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2-6.指きりげんまん。

〇リク〇


 路面電車がないことは不幸だとは思わなかった。

 否、幸運なことだと感じた。

 それだけ時間を確保できるということだからだ。

 スマホを使えば、星川を呼び出せなくはない。

 けれども、何かあったことが知られたら、一人でもう行動できないかもしれない。

 そしたらソラを観察しに行けない。

 それに今後、九条お兄様に出会う機会を創り出せない。

 それはイヤだ。


「大丈夫かね?」


 九条お兄様の動きは慣れた様子で、エスコートをしてくれた。

 道路側をさりげなく歩いてくれるし、歩幅も合わせてくれる。

 デートなるものは一度もしたことないし、さらに言えば女子中な訳だが、嬉しく思う。

 一年しか違わないはずなのに、


「大人なんですね」

「ありがとう、君こそ年以上に落ち着いたレディに見える」


 考えが漏れていた。

 彼はニコニコと嬉しそうに笑みを返してくれて、再びお腹の底がキューっとなる。

 夕闇が降り始めていて良かったと思う、顔が真っ赤になっている自覚がある。


 ――凄く嬉しい。


 確かにうちの周りは私に対して気遣う人は多い。

 但し、私の後ろ、権力に対してであり、私個人に対してではない。


「第一志望は舞鶴高等学校かい?」

「あ、へ、はい、姉も通っておりますので」


 親近感を出すために、嫌いな姉を話題に出す。

 共通点を探して、話題にするのは相手との親密度をあげるための基本だ。


「お姉さんか、君に似て可愛いのかな?」

「姉は、何でも出来るので怖いです」


 姉に対して興味を持たれて半分しまったと思いながら、可愛いと言われて正直に嬉しくなる自分が居る。


「……お姉さんのこと嫌いなのかい?」


 鋭い目線が私に向きながら、問うてくる。

 どう答えていいか悩む。

 良い子を演じて、彼の印象を稼ぐのがいいのだろうか。


「嫌いです」

 

 だが、ウチはあえてそうしなかった。

 勘だが、嘘を言うとバレる――そう確信したからだ。

 彼は安心したような笑顔を向ける。


「君が幼馴染の女の子に似ててね、でも違うと安心したんだ。

 ――喧嘩別れしたんだ、幼稚園の頃だけどね」


 遠くを見るように細目をしながら、


「その子は姉が大好きだったんだ。

 僕も彼女の姉が大好きでね、懐かしい話だ」

「……だった、過去形なんですか?」

「色々あってね、しかも小学生より前の話だからね」


 述べる彼は儚く見えた。

 いや、寂しそうに見えた。


「手、繋いでいいですか?」


 だから、攻めることにした。

 眼を見開き、驚いたように彼はウチをみる。

 強引に手を繋ぐ。

 恋する乙女に撤退の文字は無かった。


〇望〇


 小さい手だなぁ……

 

 美怜よりも一回り小さい彼女の手。

 繋がれた手の感触を楽しみながら、喧嘩別れしたあの子も同じくらいなのだろうか?

 そう浮かぶとちょっと感傷的な思いになる。

 困ったものだ。

 美怜にあれだけのことを言っているのに、僕自身のトラウマは解消される気配が無い。

 情けないと思う。

 美怜と家族であるならば、彼女と同じように過去ぐらいは何とかしたいものだ。


「如何いたしましたか?」

「ちょっと考え事をしていたのさ、申し訳ない。

 レディの前でこれはマナー違反だったね?」

「……」


 俯いていて顔が見えない。

 反応が読めなくて、どうしたものかと思うが、

 

「緊張しているのかい?」


 手が固くなっていることから当て推量する。

 彼女は僕の方に顔を向け、驚いたような顔を見せてくれる。

 どうやら当たりのようだ。


「お恥ずかしい話ですが、男性と手を繋ぐというのが初めてなモノでして」

「慣れた手つきで僕の手を掴んだように思えたが?」

「――何というか、寂しそうに思えたモノで……

 ――お嫌いでしたか?」

「いや、ありがとう」

 

 最近、思うに手フェチなんじゃないか、自分と思うことがある。

 美怜の手、つまりミレトニンの摂取は欠かさず行っているわけだが、ソラ君の手にも時折目が行くようになっている。

 細くて褐色色の指、その穂先のピンク色が奇麗だと思う。

 性癖が歪んだ自覚がある。

 全部美怜が悪い。


「暖かいですね、手」

「冷たい人間だからね、僕は」

「そんなことないと思います、少なくとも見ず知らずのウチを助けてくださいましたし」

「気まぐれさ、気まぐれ」

「さっき言われていた女の子に似ていたからですか――?」

「気を悪くしたら申し訳ないが、その通りさ」


 誤魔化す必要も無いと正直に答える。


「いえいえ、その女の子のおかげで助かりましたし、感謝するところかと存じます」

「そう言ってくれると助かる」


さておき、


「舞高が第一志望とは、家はこっちなのかね? 

 東舞鶴かと思ったのだが?」


 黙ったまま歩くのも緊張させるかなと、話題を切り出す。

 東舞鶴、すなわち軍港、もとい自衛隊基地がある区域である。

 某ゲームの舞鶴鎮守府とはここのことであり、また区割りも軍艦になぞられて命名されている。

 イベントなども開催され、その際だけの増発便が出るくらいには人気のイベントである。

 商店街も将棋の升のように区画された商店街であり、西の一本道ベースとはまた違う趣がある。


「いえ、私は下安久しもあぐ付近です。

 金輪寺に向かう途中です」

「なるほど、そっちの方はまだ僕も足を運んだことが無くてね」

「こことそう変わりません、特に何もない田舎、それ以上それ以下でも。

 西舞鶴ってどこもそんな感じですよね」

「なるほど」

 

 西舞鶴の良い所は昭和レトロが、所かしこに残っている所だと思う。

 お酒の自販機が年齢カード認証無しで路上に置かれてたりする。


「望お兄様はどちらに?」

新引土しんひきつちだよ、朝代神社あさしろじんじゃのすぐそこさ」


 個人情報だな、と思うが今あった少女に隠す理由も無い。

 また、住所なんかは手に入れようと思えばいくらでも手に入るわけで、正直に答えることにした。


「お一人で?」

「いや、家族と一緒さ――僕は最近こっち来たばっかしでよく判らないことだらけ何だけどね」


 正直に答えながら、話題の転換をし、誤魔化しにかかる。

 僕は良いが美怜の生活もある。万が一だ。

 ふむふむと彼女は何かを納得する素振りを見せる。

 

「機会があったらご案内いたしましょうか? 

 これも何かの縁でしょうし」

「それはありがたい、もし機会があったら頼むことにしよう」


 機会があるかはさて置いて、社交辞令的に答える。


「さて、そろそろ着いたわけだが、何処に行くか決まっているのかい?

 案内しよう」

 

 周りを見れば暗くなってきている。

 目的地、舞高に着いたとはいえ、最期まで面倒を見るべきだろう。

 古代中国の武将もそう言っていた。

 学内とは言え、万が一もある。


「いえ、ここまでで十分です。

 中は知っているので、ありがとうございました」

「それならば、僕は帰ることにしよう」

 

 そう言いながら繋がれた手を放そうとするが、握りしめられたままだ。


「何かね?」

「いえ、今度、お礼をしなければと思いましたので、連絡先など頂ければなと」


 うむ、どうしたものか。

 答えても良いが、大したこともしていない。

 今回のことは自己満足にしか過ぎない。

 筋は通っているとはいえ、ただ、単純に教えるのは面白くない。


「お礼はいいさ、君との会話は十分に楽しめたからね?

 そうだ、偶然の出会いだったのだから、次、偶然に会うことを願掛けとしてあえて教えないのはどうだい?」

「願掛けですか?」

「そうだ、ここで教えるのは簡単だが、ロマンのかけらも無いだろう?

 だったら、またこんな偶然に出会えることを期待して願掛けするんだ。

 今度、会えたら必然性が増すとも思えないかい?」


 彼女の顔がパッと花開く。

 年相応の少女らしい反応で、マリーゴールドを思わせる


「確かに、そうです――そしたら、今度会えた時、絶対に教えてくださいよ?」

「判った約束だ」


 つないだ手を小指だけに組み替える。


「?」

 

 不思議そうな顔を浮かべられる。


「指きりげんまんてしってるかい?」

「存じておりません」


 ジェネレーションギャップ、あるいはエリアギャップというヤツなのだろうか。

 全国区だと思ったのだが……ソラ君も知ってたし……


「約束をするさいに小指同士でつないで、指きりげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーますって言って約束するんだ。

 そして指を離す」

「なるほど、契約する際の掛け声ですね」


 リク君は納得したように、小指に力を入れる、


「いいかい? 3,2,1と言うから、0から声を合わせてくれ」


 コクリと小さな首を縦に振る。

 ちょっと背の差があるかと思い、腰をかがめて彼女の顔を真正面に捕らえる。


「3.2.1」


『指きりげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーます』


 そして離れる指と指。


「それでは、またお会いした時に」 


 そして校舎の中へ慣れた様子で入っていくリク君。

 問題なさそうだ。


「指きりげんまんか」

 

 感傷的に成っている気がする。

 僕が過去にした指きりげんまん、果たされなかった約束を思い出すと感傷的にはなる。

 いけないなぁ、と思う。

 一度は顔を見せるべきかもしれない。

 美怜のように過去と決別して、進むためにも。

 そう思いながら、帰路へ足を向けた。


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