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2-27.空(ソラ)にちかい。

〇望〇


「凄いな、これは」


 五老スカイタワー入口でバスから降りると、そこには空が近かった。

 まだ塔、上があるというのに青空が広がる三百六十度パノラマ。

 リアス式海岸が海の上を緑の島々が美しく覆う。

 逆を見れば、丹後の美しい山脈が連なる。

 学校屋上からも素晴らしい景色は見えるが、こちらは東舞鶴が手に届きそうな程近い。

 また、学校は山の斜面に作られており、片方が見え無いのも大きい。

 開放感がある。


「実際に見ると近畿百景第一も納得ですわよね」


 そう言い、ソラ君が広場に駆けていく。

 そして大きく手を空に広げ、上を見つめる。

 

「久しぶりにきましたが、凄く良い所ですわね」

「そうだね」


 彼女はチェック柄のスカートと煌びやかな金髪を風に遊ばせ、 僕に顔を向けて同意を笑顔で求めてくる。

 その姿はモデルのような美しさと少女のあどけなさの両方を携えた今だけの特別なソラ君。

 言葉にすると陳腐になりそうだが、奇麗だ。

 それが僕だけに向けられているのだ。

 優越感というのだろうか、今まで美怜以外に余り感じなかった感情が湧いてくる。

 来てよかったと思う。


「どうしました?」

「いや、ソラ君がとてもいいなって、イキイキしている」

「――?」


 聞かれたので答えたら、ソラ君の挙動が止まった。

 なのでもう一回言ってやる。


「ソラ君がとてもいいなって、イキイキしている」

「ふぁ。

 そんな風に言われたの初めてで、どうしたらいいのでしょうか」


 照れ照れと手で顔を隠し、顔を振るソラ君がいちいち可愛い。

 

「ソラ君、美人とか、誉め言葉は言われなれているとは思うんだけど?」

「そうなんですけど。

 先ず望君、ツンの要素が多すぎてそういう言葉が貴重。

 次、私、初恋なんですよ?

 心がドキドキ言いすぎて制御不能なんです。

 最後に、イキイキって言われたのは初めてで、他人とは違う所を見てくれてると感じるだけで……

 認められてる感ありますわよね!」


 暴走し始める。

 確かに、女性相手の心理としては、人が指摘しやすい場所を褒めるより、細かい変化に気づいていることをアピールした方が良い。

 例えば、髪型なんかは顕著な例だ。

 理由はそれによりこの人は私を見てくれているという承認欲求が高まりやすいからだ。

 自分の知識と当て嵌めると成程と理解できる。


「ソラ君、ほら落ち着いて。

 塔に登る前に周りを観ようか」


 とはいえ、暴走させすぎると投げ飛ばされたり、食われそうになるのでコントロールだ。

 手を持ち、落ち着かせながら先導する。

 彼女の手は美怜より大きく感じたが、細く、爪の先まで入念に手入れされている。

 赤みと白と褐色肌のコントラストが良い。

 

「の、望君。手」

「イヤだったかい?」

「いえ、繋いでくれて、凄くドキドキするんです。

 冷たくて気持ちいい手ですね」


 言葉にしないで欲しい。

 僕もドキドキするから。

 こんなことを口から言葉にすると、ソラ君も僕もどうにかなりそうな気がするので言わない。

 顔を合わせるのが気まずいのでまっすぐ向いたまま進む。


「桜の季節だったら、それはそれは奇麗なんだろうね」


 タワーの周りは公園になっていた。

 遊具が有ったり、カフェテラスが有ったり、お花見デッキもある。

 桜も百三十本埋められているそうだ、パンフレットに書かれている。


「美怜さんも一緒にお花見来ましょうか、来年」

「いいね。

 でも、デートじゃなくていいのかい?」

「美怜さんとも仲良くなりたいですし、

 それに二人だとお花見には向きませんモノ」


 だって、と付け加えるソラ君は、頬を染めながら僕を見つめる。


「こんなにもドキドキしてたら、桜より望君観てしまいますし」


 桜色に染まった頬が艶めかしい。

 心の底から湧き出た、抱きしめたくなる衝動に駆られる。

 美怜の時に出た、甘えたいとは違う感情だ。

 それが何かを整理し、先ずは心に余裕を持たせ、落ち着く。

 そして前から柔らかく抱きしめる。

 

「の、望君?」

「なんというかね、嬉しくなりすぎてね、抱きしめたいと思ったんだ」

「いえ、私でよければいつでも抱きしめて貰っていいですよ?

 それ以上も」

「最後のセリフで台無しだが、ありがとう」


 ソラ君の体温とスッキリとしたシトラス系の香水の匂いを楽しみ、離す。


「望君からは初めてですね?」

「そうだね、いつもソラ君には襲われてばかりだから」


 投げ飛ばされること数回、トイレ破り1回、何ともだ。


「しかし、安心しました」

「何を?」

「望君がホモじゃないかって、美怜さんに深刻な表情で相談されていたんで」


 何を言ってるんだ、あの依存先は……。

 この前、抑えるので精一杯になった人の気も知らずに。


「一人でもなされてないようですし?」


 頭が痛くなってきた。


「何か原因でも?」

「ちょっと、昔ね。

 結末も最悪だったんで、少し抵抗感があるんだ」


 赤い記憶が脳裏にチラつくが、心を平静に保つ。

 それでも右手が震えている。


「判りましたわ」


 その手を両手でふんわりと包んでくれる。

 僕の心が軽くなるのが判る。


「話せるようになったら、お願いしますわ。

 でも良かったですわ」


 安堵の息。そしてソラ君は続ける。


「私や美怜さんに魅力が無いのかと」

「何で美怜が出てくるかは置いておくが、そんなことは無いからな?

 結構、ギリギリまで来てることもある」

「あら、それは嬉しいですわね?」


 性的な眼で見ているぞと最悪な内容で吐いた言葉だが嬉しそうに飲み込むソラ君。

 その考えを察してか、ソラ君は続ける。


「他の人がたまに性的な眼で私とか、美怜さん見てるのは嫌悪感しかありませんけどね?」

「誰だ、水戸か?」

「霞さんは性的な眼では全然。

 胸には目が行ってますが、性欲というよりそれ自体が好きなのでは? という感じで……

 さておき、有象無象ですわよ」


 水戸、処刑は免れたぞ、良かったな。

 とはいえ、まぁ、致し方ないと飲み込む。

 二人とも目立つし、美人だし、可愛い。有名税みたいなものだ。

 美怜も慣れていく必要はあるし、自衛を覚える必要もあるだろう。


「さて、そろそろタワーに登りましょうか?」


 と、手を繋がれたまま引きずられ、入口で二人分の四百円を支払う。


「私が払いますのに」

「こういうのは男が払うもんさ」


 ふふっとソラ君は笑うが、嬉しそうだった。

 

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