表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/199

2-31.ぶち壊せお見合い。

〇リク〇


「望君!」


 ソラ君が望お兄様に抱き着き、嬉しそうに、そして涙を零した。


「着物が崩れている後があるね、ちょっと遅れたかもしれないと後悔した。

 すまない」

「いいんですわ、間に合ってますから」

「さて、君のお見合い相手は何処かね?」

「足元ですわ」

「魚かと思った」

「く、足をどけろ、この下賤な奴が!」


 望お兄様の足を掴もうとしたのだが、望お兄様はそれを避けて、


「おっと、足のバランスが」

「ぷぎゃああああ」


 思いっきり股間を踏み抜いていた。

 そして陸に上がった魚のように動かなくなった所で望お兄様はソラをお姫様抱っこで抱えて離れる。

 そこでようやく両母が入ってきた。


「鳳凰寺氏、こいつをつまみ出してくれ!」

「ぇえ、早く、この狼藉モノを舞鶴湾に……!」


 と相手の母方が御母様に言うも、それを無視して望お兄様は襟を直すだけだ。

 鳳凰寺家のSPは遠巻きに見るだけで、動いていいか決めかねている様だ。


「しかし、ソラ君の母親はこんな魚人とお見合い、許婚いいなづけ、婚約、結婚まで見据えようとはひどい人だね?」


 と、本人がいる前で罵倒し始める。

 周りはウチも含め凍るが、望お兄様は全く気に留めた様子が無い。


「全くですわ」


 例外、ソラも気にしていないようだった。

 望お兄様から降りて、仁王立ちで御母様に目線を向ける。


「ソラ、何を言っているの……!

 妾の子で自由にさせてきたのは役目の為よ!」

「黙りたまえ」


 望お兄様の声が響き渡った。

 それは重圧を感じ、そして良く響く声だった。

 怒声は籠っていないはずなのに、それを感じる程、そこ知らぬ怖さを伴っていた。

 誰も彼もが言葉を発せなくなる。

 

「元三塚家御令嬢、少しはマシな相手を選べなかったのかね?

 ほら見た前、ソラ君の首元、キスマークがある。

 つまり婚前のソラ君に強姦未遂をここで行おうとしたのだよ、この魚は」


 首筋に赤いキスマークがついているのを見せつける。

 予め見ると、うわ、良く耐えましたのと、少し気分が悪くなる。


「甘くみられるのが、家の格にどう影響するかは重々ご存じの筈だが?

 写真は残したし、今、僕が一つボタンを押せば、判るね?

 送信先は110じゃない、そういうのを気にする人たちのコミュニティだ」


 望お兄様が御母様に言葉の刃を向ける。

 知らない相手に、いきなりド正論で殴りつけられたのだ。

 頭が整理がつかないのは当然だ。


「ど、どこの家の馬の骨よ、あんた!

 どうせ一般市民が正義感を持って割り込んできたんでしょ?

 あ、鳳凰寺さんが悩んでいた悪い虫とは貴方ね?

 お金ならあげるし、この場は許してあげるからさっさとどっかいきなさいな!」


 と、魚顔の母親が言う。

 フンと鼻で笑う望お兄様。


「鳳凰寺家の格を狙っている成り上がり。

 その上、強姦未遂野郎の母親にそう家の格とかは言われたくないね、全く。

 家族構成は調べさせ貰ったが、腹違いの弟の方がよっぽど優秀だし、そっちに継がすべきだと思うが?」

「な!」

「挑発しているのさ、節穴だと。

 恐らく、君は僕が大層なコミュニティに繋がっていないと思っているのだろう?」


 望お兄様がニコヤカに笑みを浮かべながら、その魚人母に近づき、何かを呟く。

 すると、魚人母の眼が見開く。


「――ひ、ひい。

 あの華族周り迄巻き込んだお家お取り潰し事件の犯人はお前か!」

「さてね、僕が嘘を言ってるかもしれないよ?

 ただ、犯人しか知らないであろう情報を知っているだけでね?

 いやぁ、虐めてくれやがったアイツを潰すのは骨が折れたね?

 僕も横浜の沖に沈みかけた。

 この発言も冗談だが」


 何の話だろうか。

 とてつもなくヤバいことが言葉の端から洩れた気がする。

 望お兄様の言葉遣いも一部が荒く、感情がむき出しだ。


「ぉ、九条のせがれがようやくきおったか」


 御父様がおっとり腰でここに来た。

 ソラやリクと同じ金色の金髪、年老いたライオンを思わせる風格、それが御父様だ。

 驚いていない様子を見ると想像していた通りの事が起きただけのようだ。


「お初にお目にかかるが、鳳凰寺・六道りくどう氏、証明して頂いていいかい?」

「あぁ、構わんよ。

 ワシが呼んだ、ソラの婿候補にな。

 勝手に嫁がソラのお見合いを組んだからそれの対抗としてじゃな?

 九条くじょう家、次当主、九条・望君だ」


 ウチは知らない名前の家だ。

 だからと言う訳ではないが、御父様は言葉を続ける。


「リクやソラは知らぬであろうが、ワシらの世代あたりならまだ名前は通る筈じゃ。

 あいつは頑張って家格にふさわしい力を取り戻しておるから、中央では最近よく聞くが」

「九条……ですって?」


 御母様が震え始める。


「そうこの前久しぶりにお前も見た九条だ、家の格としては十分じゃろ?

 お前やワシと同じみつりくの一家じゃからな。

 お前が連れてきたヤツよりよっぽどな。

 その懐刀じゃぞ?」

「いえいえ、さすがにそんな力はありませんよ。

 僕は虐めへ復讐をしただけで、お父さんがそれを利用しただけですので」


 狸と狐の笑いあいみたいにお互いに笑みを浮かべる。

 その顔つきが目元や顔つきが何となく似ている気がして、邪悪さを増している。

 実力者とか、そういった特有のモノなのかもしれない。


「で、どうするかね。

 そこの方、この望君と君の息子で比べあいをして貰いたかったのじゃが。

 突然の話で申し訳ないのは承知して下さると助かる」

「いえ、そういう話でしたら引かせてもらいますわ」


 それを聞いた、魚人母が魚人を抱えてドタバタと逃げていく。


「一件落着ですかね」

「いやまだじゃ」

「とりあえず、さっきのはお父さんに流しましたので相手は大変なことになるかと。

 この部屋に仕込んであったカメラの情報も含めて」

「それではない、それも目的じゃが」


 御父様が御母様に視線を向ける。


「ワシが若かったせいでピンチになったさいに鳳凰寺家を守ってくれたお前には感謝しとる。

 だから、その代償に家長権を渡していた訳じゃしな?

 しかし、今回の件は約束違反じゃ。

 勝手にお見合いなど組みおってからに、ソラは自由にさせる、お互いに取り決めたな?」


 御母様は黙ったままだ。


「とはいえ、離縁などせん。

 ワシ自身も情が沸いておるし、まだ抱き足りん。

 家長権を戻すだけで良いと思うが、どうじゃ?」

「……はい」


 ここまでが多分、御父様の狙いだと判った。

 御母様にモノを言えなかった御父様が凄く嬉しそうな顔をしていたからだ。


「さて、望君にも、一つ。

 ソラの許嫁になりなさい」


 ……へ?


 場の全員の時が止まった。ウチも含めてだ。

 訂正、星川だけ、口笛でひゅーっとしてた。この執事、自由すぎる。


「あちらも九条という家が来たから断ざる得ない理由が得られた。

 もし許嫁の話自体が九条の嘘で、嵌められましたと漏れたら、判るじゃろ?

 なら、それを事実とすべきであろう」


 それは物凄く狡猾な笑みを浮かべる父の姿だった。


「――嵌められましたね

 恐らく、それはお父さんも共謀してる」


 望お兄様は一瞬だけ上を見上げると続ける。


「お父さんならそこまで当然読んでいて、対策も打つ。

 その上でその話をするということは共謀している他にない。

 ここまでが計画か」

「ほほほ、察しがよくてよい。

 九条の倅がワシの娘と付き合ってると聞いてじゃな。

 これは良いと二人で決めた所じゃ」

「あのクソ親父、絶対、許さんぞ……」


 望お兄様が物凄く悔しそうな顔をし、歯が欠けそうな勢いで食いしばっている。


「ソラと婚約はイヤですか?「ダメですの」」


 ウチは望お兄様に艶めかしく詰め寄るソラのその言葉を遮った。


「ダメですの、ダメですの、ダメですの!

 望お兄様は私が、私が好きになった方ですの……!」


 ただ、それだけだ。

 望お兄様はソラの運命を変えた。

 けれども、リクは運命のまま生きていくしかない。

 御父様はソラを自由にと言った。

 つまり、ウチは次当主としてを全うしろということだ。

 それが判ってしまったからだ。

 つまり、リク、六を継ぐ者として。

 結局、姉と違い、ウチは欲しいモノも手に入らないのだ。


「っ!」


 どうしようもない感情の発露のまま、私は、走り出していた。

 望お兄様や周りも動き出そうとするのが見えた。


「星川!」


 叫ぶ。

 

「旦那様、すいません。

 減給はお受けします」

 

 振り返らない

 大きな音が後ろから鳴り響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on


cont_access.php?citi_cont_id=955366064&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ