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2-21.小話の表側。

〇リク〇


 姉がまたオカシイ。

 何というか壊れたような気がしてならない。

 先ず、普段はこれとスグ決まる服をあれでもないこれでもないと選んでいる。

 取り付けた盗撮カメラから送られてくる映像は、完全に浮かれて一人ファッションショーをしている。


「星川、ソラが何かあったのか調べたの?」

「土曜日、デートするらしいですよ」

「……は?」


 ……は?


 ちょっと、私の耳か頭がバグを起こしていた気がする。

 この前、姉の観察とはならなかったが、進展があったようだ。

 ふと九条お兄様の顔が浮かび、両想いになれたらなと思うと少し羨ましい。


「ち」


 とはいえ、ソラの幸福はウチの不幸せである。

 ソラは出来て、ウチは出来ない。そんな現実がウチを惨めにする。

 だから、ソラが嫌いだ。


「ウチなんてまだ、メッセージを送りづらいというのに!

 何と書けば気に入ってもらえるか、何と書けば気に入られないか、それを考えているのに!

 だから、代わりというか美怜お姉様にばっかし送信しているというのに!」


 何とも言えない、黒感情が沸く。

 まあ、最後の美怜お姉様との会話は楽しいからいいのだが。

 さておき、


「土曜日、真那井まない商店街入口で集合、散策、最期は五老スカイタワーにいくそうで」

「よくそこまで調べましたわね」

「聞いたら教えてくれましたよ?

 何というか惚気まくりで、嫉妬マスクになりそうでしたよ」


 わきの甘い女である。

 さて、邪魔をしてやろうかしらとも思い、プランを練る。


「相手の情報は聞いてる?」

「なんだか、同級生の同じ学年の男性らしいですね。

 青春、羨ましいですね、全く」


 三十路が嘆いているが置いておこう。

 

「流石に横取りは無しにしといて……」


 ウチは九条お兄様が好きになってしまったので、他の人と嘘でも付き合う気は無い。


「失敗するように仕向けるのはありよね」

「お弁当をすり替えるとか?

 時間に間に合わせないようにするとか?

 そもそも相手を舞鶴湾に沈めてしまうとか?」

「存外、星川も過激発想よね」


 全部実行可能な案ではある。

 とりあえず、念頭に入れておく。


「相手を確認したいのが一番ね。

 どうでも良さそうな一般人なら、それでソラを笑うことが出来る。

 相手をこき下ろしたら、どんな顔をするか想像するだけでフフフフフ」

「うわー、超悪役っぽいですわ。ゾクゾクしますねー。

 そんなリクお嬢様も素敵ですが」


 と、許可も無く、写真を撮る星川。

 でも、ウチは上機嫌だから、許す。


「で、相手がそれなりなら、拉致、監禁、暴行コースですかね。

 とはいえ、ちょっとソラお嬢様にも関わる話がありましてね」

「詳しく」


 星川が興味を引く情報を言ってくれる。

 この執事はやはり優秀なのだ。


「特に口止めもされていませんのでいってしまいますが、

 御母堂様がお見合いを組んだみたいです。

 来週、日曜日で相手は了承済み。

 本人には直前に伝えるとか、逃げられない様に」

「お母様が?

 すごくいいタイミングね。

 後で私からも聞いておいた方が良さそう」

「中央に伝手を持っている方のようですね。

 写真は無いですが」


 ふむ。どうせ、脂ぎった中年か何かだろう。

 興味も無い。


「どこからの情報?」

「この前、旦那様のアッシーをした際にご友人とお二人の会話からです。

 詳細は聞こえなかったのですが。

 ちなみに旦那様が楽しそうに会話をするのは初めて観ましたよ」

「それは珍しい」


 最近、星川がアッシーに使われてるおかげで、自由な時間が増えているのでウチとしてはありがたいのだが。

 さておき、結論、ソラの初恋は実らない。

 このことを突き詰めて、ニヤニヤするのは楽しみで仕方なくなってきた。


「まぁ、そういう道具としてソラは自由にさせてるみたいなものだし、

 お役目を果たして貰うのは当然」


 となると、特に結果が決まっているのだから手を出す必要も得には無い。

 今をたっぷりと楽しませた方が、後での落差は大きい。

 なら、ソラの空回りの楽しみを外から見ていた方が後での愉悦も大きくなるというモノだ。


「星川、ちょっと姉をストーカーするから、スケジュールを空けさせなさい」

「もう済んでますよ」


 流石である。


「一応、護身用にこれ渡しておきますね?」


 拳銃を渡された。


「あ、間違えました」

「……なんてもの渡すのよ。

 ここは日本よ?」

「いやいや、モデルガンですよ。

 改造してますから人撃ち抜けますが。

 こちらです」


 これも銃型をしていて、同じくらいの重さだ。


「……てんどんボケかしら」

「こちらはテザーガンです。

 簡単に申し上げますと、電極を発射するスタンガンです。

 十メートルは有効距離なので、リクお嬢様でも安全に使いこなせるかと。

 普通は死にませんし、電流を止めるとすぐ回復します」

「普通はって……」

「稀に死亡事案があるので」


 不幸な事故というやつだと星川は付け加える。


「当日は私が居ますので大丈夫かと思いますが、念のためです。

 というかですね、これぐらいしないと私が心配で心配で」

「心配しすぎるのもどうかと思うけどね。

 この前から一人で行動してるけど大丈夫しょ?」


 なお、最初の件、九条お兄様との出会いは内緒だ。

 バレたらこの執事は私の外出を制限するだろう。

 少しづつ信頼を稼いで一人で出かけられるようにしており、もっと九条お兄様に会える機会を増やしたい。


 ポン!


 携帯が鳴った。

 九条お兄様からかと希望を一瞬抱くが、それは無いと知っている。

 私からもアクションすらしてないからだ。

 そんな根性はウチには無い。万が一にも嫌われたくない。


「美怜お姉様よね」


 と、それは予想通りだった。

 密に連絡を取り合い、少しずつ警戒心を解いていったのが功を奏し、最近はあちらから連絡を貰えるようになった。

 実際に会うと嬉しそうに抱き着いてくるのは、私も嬉しい。


『望がヘン』

『どうされました?』

『詳しくは本人のために明言しないけど、

 土曜日、人と会う約束をしていてね、柄にもなく緊張しているみたい』


 と、呆れ顔の兎のキャラスタンプと一緒に返答が来る。

 彼女かと一瞬思うが、そんなニュアンスではない。

 デートなら人と会うなどという表現ではなく、デートと書く。

 それに男女関係は緊張するような間柄は上手くいかないものだと何か書いてあった気がする。


『心配ならこっそり付いていってみれば良いのでは?

 変装とかしてみて』

『あー、良いアイディアをありがとー。

 そうしてみる』


 ペコリと兎のスタンプがお辞儀する。


「リクお嬢様、楽しそうですね」

「……そう?」


 言葉とは裏腹に自覚はある。

 何というか、美怜お姉様は話しやすいのだ。

 裏が無いし、素直なのが好感度が高い。

 それに年上だというのに変なプライドも無いから、さっきのように頼りもしてくれるし、お礼もしてくれる。

 自分の本当の姉に比べ、自分が優位性を発揮できるのもあり、非常に頼られがいがある。

 そして自分も素直に接することが出来る。

 当初、九条お兄様だけを目的としていた関係性だが、この関係も楽しいと思う自分は確かにいる。


「初めて会った時の笑顔、女の子らしいという形容はあの方にあるようなモノなんでしょうね」


 当初、説明がつかなかったお姉様の笑顔を見た時に沸いた感情についてだが、最近は言語化できるようになった。

 美怜お姉様の笑顔は眩しくて、そして可愛らしくて……。

 こちらが助けるたびにあの笑顔をしてくれていると思うと、凄く嬉しいと感じているのだ。


「いい出会いだったみたいですね」

「星川も居れば理解出来たわよ、凄く白くて可愛らしい兎みたいな女性だから。

 さておき、土曜日、ソラのストーカーを楽しむとしましょう」


 そう言いながら、ソラの顔が歪むのを想像すると今から心踊り始めた。

 そして私は母親の寝室に足を向けるのだった。


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