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2-35.目的に合わせた調理法とは(モダン焼き)。

〇リク〇


「違いますの!」


 と叫んだ時、これは自分の感情が言わせていた。

 叫んだ後、しまったと後悔した。

 しかし、望お兄様は嬉しそうに笑顔を浮かべてくれていた。


「それが君の本心だ。

 忘れないでくれたまえ」


 そう言われ、確かにそうだと納得出来た。

 大切なモノだと、自分の腕で体を抱きしめる。

 

「それとこんな僕を好いてくれてありがとうと、礼は先に言っておく」

 

 望お兄様が頭を下げてくれる。

 感情が沸いた。

 それは初恋の時に感じた、お腹の奥底がモノ欲しくなる気持ち。

 あぁ、私はこの人に恋してるんだ。

 だから、


「望お兄様、好きですの」


 零れ落ちるようにポツリと。

 それは止まらくなる。


「好きですの、好きですの、好きですの……。

 はい、ウチは望お兄様が大好きですの!」


 相手に伝えるのではなく、自分に確固たる意思だと魂に刻み込むように叫ぶ。


「一目惚れ、助けてくれたからか判りません。

 でも、この感情は嘘偽りがないんですの!

 お腹の奥がうずいて止められないんです!」


 だから、


「ソラに望お兄様を取られたくない!

 ウチが望お兄様に好かれる可能性、愛して頂く可能性を捨てたくない!

 許嫁なんか認めたくない!

 家なんて知らない!

 私のこの感情は叶わなくても、せめて行動したい!」

「良い感情の発露だ。

 素直になるように思考誘導はしたが、次は自分で考えて見て欲しい」

 

 さて、と望お兄様の瞳が厳しいものになる。


「三つ目だ。

 君には可能性がある。

 何故、本気でやる前から諦めているのかね?

 例えば試験などの結果も」

「行動しています!

 ソラとは出来が「自分の結果を才能のせいにするな」」


 言葉の途中で力強く否定された。

 そのルール破りに激情、何も知らないのにという、否定的な感情が沸く。

 恋をしていても、盲目にはなっていない。

 盲目的に好きになれれば楽になっただろうにと、自分の中で嫌な感情が沸く。


「努力した、行動した。

 そう言いたい気持ちは判る。

 確かに君の所なら、最高の教育をしているのだろう」


 しかし、その次の瞬間、その気持ちは楽になった。

 望お兄様が理解してくれているのを示してくれたからだ。


「先ず、本当にそれが最善かは疑問が残る」

「どういう事、望?」


 ウチの代わりにお姉ちゃんが聞いてくれる。


「リク君の目的にあった教育がされていない可能性がある。

 ソラ君の勉強のスタイルは知っているかね?

 彼女は僕と同じで自習スタイルだ。

 つまり、自分の目的に合った勉強方法を知っている訳で、そこが差になるだろう」

「私も自習だよ?」

「美怜は人に会いたくなかったのが条件や目的にあったから、間違いないね」


 誤魔化すように笑みを浮かべるお姉ちゃんに、ジト目を向ける望お兄様。


「リクは家庭教師ですの。

 経歴もしっかりしている京都市内から来ている女の人ですの」


 毎週日曜日、本来なら今頃は勉強をしている時間である。


「まぁ、知らない人のことを悪く言っても始まらないが、解きほぐそう

 ソラ君に勝ちたいという目的、ゴールに対して、その家庭教師と話をしたかね?

 していないのだろう?」


 していない。

 ウチは全てを見透かしているような望お兄様にコクリと首を縦に振るしかない。


「それではダメだ。

 その勉強はゴールに対して最善には絶対に成りえない。

 そもそもゴールのハードルが家庭教師と相違している可能性がある。

 二枚目のお好み焼きをみたまえ。

 先ほどと違うね?」


 観れば、確かに違う。

 さっきはキャベツや麺が層になっていたのに、今回のはパンケーキのようにミックスされている。


「モダン焼きだ。

 同じ材料でも何を作るかキチンと定めないと、広島焼きにもモダン焼きにもなってしまうのさ。

 同じように目的を何処に置くかで、作り方も違うのさ」

「私はモダン焼きの方が好き」

「ならもう一枚だ」

「わーい♪」


 お姉ちゃんの更に一枚丸々、置かれる。

 太いと言っている割にあまり食量を制限していないのかもしれない。


「ともあれ、君がそれを怠っている時点でソラ君には勝てない。

 すなわち怠惰だね。

 才能は云々はそれこそ、その後からさ」

「……」


 確かに、望お兄様の言葉は正論だ。

 でも、それをしても勝てる自信が無いし、今まで線路に乗せられてた自分自身が打倒ソラに正しく組み上げられる自信が無い。


「きっとこれだけではないがね、君が負け続けている敗因は。

 ソラ君が僕の次に秀才なのは確かだ。

 ただ、天才ではないからリク君でも勝てる目は十分あるさ」


 それにだな、と望お兄様は続ける。


「リク君、ソラ君に勝ちたいと思わないかい?」

「……勝ちたいです!」


 微笑みかけてくれる望お兄様の視線は優しいモノだった。

 観れば、お姉ちゃんも同じように見てくれている。


「さて、ソラ君の事は嫌いかい?」

「いいえ、今はソラのことは嫌いじゃないですの。

 嫌いだったのは私が敵わない現実で、御母様に叱られていたことを転化していた。

 そう、お姉ちゃんのお陰で気づけましたので。

 けれども、勝てる自信が起きないんですの、望お兄様を手に入れるには勝たなきゃいけないのに!」

「なるほど、良いことだ。

 プラン❺と行こう。

 美怜」

「むしゃむしゃ、何?」

「ソラ君にテストで勝て。

 僕がバックアップする」

「そもそも勝つつもりだったけど、いいの?」

「いい、僕は約束を守る」


 お好み焼きを一枚平らげたお姉ちゃんが望お兄様におかわりを請求しながら、確認する。


「ソラ君にコンプレックスを抱くのは仕方ないと思う。

 美怜も同じ状況だ、そうだね美怜?」


 コクリと、望お兄様に首を縦に振るお姉ちゃん。


「だからその美怜がソラ君に次のテストで勝つことで、リク君自身も不可能じゃないということを証明してみせよう」

「お姉ちゃんが?」

 

 観る。

 確かに特筆すべき可愛い容姿を持つお姉ちゃんだが、ソラに勝てるビジョンはまるでわかない。

 ソラは学年二位で入学と聞いた覚えがある。

 もし一位がお姉ちゃんであったならば、コンプレックスをソラに対して持たないはずだ。


「ちなみに学年一位は僕だ」


 心を読まれている気がするのは気のせいではないだろう。

 美怜お姉様の眼が赤くなっていることに気づく。

 まるで闘志が燃え盛るようだ。


「お姉ちゃんと呼んでくれたリクちゃんに、お姉ちゃんらしいところも見せないと。

 望も倒す必要があるし」


 そう言って微笑むお姉ちゃんはとても凛々しく見えた。

 

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