。

 あの人と違い、消えていない。


「ソラ君はここにいるね」

「の、望君?」

「すまない。

 しばらくちょっと、このままで頼む」

「はい♪

 気の向くままにどうぞ」


 僕は確かに進めると、感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on


cont_access.php?citi_cont_id=955366064&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ