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2-9.絶対に負けないよ

〇美怜〇


「小牧君、どうにかしてくれ。

 どうもこのマイ・シスターの家族観に対しては勝てる気がしないから」


 望が逃げるように私の親友に対応を求める。

 しかし、小牧さんは小牧さんでメンドクサソウな表情を浮かべる。


「ムリ――諦めたら? 

 九条さんも大概シスコン表明してるから受け入れても、白髪兄妹がいつも通りだとしか思わへんから。

 クラスの目線がいつものことやと、日常に戻っていってるのを見れば事実や、事実」

「反論材料が足りないから困るね」

「何事もあきらめが肝心、そう出とるわ」


 望が私の親友に助けを求めるが、にべもなく断られている。

 そして占いの本をパラッとめくっての追加の言葉が何故か望を渋い顔にしている。


「そうだ、望、私がソラさんに勝ったらキスしよ?」

「「「ぶっ」」」

 

 望が口に含めようとしたら唐揚げを落として――そのまま再度、箸でキャッチした。

 凄い動体視力だと感動するが、何を驚くことがあったのだろうか?

 小牧さんと霞さんはお互いにご飯を吹き合っている珍しい光景にもなっているのは謎だ。


「美怜、僕と君は家族だ、だから」

「だからするんだよ、欧米では普通でしょ?」

「ここは日本で」

「別に常識は常識だけど、当事者間で決めることは当事者間で、他人の視線などは気にしても仕方ないと思うけど?

 望は他人の眼を気にするような、他人に行動を制限されるような人だったのかな?

 それを私に対して言えるのかな?」

「ぐっ」


 望が言葉を失う。

 私が望に対して強く言える部分、望の性分と私への家族計画のことで責め立てる効果は抜群だ。


「平行線にしかならないよね?」

「確かに」


 望が顎に手を当てる。

 多分、私が次に言う言葉を想定しているのだろう。

 無言で押し切ってしまおうとするかもしれない。

 甘い。


「これは譲歩だよ。サービスだよ。

 私がソラさんに勝ったらで良い、ソラさんが負けるとでも望は思うの?」

「――」


 信頼を引き合いに出し、択を迫る。

 ここで受けないということは、ソラさんへの不信を示すことになる。

 ここでの選択肢は無い、無言を貫ぬいてあやふやにする気だろう。


「応えてよ」


 潰しに行く。


「僕は美怜が勝つと思う、だからやらない」

「そうそう、ソラさんがか――ぇ?」


 ――?


 想定外の答えに、私は言葉を失っていた。


「いま、何て言ったの? 

 私が勝つとか、間違えたのかな?」

「聞こえてなかったのかい、僕は美怜が勝つといったのさ」


 望は自信満々の表情だった。

 馬鹿なことをと思う反面、私を評価して嬉しいと湧き出てしまう自分が居る。

 顔がにやける。


「望君、私が美怜さんに負けるとでも?」

「そうだ、そう言った」


 ソラさんがニコニコと望に表情を向ける。

 特徴的な眉が斜め、心の底が読み取れる。

 侮られたという感情よりも、望に自身の能力が私よりも低いと言われたことが悲しいのかな?


「君は僕の自慢の家族に負けて、悔しい思いをして枕を濡らすのさ。

 彼女の君は僕の唇まで寝取られる。

 それは回避しなきゃいけないだろう?」

「――なるほど」


 鳳凰寺さんの方を向いているので望の表情が読めない。

 ただ、言葉のトーンが説得させるものではない。

 表現しづらいのだが、ネットスラング的に言えば、後ろに藁だとか、(笑)だとか、wwwとかついていてる感じだ。

 つまり、挑発しているのだ。

 違和感。

 十分に諦めさせるためには論理的である。私は納得は絶対しないのだが。

 ならば、何故、ソラさんを挑発しているのだろうか。


「確かにその通りですわね。

 でも、その評価は覆さなきゃなりませんわね、対等であるためには。

 ならソラの取る道は一つ」


 ソラさんは仁王立ちして、私に指を向ける。


「改めて勝負ですわ。

 本気を出させていただきますわ」


 ……あ、判った。

 これ、望がソラさんに本気を出させるためにやったことだ。

 望がニヤニヤと底意地の悪い笑顔を私に向けてくる。

 要するに今回の事でキスを完全に私が納得出来る形で断念させるつもりだ。

 今回勝負を提示したのは私だ、だから好機とでも思ったのだろう。

 しかも、これはソラさんが勝った時に何かをするでもない形に持っていっている。

 望の手のひらの上の感じを覚える。

 やはり、言葉回しは数段にうまい。


「――っ」


 確かに、負けるだろうと思う。

 ソラさん相手だ。

 望に甘んじているとはいえ、入学時二位と聞いている。

 だが、ここで引いていいのか?

 自問自答。


 ――イヤだ。

 

 私はそう確信めいた感情が湧きだつのを覚える。

 ソラさんが良くて、私がダメな理由が納得できない。

 望は私を優先してくれるって言ったのに、家族観の相違でそれは嫌だ。


「判りました、勝負しましょう、ソラさん

 私が勝ったら、望へのキスを許してくれる。

 望、いいよね?」

「……元からそのつもりだ」


 私は言葉に含めた毒を気づかせないように、同意を取りにかかる。

 一瞬、違和感を覚えたのか迷った素振りを見せたが、了承してくれる。


「ルールはどうするの、ソラさん」

「全科目合計点で勝負は如何でしょうか」

「異議は無いですが、番外戦術は無しで。

 例えばカンニングはもとより、直接的な妨害工作のことを含めて」

「しませんわよ。

 しなくても勝てますので」


 ソラさんが私からの提案を受けると、挑発と思わしい言葉で返してくる。

 否、ソラさん自身は挑発をしているつもりはない。ただの事実を述べた感じだ。

 私はそれに苛立ちを感じる。

 そして意を決して、私も仁王立ちになり、ソラさんに向けて指を向ける。


「絶対に負けないよ、覚悟してね」


 そう宣言した。

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