2-29.締めは家族で。
〇望〇
「デート、最後に大ごとになったね」
美怜と広場で夜景を眺めながら、バスを待っている
「知ってたんだがね。
ソラ君がお見合いすることも。
ただ、あのタイミングで割り込まれるのはちょっとだけ悔しかった」
「私に目線を送ったのってやっぱりそういうことだったんだ。
ソラさんを無理矢理連れ帰るぐらいはしそうだから」
「物事には段取りが必要なのさ」
「良く分からないんだよ」
美怜を策略だとかに巻き込みたくはないので、あえて説明はしない。
が、気になる部分があったので突っ込む。
「美怜」
「なに?」
「もしかして全部見ていたのか?
肌まで塗装してるってことは僕を警戒してたんだろうし」
バレたかーと言いながら、ニシシと美怜が唯莉さんみたいな笑いをする。
悪戯がばれたかというニュアンスでやっているのだろうが、それはちょっとどうかと思うぞ?
「うん、そうだよー。
健全だったね?
メチャクチャイチャイチャしててムカムカにプンプンだったけど」
美怜の単語がカタカナで表現されて棘がある発音だった。
「埋め合わせはアイスで「ダメだよ」」
言葉を重ねられた。
行儀が悪いと怒ろうかと思ったが、
「私ともデート一回だよ」
美怜がすかさず、そう差し込んできた。
僕の口元がバッテンになったのを感じた。
「いや、デートと言うのはだな、水戸もいってただろ、相性の確認を「家族デートって知ってる?」」
僕の知らない単語が出てきた。
馬鹿な、美怜に単語力で負けるとはと、驚愕した。
「スマホで調べていいかい?」
「どーぞどーぞ」
その単語はあった。近代の造語のようだ。
家族の親密度を上げるお出かけの事を指す。
美怜の余裕の笑みの理由が判った。
事前に調べていて、しかも僕の家族観とも相反していないことが確信出来ていたのだろう。
確かに反対する理由がない。
「家族デート、だめかな?」
美怜が青紫色の上目遣いで見てくる。
しかも僕に抱き着いてきて、にじり寄ってくる。
まるで抱えた兎が胸元でスリスリとしてきているような錯覚を覚える。
凶悪だ。
「仕方ないなぁ」
美怜と家族デート! 家族観的にもありだな! と、僕の心の内である。
親密度はお互いマックス状態ではあるが、何かしらイベントを行うと楽しいということはソラ君とのデートからも理解できた。
自分の知らない自分に会えるのも新鮮だった。
なら断る理由はない。
というか、家族として当然のイベントならやるべきだね、うん。と自分自身的にも前向きだ。
「もしかすると美怜にはちょっとお願い事をするかもしれないし。
そのお代でいいかね?」
ともあれ、ただで譲歩するのは勿体ないと条件を出すことにする。
プラン❺のことだ。
「ん、判ったよ。
確定してないだろうから内容は聞かないけど、無茶なことはイヤだよ?」
「ありがとう。
やっぱり美怜は賢いな」
「えへへー」
頭を撫でてやると嬉しそうに体を震わせてくる。
お願い事の内容を聞いてこないのは有難い。
それに聴かなくても受け入れてくれる事実で信頼を確認出来てほっこりする。
ソラ君の事で荒んでいた気持ちが和らぐ。
「京都市内観光もいいし、いっそ違う所にいくのもありだよ。
望の元居た所とか?」
「ここからだと時間がかかりすぎるさ、関東は」
舞鶴からだと約四時間かかる。
「温泉とか行ってみたいんだよ。
絶対に行かなかったから、西舞鶴にある光の湯すら入ったことないんだよ。
人前で肌晒せなかったからね」
「考慮に入れておこう」
楽しみになってきた。
「で、明日どうするかは決めてるんだよね?」
「あぁ、大丈夫さ」
「頑張ってね、絶対阻止しないと許さないからね?」
でも、と口元を尖らせながら美怜は前置きをし、僕から離れる。
そして僕の方を振り返る。
「でも、私が一番だよ?
忘れないでね?」
「そりゃ当然さ、僕は家族を優先するからね」
「~♪」
美怜は嬉しそうに僕に抱き着く力を強くしてきた。
「望、ソラさんに自分から抱き着いたりしたし、不安だったんだよ」
口がバッテンになる。
「それに最後、リクちゃんが飛び出さなかったら私が飛び出してたよ?」
「あ、野生の美怜が飛び出してきたぞ!」
「私をポ〇モン扱いしないでよ」
美怜が呆れた様子で、赤い目のままジト目で見てくるのでやるせない。
美怜がやっていたゲームのセリフで場を和ませようとしたのにとても冷たい感情を受ける。
悲しい。
「聞いてはいたけど、ちょっとショックだったよ。
キスされそうになってたでしょ?」
「いつもソラ君に襲われてばかりだけどね。
一番最初は、美怜を追うことを説得してくれた時だ。
僕を元気づけてくれたんだ」
そう、病院傍の川べりだ。
なおデコキスはノーカウントとする。
「うー、それが無かったら私、焼き兎になって死んでたんだろうし、強く言えないよ」
「僕も彼女にその件で頭が上がらないしね。
恩に着なくていいと言ってくれてるが、
僕に初めて打算無しであそこまでしてくれたわけだからね」
「うー、仕方ないんだよ」
うーうー唸る兎は自分を納得させるように、言葉を口にする。
けれどもやっぱり納得できていないのか、口は尖らせたままだ。
そんな美怜を見ていて楽しいと思うが、不機嫌にさせておくのはバツが悪い。
意地悪をしたくなったのもある。
また、さっき湧き出た気持ちを確かめておく必要があるとも思ったからこんなことを言ったのだろう。
「美怜」
「ナニ!」
プンスカと僕に視線を向けてくる。
「キスしてみようか?」
「――へっ?」
美怜の動きが止まった。
とりあえず、動き出さないので頬っぺたを軽くひっぱる。
柔らかい餅のような頬が伸びる。癖になりそうだ。
そして離す。
「ひぃたい、頭大丈夫、望?
さっきまでソラさんとデートしてたのに、何を言ってるの?
女たらしなの?
あるいは私をソラさんの代理品扱いしたいの?」
心配そうな表情を浮かべてきた。
失礼な奴である。
確かに、やるぞと思ったことを完結出来なくて悔しいというのはあるのだが、その埋め合わせで美怜を求めているわけではない。
「なら、いいか。
家族デートがあるなら、家族キスぐらいはありだと思ったんだが?」
「ごめんなさい、したいんだよ、早くしよ!」
興奮した美怜が謝罪をしながら詰め寄ってきた。
「うー、望、届かない」
身長差があるため、僕にしがみつきながらピョンピョンとジャンプする美怜
元気な兎であるが、ムードの欠片もない。
が、家族でムードというのもおかしな話である。
美怜の頭を押さえ、こちらから腰をかがめて唇を当てようとし、
「むぐっ!」
当然の用に舌を入れられた。
僕の口内を楽しみように美怜の下が歯茎を舐めていく。
逃げようとするが、美怜に頭を押さえつけられ、それが叶わない。
ゾクゾクとした快感が脳裏に刻み込まれていく。
理性が解けそうになり、抵抗を試みる力が抜けていく。
美怜の甘い唾液が僕の口内を染みわたっていく。
そして離れると唾液のアーチが名残惜しそうに出来、崩れる。
「えへへー、ごちそうさまでした!」
美怜がニコニコと上機嫌になり、自分の唇を小指でなぞる。
その艶めかしい姿に、ゴクリと唾を飲む。
飲んだ唾は美怜の味がした。
「舌!
ディープなキスまで許可してないぞ!」
「あ、ごめん、つい、いつ――いや、何でもないよ?
でも、どうして急に?」
「初めて自分からキスするのは美怜がいいなって感じたからだ。
いつも受け身だったからね?」
慌てて弁解する美怜が質問してきたので正直に言ってやった。
ソラ君とキス迄はいくだろう、自分からしようと思っていたのに出来なかった。
美怜の顔が浮かんだからだのはこういうことだと、今、はっきり結論付けられた。
「えへへー。
望はやっぱり私の事、一番に考えてくれてる」
美怜が夜景よりも眩しい笑顔で嬉しさを零してくれた。