2-15.デートしましょう!
〇望〇
「来週の土曜日、二人でデートしましょう!
習い事がテスト前でございませんので勉強と息抜きも兼ねて!」
と、昼食も終わり、お茶で一息している時にソラ君がそう提案してきた。
ランチタイムのため、皆の視線を集めるが、いつも通りだとすぐに視線が散っていく。
何というか、パターン化してきている気がする。
大抵は僕と水戸の勝負事、僕と美怜の家族事、水戸と小牧君の漫才事だから、このパターンは珍しいと言えば珍しいのだが。
ちなみに今日の勝負はバトル鉛筆だった。
某人気RPGのモンスターやキャラクターが書かれた鉛筆で、転がすとその出目で相手にダメージを与えたり、スキルを使ったりする。
当然、僕はデカいの、ボスモンスターに該当するモノを使った。
卑怯?
前提条件を確認しないやつが悪い。
「デートかい?」
つまり逢引のことだ。
確かに青春っぽい響きがあるイベントの一つ。
美怜と買い物行ったりするのと何ら変わりがない気もするが、どうなのだろうか。
知識としては当然にあるし、心理学的にも興味深い部分ではあるので、とりあえず実験をしてみたいと思った所だ。
「お前らデートもしたことないのか?
(仮)とはいえ、付き合ってるんだろ?」
開口一番は以外にも水戸だった。
彼は心底呆れたように、僕とソラ君を見てくる。
「お前にだけは言われたくない、水戸」
「俺はあるぞ?」
「「「は?」」」
僕と美怜とソラ君の言葉が重なった。
そして三人で顔を見合わせると一旦、水戸に背を向けて後ろで集まる。
「脳内だろうか」
「案外、彼女がおられるのでは?」
「それはないよ、それは。
小牧さんじゃないかな?」
「付き合ってないのだろう?
振られたのに、弁当を作ったりしているのは不憫過ぎないかね?」
「いや、あり得ますわ。
自分に振り向いて欲しいとか……悲恋ですわ」
「ソラさん、楽しそうだね」
さておき、結論が出ないので僕が切り込むことにする。
「ちなみに、小牧君とかね?」
「なんで、ミナモが出てくるんだよ……」
水戸が不思議な顔を浮かべると同時に、小牧君が複雑そうな顔をする。
ただ、その小牧君には驚きが無いことから、知っている事案みたいだ。
地雷を踏んでいる気がした。
「中学時代、俺を好いてくれた後輩が居てな?
デートしてくれと言われて、一日、付き合ったことがある」
「初耳だよ?」
「あー、まぁ、これ知ってるのミナモだけだしな。
デート前に色々助けてもらった」
再び、三人で後ろ向きに会談を開く。
「鬼畜の所業だね。僕にはムリだ」
「何だか、胸のサイズを見抜かれた件と良い、存外馬鹿に見せかけた何かなんじゃありません?」
「そういえば、胸、小さくなったよね」
「こほん。
というか、何であんだけ好意を向けられているのに気づかないですかね?
死んだ方がいいのでは?」
「いやまぁ、色々あるんだよ、きっと。
小牧さんも奥手な方だし」
結論が出そうにないので、仕切り直し。僕が再度切り込む。
「興味深いね」
「お前ら三人が何を言っているのか、聞こえないからあれなんだが……
東舞鶴の狭い市内をグルリとまわっただけだが、それなりに楽しかったぞ?
色んなものへの反応だったりとか、こけそうになったのを助けてあげたりとか」
良い思い出なのだろう、楽しそうに話してくれる。
「で、結論的にはどうしたのかね?」
「結局は振ったんだけどな、胸も大きかったし、可愛い感じではあったが、何か違うなと。
俺バカだからさ言葉にならないのはあれなんだが。
感覚派って奴だ、付き合ったのを想像したらその子は俺には合わない、そう感じたんだ」
水戸は最後に申し訳なさそうな表情を浮かべ、締めた。
ただその眼には後悔は無く、間違っていないと強い意志が込めれており、説得力があった。
「……筋は通ってますわね」
「保留期間設けてるどっかのだれかさんよりマシだね」
美怜の眼が僕の方を向いてくる。
美鈴、君の存在で悩んで出した結論だから、言われる筋合いは無いぞ……
依存症にされた責任は君に間違いなくあるからね?
さておき、
「ふむ、非常に参考になった。
つまり、付き合う前のお試し期間として相性を確認したわけだね?
ちょっと見直したから、僕の中での評価を負け犬から負け人に進化させておこう」
「……負けを外せよ」
「犬でいいのかい? この犬!」
「わんわん! って違うわ!
というか、お前らそんな試し機会もせずによくカップルにって……だから(仮)なのな」
水戸が僕とソラ君の関係を理解してくる。
水戸の場合、推薦とは言え決して頭は悪くないわけだが、要領が悪いのではないかと思う。
遠回りながらも確実に芯を捉えるのがうまい。
最近、テスト前だということもあり、休み時間の合間合間に要点を教えているわけだが、そんな評価だ。
逆に小牧君は応用が利かない。
物事を理解するのは早いのだが、別のことに当てはまるのが苦手な感じがある。
彼女の委員長(偽)の姿、三つ編み眼鏡通り硬いのだ。
「そうさ、付き合いだしてから相性を確認しているわけだね。
僕もソラ君自体は僕に似ていて好ましいし、案外面白い所もあるし、ドキッとすることもあるからね」
「望君……」
ソラ君が僕の手の裾を軽く引っ張てくる。
「平沼っち、この人、恥という概念があらへんの?
聞いてる、こっちが恥ずかしくなっちゃうわ」
「無いと思うよ。
私にもそうだし」
「そうやったね、納得したわ」
割と美怜にも同じように感想や感情を正直に当てているので前例があったわねと小牧君が頭を手で押さえながら納得してくれる
「はいはい、ごちそうさん。
で、何処に行くのか決めてるのか?」
「ノープランだね、僕は舞鶴近辺の地理には疎い」
「そうだなぁ、
この季節だと、ミナモとは前行ったが舞鶴自然文化園のアジサイ園とか奇麗だったぞ」
「……?
それはデートじゃないのかね?」
「二人で遊びに行っただけだぞ?
な、ミナモ?」
そう言い放った水戸の顔に、小牧君のフルスイングが飛んだ。
速度のある拳は水戸の頭がはじけ飛んだかと思うほどの速度だった。
小牧君は無表情で、逆にそれが怒りを滲みだしている。
「いててなんだよ、ミナモ……
人助けしたのまだ怒ってんのか?」
「ふーんだ!
ふーんだ!!!
ふーんだ!!!!!
間違ったことはしてへんけど、一言あったらって思っただけや!」
「面目ない、だがそろそろ許してください、お願いします。
ミナモ大明神様」
「ふーんだ!!!!!!!」
三度目、後ろ向きになり会合を開く。
「どういうことでしょうか?」
「何かあったのは間違いないだろうが……
多分、単語として遊びとデートが繋がっていないのだろうね」
「あー、ありえますわ」
「前言撤回、望の方がマシだよ。
好意に対して鈍感すぎて、イライラしてきたんだよ」
「まぁ、当人同士の問題だからね?
求められたら助け舟は出すが」
「話し戻していいか?」
水戸がそう確認してきたので、僕らは前を向きなおした。