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2-36.もっと甘えていいんだよ?

〇望〇


「なんでリクちゃんにあそこまでやってあげるの?

 望から見たら他人判定でしょ?

 ソラさんが許嫁だから?」


 ベッドの上、隣に座った兎の耳付きフードパーカーと半ズボンの美怜にそう言われる。

 あの後、美怜の学習レベルを計った。

 予想内ではあったとは言え、驚きを隠せない結果となった。

 さておき、


「ソラ君にリク君と仲直りしたい。

 そう相談された。

 恩があるから、返さないといけない」

「それだけじゃないでしょ」


 と、美怜に赤い瞳で心の内を見抜いてくる。


「好意を向けてくれるリク君に本気でおせっかいをしてみたくなった、これが二つ目。

 美怜が妹扱いしているから、僕も妹として扱うべきだと思ったのが、三つ目。

 あと誰かのせいで自分の可能性を否定してしまう事が嫌いなのが、四つ目」

「リクちゃんの事、気に入ったって言えばいいのに」


 美怜が青紫色の眼になり、僕を面白そうに見てくる。

 一言で纏められ、口がバッテンになる。

 僕を理解してくれているのは確かで嬉しいが、複雑だ。


「ややこしく言いすぎ、結論からどうぞ。

 やましい、あるいは負い目を私に感じてるんだよね?

 違わないよね?」

「そりゃそうだね。

 美怜にしかしなかった事をリク君にしてあげているんだから」

「本気で説教してたもんね。

 昨日、キスしてくれたから許してあげるよ」

「ありがたいね」


 最近、美怜に主導権を握られている気がする。

 姉であろうという意識が美怜に無自覚に芽生えているのかもしれない。

 依存同士であったとしても、それを理由にのしかかる形は好ましくない。

 健全に依存しあいたい。


「望、複雑な顔してるよ?」

「美怜には甘えて欲しいけど、自立も嬉しいからね」

「お兄ちゃん。

 お姉ちゃんて呼んでいいんだよ?」

「それは禁止だ」


 美怜が僕をからかってくるので、その頬を両手伸ばす。

 モチモチとした手に吸い付く感じが癖になりそうだ。


「うー」


 涙目でうねり声をあげられたので、頭を撫でる。

 するとニコニコと機嫌を直してくれる。

 やはり美怜を見ていると小動物を思わせ、楽しい。


「望の気、楽になった?」


 気遣わせていたようだ。


「ありがとう。

 正直、ちょっと疲れた。

 勉強がというより、デートから今日の終わりまでの流れがね?」

「お疲れ様だよ」


 ポンと僕の頭に手を置いて、撫でてくれる。

 冷たい美怜の手が温かい感情を巻き起こす。

 

「いつもして貰ってるから、ダメかな?」

「いいや、凄く気持ちいい」

「えへへー」


 だからだろう、美怜に懺悔したくなったのは。


わるいことしたんだ」

「それいつもだよ?」

「ちょっと相互理解に齟齬がでている気がするが、置いておこう。

 わるいことはしていない、あくは演じるが主観の差だからね?

 ソラ君に嫌な思いをさせた」

「?」

「相手に出されたお茶に、興奮剤が入っているのを知っていながら止めなかったんだ。

 決定的な場面が出るまでね?

 ……その目的がソラ君の保全ではなく、お父さんたちの利益のためだった」


 僕は一種の結論を口にする。


「こう言えるだろう、ソラ君よりお父さんを優先したと」


 僕は自分を好いてくれている彼女を踏みにじったとそう、今までに無い嫌な気持ちを覚えていた。

 周りに虐められた際に捨てた、良心の呵責というヤツかもしれない。


「考えすぎだよ、望」


 即座の否定。

 そして僕の事を抱きしてめ、クッションのような柔らかい物体に僕を押し付ける。

 

「落ち着くでしょ?

 一番最初に会った時、望も抱きしめてくれたよね?

 ゲロまみれの私に構わず。

 私は卒倒しちゃったけど、どうかな?

 太ましくて熱い?」


 鈴のような声で耳元で囁いてくる。

 脳がとろけそうな感覚を覚え、つい、


「ずっと埋もれたくなる、柔らかさだね?」

「よかった」


 正直に答えてしまった。


「望がお兄さんとしてやってくれたように、お母さんとかお姉さんだったら、こうしてると思うから。

 ゆっくり甘えていいんだよ?」


 成程、っと僕が誘惑に負ける。

 これは家族として当然のことだと、脳内で処理されてしまった。

 依存症を差し置いても美怜は魔性の女というヤツなのかもしれない。

 凄く甘えたくなり、心も体も委ねてしまいたくなる。

 体の力が抜けていく。

 クッションに顔をつけたまま、上を向くと美怜が近い。

 美怜の顔は穏やかなモノで、彼女が言う通り、慈愛を感じる柔らかな表情だった。

 頬は若干赤らめ、青紫色の瞳は細目になり、眉毛も落ち着いて弓なり。

 そして、僕の頭を更に一回柔らかく撫でて続ける。


「ソラさんは理解してくれるよ。

 それに信じてたと思うよ、絶対に助けてくれるって」

「借りを返す所か、増えている気がしないでも無いね?」

「気負いすぎ。

 そもそもソラさんは望に会わなければ遅かれ早かれ、母親の目論見でお見合いする運命だったんでしょ?

 なら、好きな人に恋愛出来るようになってプラスだよ」

「そういうモノかね?」

「そういうモノだよ」


 確かにそういう考え方もある。

 自意識にとらわれて視野が狭くなってしたのかもしれない。


「ありがとう、美怜。

 ちょっと弱気になってた」

「いえいえ、いつも依存させてもらってるもん。

 たまには素直に依存してくれていいんだよ?

 望は強いの判るけど、私に出来ることは何でもしてあげたいもん。

 もっと甘えていいんだよ?」


 従い、柔らかい塊に頭を強く押し付ける。


「きゃ、くすぐったいんだよ」


 嬉しそうな嬌声。

 美怜の心臓の鼓動が速くなっていることが聴こえる。

 見上げれば、美怜の眼が弓になっている。


「とりあえず、お父さんはやっぱり殺さなきゃいけないんじゃないかなぁ?

 許せないよ、望をこんなにするなんて」

「待て待て」

「だって、連打の反応もないし」


 観れば、美怜の眼は赤い。本気で怒ってくれている。

 嬉しいという気持ちは正直な所だが、物騒な美怜の言葉に落ち着きを取り戻しながら離れる。


「望も怒っていいんだよ?

 家族なんだから、感情の発露は正しいことだよ

「今度会ったら、少し懲らしめようかとは思うがね?」


 拳を握る。


「なんか、お風呂が沸きましたとか、居間で声が鳴ったですの!」


 驚いたような声が扉の外から声が聞こえる。

 リク君だ。


「すぐいくよ、リクちゃん!

 一緒に入るから!」


 と、立ち上がる美怜は続けて、


「望も一緒に入る?」

「リク君もいるのに、そのセリフはやめたまえ」

「ふふ、別に私もリクちゃんも別にすぐ気にならなくなるよ?」


 そういい意地悪い笑みを浮かべならが美怜はドアの向こうへと消えていった。

 何というかクフフと笑う、永年小学生を思い出した。

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