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2-22.デート(仮)。

〇望〇


 ガラス張りで作られた西舞鶴駅。

 その駅前、田舎としてはそれなりの人の数。

 電車が来た所なのだろう。

 時折、通る人から目線を向けられており、やはり彼女は衆目を集める魅力があるのだろう。


「待ったかね?」

「いえ今来た所ですわ」


 と、言いながら時間はまだ三十分前の十時半。

 かなり早い時間だ。

 見れば、ちょっと髪が湿っている感じがある。

 朝は少し雨が降っていた筈だ。

 雨のち晴れ、昼からは問題ないので十一時と約束したわけだが、その手には畳まれた傘があった。


「ソラ君。

 何分前からいたのかね?」

「今から一時間前ですわ」


 九時半か、もうちょっと早く来ればよかったかなと思う。

 僕も六時に起きて、支度を始めていたから出来なくはなかった筈。


「いいんですわ。

 ソラは待つのも楽しみにしたかったので」

「そういうものかい?」


 察してくれたらしく、そうフォローをしてくれる。

 ありがたい。


「えぇ、イメージして、イメージして、イメージして期待を膨らませると凄く幸せでしたわよ?」

「それはプレッシャーだね?」


 ちなみに支度を終えると美怜は自分の部屋で作業をしていると出てこなかった。

 朝ごはんはサンドイッチが用意されていたので美味しくいただいたが、何というか、寂しい。


「今はソラのことを観てください。

 美怜さんのことは判りますが、デートですよ?」


 頬を両手で抑えられながら窘められる。

 確かに、と申し訳ない気持ちになる。


「良く似合ってる。

 色合いもいいし、カジュアルながらも奇麗にまとまっていて大変良い。

 一見、肌の色や髪でコギャルなどに勘違いされそうなのに、それをさせない清楚さの感じもいい」


 ただ、謝罪を求められているわけではない。

 ちゃんと観て感想を述べる。

 膝まで伸びた濃い目の緑と黒のチェック柄のプリーツスカート、白のスエットとそれに合わせた白い靴。

 確かにソラ君によく似合っている。


「ソラ君?」

「いえ、嬉しくて、思考がオーバーヒートしてしまっただけですわ」


 僕の頬から放した手を赤らめた自分の頬にあてて、顔をそむけるソラ君。

 微笑ましい。


「実際、どんな風な反応をされるかニヤニヤしながら、待っていたわけですが、

 実際に言われたらもう感情が溢れでして来ましたわ。

 こんなにも自分を見てくれる方が居るって幸せなんですね」


 ともあれ、凄く恥ずかしいことを言ってくるので、僕も頬が熱くなるのが判る。

 だから、誤魔化すように彼女から僕も顔を背ける。


「まだ、デートも序盤だというのに、大丈夫かね?」

「このままホテル直行しても良いのではないかと思うぐらいにはダメですわね」


 冗談を交えてくれる当たり、まだ余裕はありそうだ。

 ソラ君がその気なら今、手を引かれて連れていかれる気がする。

 抑えきれないと行動を起こすのは良く知っている。

 顔をソラ君に向けると、ソラ君も僕に顔を向けなおしたところだった。

 目線が合う。

 そしてどちらかともなく笑いが飛び出る。


「何やってんだろね、僕たち」

「ほんとですわ」


 そうすると先ほどの緊張が無くなり、お互いに自然体になる。


「そしたら商店街の方に行こうか」

「はい」


 二人並んで歩きだす。

 駅から商店街の入り口はそう遠くない。


「そういえば、商店街は歩くのかい?」

「あまりないですわね、大体は路面電車で通り過ぎるだけですので」


 僕らの隣を路面電車が丁度走り去っていく。

 道の駅、とれとれセンターへの観光客を乗せており、それなりの人を乗せているのは見えた。

 途中で降りて、田辺城に行く人もいるだろう。

 電車がアーケード街に入っていく。

 アーケード街の入口には魚屋があり、新鮮なモノを色々取り扱っている。

 人も多く居り、地元、観光客の両方の層が見える。


「あ、とびうおが出てますわ」

「関東ではあまり食べない魚で、こっちに来た時は驚いたね」

「そうなんですか?」


 そんな発言を皮切りに、他愛のない話をしながらアーケードの中へ。

 それなりに活気のある僕と美怜の住んでいる所もすぐそこの商店街だ。

 一通りのモノは揃うので、重宝している。

 人柄も田舎特有の温かみがある。

 中の建物はレンガ調が多い。

 また道路の舗装はタイルが敷き詰められており、その真ん中をレールが二本はしっている。

 しばらく行くと市民プラザが見える。


「ここはたまに使いますね」


 と、示されたのは市民プラザの横に設置された水飲み場。

 水がコンコンと絶え間なく湧き出ており、柄杓も置かれている。

 たまに前を通る訳だが気づいていなかった。


「平成の名水百選にも選ばれたことのある、真那井まないの名水ですわ。

 京都にも知られており、昔には幽斎ゆうさい……細川ほそかわ藤考ふじたかもお茶に使われたことがありますわね。

 実は細川・藤考が作った初めての上水道にも使われた由緒正しい湧き水なんですわ」

「興味深いね。

 歴史学は表面上でしかなぞってない僕が調べたことがある人だね。

 戦国期日本文化を代表する人で、千利休、古田織部と共に名前が出てくる。

 昔から大河ドラマなんかでもチラホラと出てくるね?」


 自分の事のように、誇らしげにするソラ君は僕の言葉で嬉しそうになる。


「何か所縁ゆかりが?」

「……舞鶴に残った傍流ではありますし、実母以外にも海外の血もいれてますが、子孫です」


 資料の欠落部分を唯莉さんに問い詰めたらクフフと笑っていた部分だ。

 学校図書館の郷土史を調べたら出てきた部分で影響力や市議会員である親などに背景的な理由がちゃんとついた。

 孤児院に捨てられた僕なんかとは違い、ちゃんと血統証明されたお嬢様だった訳だ。

 それ自体は問題なかった。

 それよりも驚いたのは、郷土史の中に挟まっていた鳳凰寺家と九条家の関係性についてのレポート。

 観たことのある文字で書かれたそれは明らかに唯莉さんが作ったものだった。

 家族計画の前に鳳凰寺家のことをあえて僕に教えなかった理由も見えてきて、それをその場で問いただされない様にと資料を分けたのだろうことも理解できた。


「怖い顔してますわよ?」


 唯莉さんの手のひらの上という事実に憮然としていたのが顔に出ていたようだ。

 心配そうに僕を見つめてくるソラ君。


「ソラは敵にはなりませんわよ?

 望君の為ならなるかもしれませんが」


 どうやら勘違いさせてしまったようだ。

 申し訳ない。


「僕の事大好きだもんね?」

「そうですわ」


 誤魔化すように意地悪っぽく言ってやる。

 と、臆面もなく返してくるので仕掛けたこちらの方が恥ずかしくなる。

 真剣な表情で見つめられても困るのだがね?


「ふふ、口元がバッテンですわよ」


 ソラ君が小悪魔のように笑みを浮かべる。


「一本取られたね」

「ふふ、勝てましたわ」


 楽しそうな彼女を見ながら、僕は素直に負けを認める。

 何だか、ソラ君の手玉に取られることが増えているが悪くはないと思う自分が居る。

 勝負をコミュニケーションと楽しみながら、勝ちでも負けでもどっちでも良い関係は気楽だ。

 確かにこういう関係は彼氏彼女なのかもしれない。


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