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2-19.待ち伏せお嬢様(妹)。

〇望〇


「ごきげんよう、九条お兄様」


 帰り道、真那井まない商店街入口で路面電車を美怜と降りると声を掛けられた。

 声の主は最近よく会う女の子。

 西舞鶴駅で降りようと、真那井まない商店街入口で降りようと、決まって声を掛けられるのだ。

 謎だ。


「リクちゃん、こんにちは」

「美怜お姉様、ごきげんよう」

「リク君、待ち伏せかね?」

「はいですの」


 最近、待ち伏せである旨を隠すことも無くなった。

 口調も幼さが出てきた。

 問題視はしていないが、彼女自身について不安があるので言っておく。

 

「一人は危ないからよしなさい、この前みたいなことがあったら事だろう?」

「大丈夫ですの、リクは一人前ですの」

 

 お付きのような人の気配もない。

 とはいえ、テスト前で委員会活動や部活動も少ない今は時間が早い。

 人通りの多いし、電車の待合場所なら問題ないだろう。


「リク君、何で僕らの降りる駅を知っているか聞いていいかい?」

「美怜お姉様に教えていただいてますの」

「帰る時間とかも教えてあげてるんだよ?」


 謎が一つ解けた。

 身内の犯行だった。

 美怜が家の中で寝る前時間ぐらいに僕の就寝を待つときに携帯で楽しそうにしている姿を思い浮かぶ。

 とはいえ、美怜に小牧君やソラ君以外の友達、特に学外の友達が出来ることは好ましい事ではある。

 特に問題のあるような行動にも見えない。

 妹属性(美怜は姉でもあるのだが)同士気が合うのかもしれない。


「望お兄様と美怜お姉様はいつもお二人なんですの?」

「そうだよ。ね、望?」


 頷き返す。

 確かに先日はちょっと美怜に申し訳ない事をしたと思うが、元通りである。

 また、お兄様と言われるのは悪くないので、僕の機嫌も良い。

 ただ、美怜にお兄ちゃんとか言われると理性を保てる自信が無くなったので、禁止にしている。

 家族に欲情とか恥も良い所である。


「リクちゃんは今日も可愛いね」


 そう言いながらリクの頭を撫で、抱き着く。

 最初の警戒はどこへやら、犬のように懐いている感じがある。

 リク君の口調も強張ったモノから、年相応の少女のモノになっている。

 まるで妹が出来たかのように嬉しがっているのだ。

 リク君も嫌がってはおらず、気持ちよさそうに笑顔を浮かべる。


「美怜お姉様こそ」


 美怜はその言葉を受け、そんなことないよと言いながら、嬉しそうにニコニコと笑顔で返す。

 水戸が前に述べたセリフ『キマシタワー』の単語が脳裏に浮かぶ。

 何というか、女の子同士がキャッキャウフフするのを見ると、確かに微笑ましい感情が浮かぶ。


「九条お兄様にご恩を返すのもございますが。

 最近は美怜お姉様とのコミュニケーションも目的ですので」


 将を射んとする者はまず馬を射よ。

 そんな単語が浮かぶ。

 流石に僕は鈍感ではない。

 いや、ソラ君の件は例外だよ?

 多分、リク君は僕の事を好いてくれているのだろう。

 状況が状況だった、狙ってもいない吊り橋効果を発揮していたと後で思えば当てはまる。


「リク君は毎日元気だね?」

「はい!」


 とはいえ、それを指摘するのも無粋であろう。

 基本的に吊り橋効果は日常に戻れば、冷めていくものである。

 良い思い出ぐらいになってくれればと思う。

 ソラ君はどうにもならなくなっている気もするが、流石に二度もあんなことは起きまい。


「しかし、勉強は大丈夫なのかね?

 僕らみたいなのと会ってて親御さんもどう言うか」


 目線を僕から逸らすリク君。

 あまり良さそうではない。


「まさか赤点」

「上位者には入れませんが、健闘はしてますの!

 平均点以上は軽々クリアしてますの!」


 見栄を張る子ではないと思うので、大丈夫なのだろうと思う。


「平均点しか取れない取れない私に比べたら凄いね?」


 美怜が羨ましそうに褒める。

 こっちはこっちで修正しなければいけない気もするが、今回は勝負の件があるので手を出していない。

 万が一にも負けたら僕の家族観から一歩踏み外し、美怜の倒錯に近づいてしまう。

 負ける気はさらさら無いのだが。


「商店街って活気ありますよね」

「そうだね、私が小さい頃は閑散としていた時期があったけど

 あ、肉屋寄ってくから遠回りするよ?」


 事実だ。

 観光地化が進むまでは過疎に成っていく一方で、公官庁機能なども隣の福知山に取られる一方だった。

 いかんせん京都からのアクセスが悪かったのだ。

 今は違う。


「こんにちは、お肉下さい」

「ぉ、美怜ちゃんに望君、こんにちは」


 声を掛けてくれる肉屋のおじちゃん。

 郵便局より奥にあるこの店は給食用に卸しをしたりと、うまくやっている。

 また黒毛和牛などの取り扱いも多く、質が良いのもあり富裕層も来る。

 唯莉さんも好き焼き肉用のお肉を買う際は良く使っていたそうである。


「おっと、白い姿になった時も驚いたけど、今度は金髪のお嬢様も一緒かい?

 また家族が増えたのかい?」

「えへへー、妹みたいなモノです」


 美怜は上機嫌にガラスケースの前へ進んでいく。

 

「望君望君ちょっと」


 肉屋のおじさんに呼ばれたので、奥の厨房側の棚へ。


「あの子があんな風に笑うようになったの君のおかげだろう、ありがとう。

 そしていきなり家族が増えたと言われ、正直、胡散臭いと思っていて申し訳なかった。

 ずっと謝ろうと思って」

「いえいえ、僕自身胡散臭いのは承知でしたので」


 最初会った時は、美怜が白い姿であたふたと説明するところからだった。

 知り合い、しかも虐めの件を給食の卸しの時に聞いていたそうで、何かと目をかけてくれていたそうだ。

 当然、いきなり家族だと言い現れた僕には警戒をすべきだろうと思う。

 実際、嘘だったわけで。

 ちなみに今では僕も顔なじみである。豚トロを良く買う。


「家族が増えたと仰られてましたけど、どんな話なんですか?

 あと笑うようになったとは?」


 気づけば、リク君もその話を聞いていた。

 美怜が注文を悩んでいるのを見て、僕の方に来たようだ。

 顔には好奇心と書かれている。

 プライバシーにかかわる部分だが、これは商店街や学校では良く知られている周知なので良いかと思う。


「僕と美怜はね、三月に出会ったばかりなんだ。

 それまでは美怜はね、白い可愛らしい姿を真っ黒にして隠して生きてきたんだ。

 自分の容姿がコンプレックスでね?

 色々してね、それから解放されて今があるという訳さ」

「あんなに可愛らしいのにですか?」

「秀でていても虐められることはあるのさ。

 それで自分の容姿に自信を持てなくなって隠すこと数年。

 リク君も周りで優秀な人が周りに嫉妬されて潰されることがあるだろう?」


 リク君は一瞬考えるが、確かにと返してくる。

 思い当たることがあったのだろう。


「ウチの姉も一回潰されましたし。

 今は元気ですが」

「君のお姉さんには同情する、虐めは何かしらの傷跡を残すからね」

「望~、ハンバーグで良い?

 おろしポン酢で」

「僕はソースの方が好きだが、任せる」


 美怜がメニューを決めたらしく、同意を求めてくる。


「この話はここまでにしようか。

 もし詳しく聞きたいなら美怜に聞くと良い」

「お話、ありがとうございました。

 プライベートな部分をお聞き出来ましたので」


 そういうとリク君は入口へと向かう。


「ウチはそろそろ集合の場所に行かないと」

「送ろうか?

 この前みたいなことが無いとも限らないだろから」

「大丈夫ですの、ここからすぐの市民プラザで待ち合わせですから。

 それでは失礼いたしますの。

 九条お兄様、美怜お姉様」


 そして彼女はスカートを両手で持ち、お嬢様らしく一礼をした。

 こんな帰り道の風景が日常に成りつつあった。


「さて、どうしたものかね」


 僕はお父さんからの頼み事と僕のしたいことに少しづつ、思考を回し始めた。

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