2-37.妹二人のバスタイム。
〇リク〇
「お風呂、何というか……」
「小さいのかな、一般家庭だからね。
ウチは」
その通りだ。
林間学校で使った共同お風呂ですら小さいと思って認識を改めていたのだが、それでもウチの風呂は大層大きいらしい。
「おうちもリクの部屋より小さくて最初はびっくりしました。
九条は御父様がウチと比肩すると言ってたので」
「私は平沼だから、良く知らないんだけどね?
お父さんをとっちめる必要がある気がしてきたのは確かだけどね」
それにと、お姉ちゃんは続ける。
「ここは唯莉さんの家だからね。
絶賛、本人、家出中だけど」
「育て親とお聞きしておりました人ですの?」
「そういうことだよ」
「お姉ちゃんも複雑な家庭ですの……」
お姉ちゃんは片親だと聞いている。
しかも、父は蒸発して、双子の望お兄様だけを手元に。
よくもウチみたいにねじ曲がらなかったものである。
「お姉ちゃん、凄く白くて……キレイですの」
「えへへー、ありがと。
リクちゃんも肌がツヤツヤしてる。
私は、火傷したり、変装用具で肌が荒れたりでよく見ると……ね?」
と、自分のあちらこちらを見ているお姉ちゃんの動きは兎の毛づくろいに似ている。
一々、小動物を思わせる動きは愛らしい。
白い肌、白い髪の毛、所々に紅がさす赤みは艶めかしい。
「下のも髪の毛の色って本当なんですの」
「そういえば、私も他の人のを見たことが無かったね」
産毛の話だ。
ウチのは黒交じりの金、お姉ちゃんのは白い羽毛のようだ。
「そういえば、誰かとお風呂入るの初めてかもしれない」
「ウチもですの。
流石に、旧家と言ってもお風呂までは従者もいれませんので」
「おかゆいとこはないですかー」
お姉ちゃんがそう笑いながら椅子にウチを座るように促し、髪の毛を洗ってくれるので任せるままにする。
何というか初めて同士である。
他人に毛を触らせるのは髪を切る時ぐらいだ。
丁寧な手つきで漉いてくれる感じがすごく気持ちいい。
「金髪、やっぱりいいなぁ。
光の具合で金髪に見せかけることは出来るかな……」
ポツリと聞こえた言葉。
私の胸元迄ある髪を指の間に通しながら、物思いに更けている。
「ウチはお姉ちゃんの白髪が好きですの!」
「ふふ、ありがと。
ながすよー」
ざばーっと。
フルフルっと身震い。
「次は体だよ」
っと、背中にタオルを当てられる。
優しい手つきながらしっかりと泡立てられたタオルが気持ちよく体をぬぐっていく。
「おかゆいとこはないですかー」
「大丈夫ですの」
と、次は前だ。
後ろから手を回されたからか、ムニュっとした大きな感触が当てられる。
餅のようだと思った。
ウチのは少し筋張っているように硬い。
「お姉ちゃん、胸、大きいんですね」
「ん?」
「体を洗う度に、その、圧迫感が……」
「ごめん、ごめん、不快だった?」
「いえ!
何というかフニフニで気持ちいいですの」
「重いんだけどね。
太って見えるし、良いことないんだよね。
リクちゃんも大きいけど、どう思う?」
「男の人は大きい方が良いって聞いてますので、寧ろ有りかと」
そういうモノなのかなと、お姉ちゃんは洗いながら考え始めた。
「いや、確かに霞さんならいいそうだけど、望はなぁ……」
と、呟くように言う。
「望お兄様、胸は無い方がお好きですの?」
「というより、気にしないタイプな気がするんだよ。
さっきも私の胸に抱き着いてきたから」
「――?」
――?
思考が止まった。
ちょっと望お兄様がどういう経緯でそういう行動をしたのか想像がつかなかったからだ。
「家族に弱みを見せたかったみたいだよ?
望も人間だからね」
っと、ウチの疑問を察して、答えてくれる。
「あぁ、なるほどですの」
つまり、家族としてのスキンシップらしい。
ならウチは知識は疎いのでそれぐらいは普通にあるのだろうと納得する。
欧米でもハグは普通だ。
「ウチにも抱き着いてきてくれますかね?」
「さー、どうだろう。
これからのリクちゃん次第じゃないかな?
望、結構、堅物だから難儀するよ?」
「それは何となく想像できますの」
ソラとの清い交際からも明白である。
それにウチは気持ちを伝えただけで、望お兄様にはリクの事を理解してもらえていないのも事実だ。
「次は私を洗ってね?
洗いっこも夢だったんだよ」
っと、交代し、お姉ちゃんの背中と対峙する。
真珠のように白い肌が裸電球に反射し、奇麗だと思う。
何というか、彫刻か何かに例えられるような気がする。
「髪の毛からお願い」
と、言われ、順々にやっていく。
体を洗う時になり、胸に手を当てた際にお姉ちゃんがくすぐったそうに笑う。
何というか、やはりデカい。
リクも年にしては大きい方なのだが、お姉ちゃんのは規格が違う気がする。
「ウチが男だったら、揉みしだきたくなるぐらいに誘惑されますの」
「太いだけだよ」
っと、正直な感想が漏れてしまうがお姉ちゃんは不思議そうな顔を浮かべ返してきた。
余り自信なさそう顔は、ソラと比べられ自信を喪失している自分に被った。
確かに望お兄様の言う通り、お姉ちゃんがテストでソラに勝てばウチ自身も可能性を信じられると思う。
「湯船つかろうか?
私に遠慮せずよりかかってね?」
「ぇ、あ、はい」
言われた通りに背をつけると、気持ちいい膨らみがウチを包み込んだ。
これを呪いだと自嘲するのは、確かにもったいないことだと思う。
自信を持って欲しい。
「お姉ちゃん」
私はお姉ちゃんへ振り返り、見上げながら続ける。
「絶対勝ってね?」
お姉ちゃんが驚いたように眼を見開き、
「うん、大丈夫だよ。
任せてね!」
そして次にはウチにとびっきりの笑顔を向けてくれた。
その笑顔はウチの希望だと感じ、暖かな気持ちになれた。