2-16.非公式舞鶴市観光ガイド
|ω・`)最初13行ほど舞鶴市観光ガイドですが、この物語はフィクションです。現実とは相違しております。
〇望〇
基本的に舞鶴は東と西に分かれる。
これは歴史に由来する。
東は言わずと知れた軍港だ。
最近は船を模した女の子が人気で、同人誌即売会なるモノも行われている。
街をあげてのイベントで、町おこしとしても有用なのだそうだ。
通りの名前も軍艦に由来している。
また、自衛隊基地もあり、イベントを行っている。
西は城下町を発祥とする。
舞鶴城、すなわち田辺城があったこともあり、名残りの堀も所々に残っている。
史跡も多く商店街にも幾つか名所説明がある。
また、道の駅である『とれとれセンター』が出来たのをきっかけに、旅行客に蟹や牡蠣を振舞っている。
それらを繋ぐ、真那井商店街の中を走る路上列車も好評だ。
また、漁港の方に行くと風情のある写真が撮れると一部の人には有名だ。
「と、ここまではいいな?
それなりに観光スポットはあるわけだ」
「二面性があるのは珍しいね。
大抵はこの街はこう! っていう、売りが強いのだが」
「ただな、問題点としては……
デートスポットたるものが無い」
聞いている所では、デートではなく観光の名所ばかりだ。
海が近いと言えば近いのだが、砂浜は西舞鶴駅から駅三つ、遠い。
港も基本的に貿易港や漁港になり、横浜の様にもいかない。
「別にムリしてそういう所に行かなくてもいいんじゃないかな?
お互いに楽しむのが一番だし。
ムリして背伸びしても、意味ないと思うんだよ」
「俺もそう思う。
基本的には日常生活の延長だ。
非日常感を楽しむのも有りだが、結局目的は会うか会わないかの判別に近い」
美怜がそう自分の考えを述べてくれると、同意だと水戸も大きく頭を縦に振り付け加える。
「そうすると、やはり美怜と買い物したりするみたいな印象にしかならないのだがね?
僕もデート自体は無くはないが、あの時は相手をどう罠に墜とすか考えてたしなぁ……。
女装してたし」
復讐に明け暮れてた際の古い話だ。懐かしい。
「……たまに、九条さんて闇がでてきちゃるよね」
「そういう所もいいんですが。
ぜひ女装は見てみたいですわ」
「望が変装かぁ。
素材が良いから私の道具使えば出来ると思うよ?」
「今度、是非」
女三人寄れば姦しい。
美怜とソラ君が楽しそうにしているが、絶対却下する方向で心を定める。
もう二度とやらないと決めている。
さておき、
「ふむ、ソラ君は行きたい所とかあるかい?」
「ラブホとか興味あるんですがね?」
このお嬢様は何を言っているのだろうか?
しかも、頬に朱をさし、照れながら熱い目線を向けてくるのでタチが悪い。
可愛いのは良いのだが、反対側、美怜の目線を見れない。
腕の裾を凄い勢いで引っ張られて、こっちを見ろと言われている気がするが無視だ。
後押しされるにしろ、引き止められるにしろ、碌なことにはならない。
「却下だ却下、行ったことがばれた時点で謹慎処分確定だ」
「冗談ですのに」
半分はと、付け加えるのは聞こえなかったことにしよう。
僕らの関係は(仮)だ。
美怜の僕を振り向かせようとしている力がさっきより強い気がする。
ここで振り向いたら、キス以上のことを言われる気がするので絶対に振り向かない。
「自衛隊の船を見に行くのも面白そうだぜ?」
「却下」
水戸の提案に小牧君が却下する。
「ミナモと行ったとき、結構はしゃいで……いててて」
「なんやー?」
「何でもありません、ハイ」
小牧君が手をワキワキしながら構えると、水戸はスグに前言撤回する。
思うに、何でこの二人付き合ってないのだろうか……。
どうみてもイチャイチャしているように見えないのが最近の感想である。
同じ感想を頂いているのか、美怜も呆れ顔をしている。
何年も同じようなやり取りをしてるのだろう、食傷気味の気配すらある。
「空が見たいですわ」
「空かぁ……」
考えていたソラ君が自分の名前であるそれを述べた。
浮かぶはここの屋上。
確かにソラ君と言えば、空のイメージがある。
空と言えば展望台か何かだろう。
「ギブギブギブ!」
水戸が小牧君とイチャイチャし始め、聴けないのでスマホを使う事にする。
おっと、小牧君、そろそろ関節技を解かないと水戸が白目を剥くぞ。
ソラ君や美怜も自分のスマホで調べ始める。
「五老スカイタワーなんていいんじゃないかな?」
美怜が一番早かった。
赤いスマホに出てきた名前は舞鶴高等学校と市内を挟んで反対側の灯台だ。
「五老スカイタワーか、ええんちゃう?
登山道、中舞鶴から登れるし、私もトレーニングで走るし」
水戸を羽交い絞めにしたまま、小牧君がそう答える。
「僕でも聞いたことある地名だが、どんなとこなんだい?」
「近畿で一番の絶景ポイント、近畿百景の一番。
ちなみに隣の市の天橋立は別格な、あれは日本三景や。
たしか、普通の人の足やと九十分位登れちゃうわ」
「結構ハードだね」
調べていると小牧君の言わんとしているだろう登山道が出てくる。
やはりかなり時間がかかるらしい。
「デートのコースじゃないよね、それ」
「そりゃ、足腰鍛えるために使うし……」
ルートとしては却下である。
とはいえ、見れば西舞鶴駅や東舞鶴駅からもバスが出ている様だ。
それなら時間も労力もそんなにかからない。
「デートの目的地としてはありだろうね?」
「良さそうですわ」
携帯の検索したURLをラインで、ソラ君に投げる。
すると好みにも合致したのか、嬉しそうにゲジ眉を弓にしてくれる。
「ちなみに、何時まで大丈夫なんだい?」
「帰らなくても大丈夫ですわ。
どうせ、親も気にしないので……」
ソラ君が冗談半分で言うが、半分は悲しげに言う。
ソラ君もあまり家の話はしない。
信用されてないのかとふと寂しく思うが、心配させたくないのかもしれない。
僕と対等であるために、あえて見せないということも考えられる。
(仮)とはいえ関わったのだから何とかしてあげたいとは思うが、事情をあまり知らない。
親世代、つまり唯莉さんやお父さんなら、知っているかもしれない。
頼るのは最終手段にしろ、使うのは家族計画の件で色々あったのでその対価の一部としてはありだろう。
特にあの永年小学生、唯莉さんには美怜の家族観の狂いの件で問いただせていない。
メールや電話もその話題は露骨に無視される。
どうしてやろう、あの人。
「望、顔が怖いよ」
「あぁ、すまない、唯莉さんが脳裏にうかんでどうしてやろうかと」
美怜が思考から引き戻してくれる。
心配そうな顔で覗き込んできている。
真面目に考えすぎて、闇が出ていたようだイケナイイケナイ。
「……なんで唯莉さん?」
「親世代なら、ソラ君のこと、どうにかならないものかなとね」
「ふふ、ありがとうございます。
ソラのことは平気ですわよ?」
「判った、信用するが、助けてくれた借りを勝手に返したい」
「ふふ、返したら、彼氏(仮)解除とかはダメですよ?
デートの時、少しご相談はするつもりですが」
ソラ君は真面目な声色。
僕の眼をエメラルドグリーンの眼がまっすぐ捉えて、逃がすまいと言ってくる。
真剣な眼差しから僕を欲してくれていて、素直に好ましいと思う。
「まぁ、健全にいこうじゃないか。
夕日に合わせてみて降りてきて解散。
詳しいことは後で詰めよう」
「はい!」
ソラ君が嬉しそうに微笑むと、周囲に黄色のパンジーが咲いたような印象を与えてくる。
笑顔だけで奇麗だと思うのは、うん、ズルいと思う。
好意慣れしてない僕の心を揺さぶるには十分な威力だからね?
性的なアピールよりそっちの方が僕としては利く。
「むー」
その反対側、美怜が何か唸っていた。
判っているさ、ちゃんと構うから赤い目線を向けないでくれ。
だからとばかしではないが、美怜の右手を左手で軽く包み込む。
「むー……後でお話だよ……」
家に帰るのが怖いと思ったのは、この時が初めてかもしれない。
美怜の眼が、右目が赤、左目が青紫色の状態、つまりオッドアイ状態だったからだ。