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2-23.ストーカー仲間。

〇美怜〇


 土曜日。

 というわけで尾行である。

 絶対バレない変装をしているが、距離を保ちつつだ。

 あの二人、望とソラさんは頭が良いし、鋭い。

 何度か見られたら、オカシイと思われる可能性があるので、駅舎の二階から観察している。 

 私が来るより先にソラさんは西舞鶴駅の広間に居た。


「ソラさん、凄い奇麗」


 と、双眼鏡を覗きつつ、素直に感嘆の声が出る。

 ちゃんとまとまった服装をしており、と思えば、背伸びなどの無理が無い。

 自然体でかつ、上品にまとまっているのに、気取った感じが無い。

 色合いも考えられており、彼女の褐色の肌や金髪といった難しい色合いにもあい、季節感も問題ない。

 自分の格好を見る。


「仕方ないよね」


 今は変装中だからと自分に言い訳をしながら、納得する。

 何せ女の子の格好をしていない。

 黒の長袖カットソー、下はジーパン、更に上に深めのニット帽に、背中に男性モノの大きめのリュックだ。


「よし」


 そしてガラスに映るは小柄で太めの男の子。

 黒い短髪のカツラ、肌はアルビノを隠していた例の色付きのクリーム。

 カラーコンタクトだけは在庫を切らしていてそのままだが、感情さえぶれなければ問題ない筈である。

 胸はサラシを思いっきり巻いた。正直、久しぶりなので苦しい。太ったのかもしれない。


「望も来たね……」


 望が来たのは、私が来てから三〇分後、約束の時間と聞いていた時間より三〇分はやい。

 望は清潔感を重視したようだ。

 長袖の白いワイシャツ、その上から黒の羽織モノをしている。ズボンはタイトなスラックス。

 靴は黒ベースのスニーカー。

 全体的に二色で纏められており、ゴージャス感はないモノのコンゴのサプールを思いおこさせる。


「シンプルでカッコいい」


 とはいえ、普段からキッチリしている望なので、私と外に出る時と大差ないことにはホッと胸の荷が下りる気分だった。

 これでいつも以上だったら、嫉妬心が芽生えたかもしれないと、心がささやいている。

 

 隣でモノが落ちる大きな音がした。


「リクちゃん?」


 いつの間にか、隣に女の子が居た。

 ワナワナと震えながら双眼鏡を拾う姿は子鹿のようだ。


「どどどど、どちらさまでしょうか」


 ラップかな?

 いきなり呼ばれても自分の名前を呼ばれたら、反応するのをパーティー効果というらしい。

 さておき、こちらに向いた眼が、困惑に満ちている。


「あ、変装してたんだった。

 私、美怜だよ

 ほらリクちゃんが行ってた通り、こっそり付いていこうと思って」

「――へ?」


 眼を見開いてみてくるので、携帯を見せてラインのログで証明する。

 そしてカツラも少しずらして、白い髪を見せる。 


「あ、美怜お兄様であられましたか」

「リクちゃん、変装だからね?

 私の性別は女だよ?」

「いえ、普通にカッコよくて驚きましたが」

「カッコいいといわれて喜べばいいのか判らないんだけど」


 さておき、カツラを整え、望達に双眼鏡を構えて話を続ける。


「で、どうしたの?」

「いえ、姉がデートをすると聞いたので、それを監視するためにきたのですが!

 携帯のGPSを追ってきた所に九条お兄様がソラの待ち合わせに現れて!

 なんで二人楽しそうに話してるんですか⁈

 ウチ、言いつけ守ったら九条お兄様に嫌われるルートが見えますの!

 どうしましょう、どうしましょう……!」


 興奮して話すリクちゃんの行動に甘引きしながら、目線を向けると一つ思い当たる。


「お姉さんてソラさん?」

「……はい」


 苦い顔をしながら首を縦に振ってくれる。

 なるほどと合点がいった。

 確かに金髪と眼の色がそっくりだ。

 肌の色は違うが、ソラさんは妾の子という話で腹違いなら当然あり得る。

 いやまぁ、アルビノだと同じ腹で同じ元でも色違いは双子でもあり得るわけだが。


「あんなお姉さんが居たらそんな苦い顔をするのは判るよ。

 私も自分と比べると女性としての格差を感じるもん」


 話のネタにする理由、つまりこういうことだろうと推測を付けて話す。

 その言葉にリクちゃんは一瞬驚き示し、


「すいません、握手してよろしいでしょうか!」


 手を求められたので差し出す。

 小さい私の手よりも小さいが、握られると力強くブンブンと振り回され、嬉しさを表現される。


「で、答えだけど、あの二人付き合ってるからだよ」


 (仮)の件は、常識外なのであえて話さないことにする。


「――星川」

「はっ」


 不意に後ろに気配が現れる。

 そこには黒ずくめの女執事が居た。

 ソラさんより更に背が高く、望と同じくらいだ。


「ど、ど、ど、どうしよう」

「お嬢様、落ち着いてください、慌てるお嬢様も素敵ですが」


 リクちゃんが狼狽しながらその人に抱き着く。

 サングラスをしていたり、手は白い手袋をしていたりで、かなり表面上の情報が拾いずらい。

 ソラさんには執事とかいないよね、と思いつつ、星川と呼ばれた女性を観察する。

 年齢は声のハリから三十? 

 違和感。

 良く見れば首から下にかけて火傷の後の様なものがあった。

 目立たない様に私と同じような肌色のクリームで隠しているようだ。


「もう二人ともコンクリで沈めたらどうですか?」

「ソラはともかく、九条お兄様はダメ!

 というか明日の事があるからソラも埋められない!」


 ともあれ、いつまでも狼狽する姿を観察していても進展がない。

 星川さんもそれを止める素振りは無いどころか、過激発言で火に油を注いでいる。


「リクちゃん、望のこと好きだよね?

 私に近づいたのもそれが理由だよね」


 話題の切り替えも兼ねて、当初から懸念していたことを確認するために言葉にする。

 私が一番最初に警戒していた理由だ。

 根拠は女の勘、ソラさんと同じような目線を望に送っていたからだ。


「――はい、利用したかったので」


 声を小さくし申し訳なさそうに言ってくれるので、別にいいかなと思う。

 ライン自体を送りあうことは初めての経験で楽しかったし、経緯はともあれ、継続しない理由にはならない。


「素直ないい子だね、リクちゃん。

 これからもよろしくね」

「え?

 えっと、よろしくお願いいたしますの」

「私としては望が誰かに好かれるのは歓迎すべきことだし。

 望が私を一番に考えてくれてる限り。

 それだけ抑えてくれるなら私はソラさんもリクちゃんにも平等だよ?」


 手を差し出すと、理解が難しいという顔をされながらもリクちゃんは手を握ってくれる。

 あまり過去の因縁にとらわれても仕方ない。

 自分自身、虐めの過去から解放されて、今があるので特にそう思う。

 それに私だけの依存症を理解されてもそれはそれで困る。


「私は望観察を続けるけど、どうする?」

「……ご同行します」


 仲間が増えた。

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