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2-13.将を射んとする者はまず馬を射よ。

〇リク〇


 九条お兄様と出会ったのは作戦通りだった。

 一瞬、彼女かと思わしき白い少女が居たのでどうしてやろうかと考えてしまった。

 コンクリで舞鶴湾まではスグに思いついた。

 お互いに幸いなことだが、妹だということだった。

 なので、将を射んとする者はまず馬を射よという考えに切り替えた。

 なんだか、警戒されてしまった感はあったがそれも何故かすぐ解けた。

 私の名前を知っている感じでも無かった。

 謎だ。


「さておき、作戦通りしますの」


 一人での晩御飯も終わり、食堂から戻った自分の部屋。

 洋風の木目調で揃えられており、どれもこれも高級な品々である。

 当主たれと、良いモノを理解するために与えられたものだが、ウチ自身はそこまで価値を理解していない。

 使えるモノは使う。

 それがウチ、鳳凰寺・リクのスタイルである。

 さておきと、机の上には星川に淹れさせたほうじ茶を用意し、スマホを取り出す。


『こんにちは!

 リクです!』


 と、ラインを送る。

 すぐにポンと音がする。


『あ、こちらでは初めましてだね。

 美怜です。

 よろしく』


 ペコリと兎のスタンプ付きで返ってきていた。

 かなりレスポンス速度が速い。

 

『今日はお二人のところ……

 邪魔しちゃいましたか?』

『うん!』


「ストレートに返ってきましたわね……」

 

 ちょっと想定外だった。

 普通の人なら、大丈夫だとか、一歩引いてくれる反応が予想されるのに、躊躇すらなかった。

 一歩引いたところに提案しようと思っていただけに、ちょっと想定がずれる。


『申し訳ございません』

『別にいいよ。

 さておき、御用はそれだけかな?』

『いいえ、美鈴お姉様に興味があったので」

『私?

 望じゃなくて?』

『はい』


「九条お兄様にもっとも興味があるのが本当ですが、ここは馬からですの。

 それに美怜お姉様自体にも興味があるのは本当ですし」


 先ほどの眩いばかりの美怜お姉様の笑顔が浮かぶ。

 凄く可愛くて、同性の私が言葉を失うほどだった。

 さておき、一旦それを端によせ、ウチは脳内を纏めながら当初の予定通り進めることにする。


『白いのはご病気か何かで?』

『アルビノだよ、病気じゃないもん』


 ちょっと語尾が強い感じで返ってきた。

 狙い通り、身体的なことはデリケートにしやすい。


『ごめんなさい、知らずに突っ込んでしまって』

『いいよ。

 言われなれてるから』


 と、皇帝ペンギンのスタンプで頭を下げると白兎のスタンプでOKが返ってくる。


『お詫びとはいえ何ですが、これをお納めください』


 あらかじめセレクトしといたプレゼントボタンを押す。

 有名店の三千円程度のホワイトチョコレートだ。

 高すぎると相手に気後れさせてしまうし、安すぎてもイメージが悪い、だからこの値段帯にした。


『別にいいのに……』

『いえいえ、今日の出会いも兼ねてですのでお受け取り下さい。

 是非、望お兄様と一緒にご賞味ください』


 これが狙いだ。

 先ず、相手の懐に入るために先ず相手の逆鱗に触ることをした。

 その上で、謝罪。そうすれば自然の流れでモノが渡せる。

 そして一度、お詫びを渡してしまえば、相手は記憶にそれを強く残す。

 そして悪い感情が逆転し、良い感情になる。


『なら頂きます。

 ありがとう』


 スタンプで兎がペコリが頭を下げてくる。

 計画通りである。

 これでチョコレートの出所を望お兄様に利かれた美怜お姉様は、私の事を話題にする。

 そうすれば望お兄様の脳裏にウチ、リクの名前を思い返させることが出来る。

 そして恩も売れる。

 こういう地道な作業が重要なのである。

 財力や権力で全てを叩き潰すだけが戦略ではないのだ。


 ……というのは、京都の学校へ行って学んだことである。


 同じことを考えるやつはいたモノで、もっと強い人にすりつぶされていたのを見たのだ。

 潰しあいになって疲弊する人もいた。

 自分よりも権力や財力を持っている人はそうは少ない学園の中だが、幸いなことにウチは実行する前に見れたので教訓としている。

 力押しだけで勝てるほど世の中甘くないのだ。


「ソラがその点を学ばず、学校でもっと強い人に潰されたとか聞いたのは爽快でしたの」


 完璧な姉、全国区で残した成績や、スポーツの成績などは学校が違っても出てくる。

 それを母様に比べられるたびに辛くなる。

 なんで、妾の子に勝てないのかと。

 リクの成績は全部普通程度だ。

 努力はしている、だがソラの影すら踏めない。

 だから、私は姉であるソラが嫌いだ。


「気分が悪くなりましたの」


 ポンとラインが来た、


『望からも有難うと言っといてくれって来たよ』


「やりましたの……っ!」


 さておき、作戦としては成功したことを確認し、気分が晴れやかになった。

 同時に美怜お姉様の笑顔も浮かび、ますます楽しくなる。

 ソラなんて気にしてても仕方ないのだ。

 生まれた時からウチの勝ちが確定している。

 だから、今の気持ちを優先すべきなのだ。


「……ぬるいですが、祝杯としては良いですの」


 時間がたったほうじ茶を一気に煽りながら、今後の事を考えるとワクワクしてきた。

 今までレールに敷かれていた自分の認識が広がっていく。


「恋とは何とも素晴らしいものなのでしょうか」


 そうつぶやいた自分の顔は、きっとすごくいい笑顔だ。

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