2-3.告白(仮)
〇望〇
放課後。
柄にもなく緊張している僕が居るのが自覚できる。
初めてというのは僕も緊張するのだが、いつもの初めての比ではない。
なんというか、変なことをしようとしている自覚があり、策を練ってすらいないからの不安である。
学校の屋上の扉を開けると空が青く広がっていた。
「ようやくいらっしゃいましたわね」
そこの主は舞鶴市を眺めていた視線を僕に向ける。
パンジーの花が咲いたような笑顔だった。
茶褐色の肌はミルクチョコレートを思わせ、輝かしい金髪を海から来る風に遊ばせている。
美怜と比べると、可愛いということは絶対ないのだが、奇麗だなとは正直に感じる。
スタイルも細身だが、長身で、モデル体型。
そして、何より彼女は僕のことを好きだと言ってくれていることが感情的な補正が入るには十分だ。
鳳凰寺・ソラ君、僕の敵であった少女で、僕の背中を押してくれた恩人だ。
「変な顔をされておられますわよ?」
「そうかもね?」
「あら、珍しいですわね。
図星で口にバッテンをして黙るパターンかと思いましたが。
美怜さん曰くぺー太君人形そっくりですって、ふふふ」
口がバッテンになってしまう。
さておき、そんなやり取りをしているといつも通りだと、心が軽くなっている自分が居るのもたしかだ。
ありがたい。
「待たせて済まないね、僕が呼びだしたのに」
「いいえ、委員長のお仕事を頼まれていたのは聞いておりましたし」
「美怜に押し付けてきてしまっても良かったのだが、力仕事はね?」
謝罪から入るのは交渉としては良くないのだが、まぁ、良い。
今日は交渉ではない。
深呼吸する。
そんな様子を不思議そうに見てくる、
「告白でもしていただけるんですか?」
いつもの調子で、ソラ君が言ってくる。
そう、いつもの調子だ。
僕のことを好きだと言ってくれる彼女のままだ。
「私は望君のこと好きですし、振り向かせており」
「そうだ」
続けようとしたソラ君の言葉を力強く遮った。
ソラ君が言葉を止め、緑色の眼で心配そうに僕を見てくる。
……どういうことだろうか?
「――今、何ておっしゃいました?」
「告白するんですか?
と聞かれたから、ハイと答えたわけだが?」
「夢ですわね」
「なら、頬をつねろうかい?」
「お願いします」
僕に近づいてきて、頬を差し出すソラ君。
少し赤みを帯びているが、触るとチョコレートのように溶けてしまいそうだな、っと思いながら触る。
手触りの良い艶がある肌を軽く抓る。
そして、引っ張り、放す。
ペチンと音が聞こえた気がする。
「痛かったですわね」
「あぁ、現実だからね?」
「そうですか、現実ですか」
ソラ君の表情が固まった。
想定外というヤツだろうね?
いつも想定外なことで沈黙させられる僕としてはしてやったりという感情が沸く。
「ま、まって、まってください!
……呼吸を落ち着けますから!」
そう彼女は僕から離れ、屋上の端へ。
そして大きく深呼吸をし、戻ってくる。
「はい、落ち着きました、どうぞ」
顔は笑顔だが、ゲジ眉が震えている。
そんな様子の彼女に優位性を感じ、心持ちに余裕が出てくる。
「結論から言おうか、ソラ君」
「ひゃ、ひゃい!」
「僕とだな、(仮)で付き合わないか?」
ソラ君の表情が固まった。
想定内の反応だから続けることにする。
「海外ではカップルが付き合うのにお試し期間というのがある、それと同じものだと」
「そんなこと知りませんわよ!
期待していたソラの純真を返してくださいませ!
半分でいいですから!」
ソラ君が真っ赤になって怒る。
目元に浮かぶ水滴やゲジ眉が怒りを示しており、本気で怒っている。
こうなることは知っていたし、常識的な事ではないと思う。
そして僕ににじり寄り、ネクタイを捕まれる。
「ちゃんとソラは対等ですわよね?」
目線をチョット下に向けると、ライオンが威嚇するように僕を殺そうと睨んできている。
「判ってますわ。
美怜さんの方が小さくて、胸もあって、家庭的で、一緒にくらしてて、色白で、庇護感を煽って……!」
「待て待て、苦しい」
「私なんて黒くて、背が高くて、胸が無くて、家の家督も告げない妾の子なんですから!」
「ソラ君!」
締まるネクタイ。
命の危険を感じながら、何とか声を絞り出す。
「望君の白い顔が、白く……!」
ハッと彼女は気づいたのか、手を離してくれる。
「危ない所でしたわ、暗黒面か何かに取りつかれていていましたわね」
「君が魅力的だということは前伝えただろうに……」
僕は再現する。
「夕日を吸い込んだ金髪はそれこそライオンを思わせる程、凛々しい。
今は潤いを失っているミルクチョコレートの肌も皆を魅了し直すだろう。
それに乗ったさくらんぼの様な唇は男なら誰もが欲しがる様になる。
こう言っただろう?
割とその場で言ったが、評価としては今考えてもあまり変わらないさ。
言い回しは復活している今に合わせなきゃいけないけどね?」
「……改めて言われると、その照れてしまいますわ」
ソラ君の薄い褐色肌に朱が散り、それを抑えるように頬に手をやる。
素直にそんな仕草を僕に見せてくれる彼女は可愛いと思う。
恐らく、僕だけにしか見せたことない事を含めると少し、優越感を感じる。
「……まぁ、投げ飛ばされるぐらいは覚悟してたから、締められるぐらいは構わないのだが」
「なら、遠慮なくいたしますわね☆」
迷って紡いだ言葉がいけなかった。
投げられた。