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2-11.美怜とリクのエンカウント。

 〇望〇


 美怜のサラサラとした白い髪の毛を堪能している所だった。


「九条お兄様?」


 そう自分の名字を呼ばれて正直、少しドキリとした。

 それ以外で僕の名字を呼ぶとなると、学内か学外かになる。

 学内の皆には、僕と美怜がシスコン・ブラコンなのは周知なので問題ない。

 聞き覚えの薄い声だったことからその可能性はスグ消えた。

 学外となると、中学以前に関わった人ら、つまり僕が貶めた人等が見つけた場合が想定される。

 流石にこんな片田舎に来るわけはないのだが、美怜に被害が出るのだけは避けたい。

 警戒しながら目線を向けた。


「リク君か」

 

 少し安心した。

 金髪ドリルと後ろツインテールの小さな少女が僕のことを見つけ、近づいてきて、目線を向けてきていた。

 彼女の緑色のまなこが僕ではなく、美怜に向いていることに気づく。


「この人、九条お兄様のどういう人ですか?」


 震え強張った声。

 慣れていない人が僕らの行動を見たら、それは理由や訳、関係を聞きたくなるのは当然だろう。


「僕の双子・・、姉であり、妹である人さ。

 もっぱら妹扱いされてるがね?」

「あら、そうでしたか、てっきり……」


 僕らの対外的な仲で嘘をつくとリク君が嬉しそうに微笑む。

 声の調子も前回会った時と同じように戻る。


「……望、この人、誰?」


 美怜が赤い眼をする。

 警戒しているようで、まるで兎のように威嚇をしているのが判る。

 知らない相手に警戒は致し方ないのかもしれない。

 特に美怜は人の眼を気にして生きてきた。

 今後は初対面相手の対応とかも教えていく必要もあるかもしれない。


「迷子の少女だ。

 悪い男に絡まれているのを助けてね?

 特にそれ以上、それ以下ではない」

「リクと申します、よろしくお願いいたします。

 先日はお兄様にお世話になりました」

「美怜です、よろしく。

 望が役に立てたのなら幸いだよ」


 説明すると美怜の警戒が解かれて青紫色の眼に戻る。

 最近、どこぞの映画のダンゴムシもどきに美怜の眼は感情の機微という面では似ているのではないかと思う。

 さておき、


「本当に偶然であるとは思いませんでした。

 指きりげんまんって凄いんですね?」

「僕も驚いている所さ」


 嬉しそうに言うリク君を前に、さて、どうしたものかと思う。

 連絡先を教えるのは全然問題ない訳だが、美怜の目線が説明して、何? と問うてきている。


「ちょっとした遊びをしたのさ。

 今度会えたら、連絡先を教えるって。

 お礼をしたいと言われたが、受け取るようなことでもなかったから、会えないなら会えないでいいかなーって」

「ふーん」

 

 美怜の眼が冷たい。

 青紫色のそれは凍結を想起そうきさせるように刺さってくる。

 その視線から逃げるように、リク君へ視線を向ける。


「今日はどうしたんだい、こんな所で」

「まちぶ……ちょっとした、散策ですの。

 この前みたいな無様な真似はリクとしては許せませんので。

 明るいうちに復習ですわ」


 今、待ち伏せって言いそうになってなかったか?

 探されるような恩でも無いんだが……。

 あえて突っ込みはいれないが、美怜の目線が更に鋭くなっている気がする。

 僕は何もしてないからな?


「それはいい心がけだね。

 ラインの連絡先でいいかい?」

「はい、ありがとうございます」

 

 赤外線ポートで交換をしあい、完了する。

 それを受けたリク君が嬉しそうに自分の黒い携帯を抱きしめる。

 同時に美怜の目線が更に冷たいものになる。


「美鈴お姉様もお願いしてもよろしいでしょうか?」

「……うん、いいよ」


 美怜さんや、お姉様と言われて顔が嬉しそうに緩むのは良いが、個人情報だぞ。

 少しは警戒したまえと内心突っ込みを入れるが、野暮になりかねないので言わない。


「これも何かの縁だろうし」

「ありがとうございます」


 二人の赤と黒の携帯が重なり、完了音が鳴る。


「よろしくね」


 美怜の顔がパッと嬉しそうな笑顔になった。

 見慣れた僕がハッとするほど可愛い動作、


「……凄く可愛くて何というか、女性として同じ生物だとは思えませんわ」


 それにあてられたリク君からもそう漏れた。

 流石美怜である、同性にも可愛いと言わせるとは。


「リクちゃんの方こそ、可愛いと思うけど?」

「ご謙遜を……」


 美怜は心底そう思っているのだろう、お世辞だと処理し、そう返す。

 その顔は苦笑いを浮かべていた。

 もう少し美怜は自信を持つべきだと思うので、これも脳内にメモを残す。


「さて、改めてお礼をしたいのですが、如何いたしましょうか。

 何でもいたしますの!

 それに美怜お姉様にも出会った記念で!」


 大きな声だった。周りの目線が向いてくるがすぐに興味が無くなった様子で散っていく。

 何処かの彼女(仮)にも同じセリフを言われた気がするが置いておこう。

 美怜さん、女の子に何を言わせているのとか目線で言わないで下さい。

 

「女の子が何でもというのはやめたまえ。

 さておき、特にお礼をされることをしてないし、気にしなくていいさ」

「謙虚なのは美徳ですの。

 でも遠慮なさらなくてもいいですのに……」

「まぁ、気にすることでもない。

 未来の後輩への投資と思えば安いものさ」


 とりあえず、先送りにする方向にする。

 ここで貰い貰われの関係が発生すると、ズルズルと恩や礼を感じていく気がしたからだ。

 これはソラ君の件から学んだことだが、自分自身、好意慣れしていないせいで、恩や好意を盾にされると弱い。

 だったら、恩を売りっぱなしにした方が良い。


「ふふっ。

 そしたら、お言葉に甘えさせていただきますの」

「さて、僕らは買い物に行くところだが、リク君は?」

「リクはそろそろ帰ろうかと考えていた所ですので迎え待ちですわ。

 そうだお送りいたしましょうか?」

「気遣いだけ貰っておこう。

 ゴザールは駅の反対側だから、逆に時間がかかってしまうし、手間になるだろうし」

「そうですか……」


 残念そうに言うリク君に罪悪感が沸く。

 とはいえ、何もできることがない訳で、どうしたものか。


「望、そろそろタイムセールだよ。

 ごめんね、リクちゃん。

 あと、これからよろしくね」


 美怜が助け船を出してくれる。

 立ち上がりながら、僕の手をもつ。


「……あぁ、そうだな。

 それではまた何か機会があったら、お話ししよう」

「はい、判りました。

 それではご機嫌よう。

 美怜お姉様にも絶対連絡入れますので絶対返信くださいね?」

「判ったよ、それじゃ、またラインで」


 美怜の手が力強く僕を引っ張っていく。

 まるで、自分のモノだと誇示せんばかりだと思った。

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