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2-24.姉の立場をNTLする兎。

〇美怜〇


「楽しそうだね」


 隣の黒髪をした女の子にそう話しかけると、悔しそうにハンカチを噛んでいる。

 リクちゃんだ。

 金髪はとても目立つので、先ほどから、予備の黒いカツラを渡して装着させている。

 ポニーテールが長めの奴で、似合っている。

 なお、お供の星川さんは大興奮して写真を撮りまくっていた。

 そんな星川さんは目立つので車で待機中だ。

 身長が望より高い上に、黒スーツ、サングラス、どうやってもムリだ。


「ぐぬぬぬ。

 どうしましょう」

「リクちゃん、前のめりにならないでね?

 これ以上、近づくと多分バレるから」


 望の認知距離から少しだけ遠めの五十メートルをキープしながら、木の陰になったベンチに座る。

 ソラさんと望もお弁当なので、私もお昼休憩にすることにしたのだ。

 楽しそうにお道化たりしているので、凄く羨ましい。

 今度、私も望をピクニックに誘うことにする。


「さておき」


 鞄から水筒とランチボックスを取り出し、念のための日傘を指す。

 目立たない様にお気に入りの白いヤツではなく、薄い青色のモノで望には見せたことが無い。


「……何言っているか聞こえませんわね」

「これ使っていいよ」


 言われたので、小型のイヤホンが繋がれた機械を渡す。


「これは?」

「指向性収音機の予備」

「カツラの件といい、変装と良い、美怜お姉様は探偵か何かですの?」

「普通の女子高生だよ?

 出自は叔母のモノ」

「謎ですの。

 美怜お姉様と言い、その叔母さまと言い」


 ストーカーするからと唯莉さんに相談したら、嬉々として戸棚の位置を教えてくれた。

 全く持って唯莉さんは謎がまだある。


「リクちゃんも食べる?」


 サンドイッチを差し出す。

 差し出したのはハムとチーズ、隠し味にわさびマヨ。

 他にも、イチゴジャムバターやアンバター、玉子焼き何かも入っている。

 望には同じものを朝ごはんに置いておいた。

 美味しく食べてくれていたら嬉しい。


「星か……」

「星川さん呼ぶと目立つから、ヤメテね?」


 釘をさす。

 ここは東舞鶴、海上保安隊の入っている建物の裏、木以外の遮蔽物が無い緑地公園だ。

 大きな錨が置いてあったり、海に海上保安隊の船が浮いているが、それ以外は魚釣りをしている人や散歩をしている人だけだ。

 黒ずくめは目立ち過ぎる。


 ――くきゅー


 音の主、リクちゃんが恥ずかしそうにお腹を押さえ、顔を真っ赤にする。

 

「どうぞ、多分美味しいよ?」


 笑みを浮かべなら渡す。

 恐る恐る取り、彼女は一口。


「……おいしい」

「よかった」


 最近、他人に食べてもらう機会が増えた気がする。

 望のおかげだ。

 とはいえ、自分の味覚と調理が不安になることがあったので、リクちゃんの言葉で軽くなった。


「料理されるんですか?」

「晩御飯は望と交代でね。

 朝ごはんとお弁当は私が作るけど。

 お父さん、いつも家に居ないから」


 唯莉さんは家出したままだし。

 家主の家出は今でも謎なパワーを感じる言葉である。


「うちの給仕と同じくらい美味しいですの」

「それは褒めすぎだよ」


 事実、ソラさんに勝てていない。

 望にも勝ててない。

 まだまだ精進しなければならない。

 でも、リクちゃんが一つ二つと次々食べてくれる姿を見ていると、嬉しいのは確かだ。


「ぐ」

「あ、はいお茶」


 詰まらせたのを見て、妹が居ればこんな感じなのかもしれないと思いながら、冷たいお茶を渡す。

 望は殆ど自己完結しており、頼られることは少ない。

 だから、頼りまくりの私は妹という役割が多いのだろう。

 ただ、それは頼られたいという願望を否定するものではない。


「ありがとうございます」

「いえいえ、ゆっくり食べていいよ。

 しばらく、望もソラさんも動かないだろうし」


 監視対象に視線を向ければ、今日はランチボックスを広げたソラさんと望が楽しそうに会話している。

 時折、望がぺー太君のような表情をしているのも双眼鏡を通せば判る。

 単語帳を取り出して、クイズし始めて、二人とも真面目だなとは感じる。


「ソラさんはいいな、リクちゃんみたいな妹が居て」

「家族では会話してません。

 ソラを姉と呼んでもそれは単語でしかないです」

「じゃぁ、私がお姉ちゃんになろうか?」


 気付いたら私はそう発していた。

 考えていた訳ではなく、そうしたいからそう発言していた。

 家族というモノに貪欲になってきている気がするのは間違いないだろう。


「そんなに真剣な顔にならなくてもいいよ?

 私も思い付きの提案だからね?」


 リクちゃんが悩んだのを見てフォローを入れる。

 確かに連絡の取り合いをしている仲とは言え、それだけだ。

 私の提案に付き合う義理は無い。

 望とは違うのだ。


「――お姉ちゃん?」


 不意に代名詞だけで言われ、私の心が鷲掴みにされた。

 抱きしめたくなる衝動を抑えながら、深呼吸を繰り返す。

 危なかった……!

 望を押し倒した件と言い、自制心が利かなくなる。


「大丈夫ですか⁈」

「凄く、私にクリティカルだっただけだよ。

 私ね、ちょっとだけ家族への羨望が強いんだよ」


 ちょっとだけと言ったら、望は嘘だと言いそうだし、小牧さんも嘘ねというだろう。

 そんなに変な覚えはないのだが。

 さておき、


「望とも三月に会ったばかりでね、それまでは家族を知らなかったんだよ」

「事実は九条お兄様からお聞きしておりますが、それが何故?」

「ちょっと長くなるよ?」


 はてなマークを緑色の眼を浮かべてきたので、私は少し前の話をしはじめる。

 内容としては私と望が血縁的に家族でも何でもない関係は省いた。

 つまり自殺演技の部分なども省略だ。

 双子だと説明していた望が言っていないだろうことは安易に想像できる。

 これは外に出す必要が無い情報で、私と望、後、ソラさんが知っていれば良いことだ。


「ウチのソラが馬鹿な真似をして、申し訳ありません」


 リクちゃんがそう頭を下げてくるが、大丈夫だよと返す。

 私は何も気にしていないことだ。

 それに、


「いえいえ、ソラさんのことは望が悪いから。

 望の事、嫌いにならないで上げてね?」


 私としてはそこが懸念事項だ。

 しかし、リクちゃんはそんな心配は無いと拳を握りしめる。

 恋は盲目とはよく言ったものだ。

 私は経験が無いので判らないのだが。


「いえ、逆に九条お兄様へのソラの愛というのが作られたものだと確信できたので、収穫でしたの」

「作られても、本物は本物だと思うけどね、当人納得していれば」


 私がそういうとリクちゃんは納得いかないような顔を浮かべてくる。

 当人の考えなので押し付けてはいけない気がして、これ以上は突っ込まない。


「ソラさんはリクちゃんのこと嫌いなのかな」

 

 ふと沸いた疑問を投げかける。

 ソラさんの会話にはリクちゃんのことは話題にならない。

 家族に認められてなくて寂しいとは聞いたことがあるが、それだけだ。


「――ウチはソラが嫌いです」

「なんで?」

「何でも出来るから、比べられるからです。

 当主だからソラよりも頑張れ、成績を良くしろ……当主たれと、皆言うんです

 ソラが居なければ比べられることも無い!

 あの女さえいなければ、リクはもっと気楽に!」


 トリガーを引いてしまったのか、堰をぶちまけるように感情をぶつけてきてくれた。

 それを嬉しいと感じる私が居る。

 こういう反応を受け止めるのが姉の役目だろうと思ったからだ。

 お姉ちゃんと言ってくれたのだ、私はその分、リクちゃんを助けたいと思った。


「ふーん。

 別にそれは自分が悪いんじゃないかな」


 厳しい口調に成っていることは自覚している。

 脳裏では望が私にしてくれたことを思い返していたからだ。

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