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2-2.鳳凰寺さんの家の悪役令嬢(妹)。

〇リク〇


 ウチはリク、簡潔に言うと良い所のお嬢様だ。

 鳳凰寺家の次当主たる私は、手に入らないものはほぼほぼ無いという順風満帆だ。

 さて最近、懸念事項がある。

 というか気味が悪いぐらいに姉がおかしいのだ。

 何がおかしいって、鼻歌をさせながら台所に立ってお弁当を詰めているのが異常じゃなくて何というのだろうか?

 料理できるのは知っていたが、使用人のうちの一人に調理方法まで教わっている。

 何でもできる姉で、他人に頼ること素振りなど、一度たりとも無かったのにだ。

 オカシイ。異常である。


「あら、リクさん、おはようございます」


 いつも通り、金髪の髪を後ろでツインテールに纏めて朝食を取ろうと食堂に顔を出した時だった。

 ウチを見つけて声を掛けてくる、天然金髪浅黒い肌の姉。

 自分の肌、黄色とは違うモノの血縁上、半分だが間違いなく姉だ。

 父親譲りの同じ金髪がそう物語っている。

 さて、挨拶はいつも通りの丁寧な口調ではあった。

 でも、いつもはしない朝の挨拶だ。

 見かけたとしても、お互いに無視が基本だ。


「おはようございます、ソラさん」


 ウチは警戒しながら、挨拶を返す。

 何かを企んでいる、そう考えたからだ。

 そもそもに私はソラが嫌いなのもあるのだが。


「玉子焼き食べてみませんか?」

「――は?」


 ――は?


 思考と漏れた言葉が唖然あぜんで一致した。

 間抜けな顔を晒したのが面白いのか、姉が微笑む。

 イラっとした感情が沸く。

 馬鹿にされたと、次当主である自負がそうさせてのもある。


「自信作ですよ?

 毒とかも入ってないですわよ?」


 ソラが毒見と言わんばかりに自分の口に放り込む。

 そして、「美味しい」と微笑みが浮かぶ。


「ほら、おひとつ」

「……いらないわよ!」


 差し出された黄色の塊を拒否し、朝ごはんも食べずに自室に戻る。

 一番、イラっとしたのはソラの微笑みが奇麗だったからだ。


星川ほしかわ、いるでしょ?」

「お傍に」


 後ろに気配が現れる。

 呼べばすぐ来てくれる、私の女性執事だ。

 男物の執事服に、白い手袋をし、サングラス、長い髪の黒髪をしており――バトラーという形容がしっかり来ている筈だ。

 体に火傷があるとのことでいつも黒ずくめを好む。

 当主たるリクを守り、何でもしてくれる、当主たる証だ。

 姉のソラには与えられていない。


「朝ご飯、車の中で食べるから適当に準備して」

「畏まりました」


 気配が消える。

 自分も制服の上着を着ると、家を出て車の後部座席に乗り込む。

 そして用意されていたサンドイッチを食べる。

 玉子焼きサンドイッチだった。


「……美味しいわね」


 初めて食べたが、美味しかった。

 甘いかと思えばソースに辛子が仕込まれており、丁度いい。

 それを珈琲で流し込むと、一息つく。

 舞鶴から京都市内まで、一時間弱、後三〇分ほど余裕がある。

 いつもなら、スマートフォンで英語の勉強をするが、今朝のソラの顔がチラついてイライラする。

 それどころではない。


「邪魔な女よね、ホント」

「ソラ様の事ですか?」

「様なんかつけなくていいわよ、あんな女に」


 私は不機嫌になり、そう言いつける。

 所詮、妾の女で、御母様にも認められず、御父様にも距離を置かれている。

 私が跡目を継ぐのは確定しており、何処かのお偉いさんにでも引き渡す道具にしか過ぎないのだ。

 そんなソラにイライラさせられるのは本当に嫌だ。


「とは言われましても、自分、立場的には仕方ないので」

「ち」

 

 次当主とは言え、今の当主は父であり、仕方ない部分である。

 いくら星川が私専属とは言え、雇い主は父だ。


「朝から不機嫌そうですが、何か御座いましたか?」

「姉に会って、挨拶された」

「それぐらいは寛大な心でお許しでいいじゃないですか」

「挨拶ぐらいは良いのよ」


 笑顔もあるが、私がイライラしたのは違う理由もある。


「まぁ、お嬢様に比べ、色々お一人で出来ますから劣等感感じるのは仕方ないかと思いますがね」


 図星である。

 よく見ていると感心する反面、ムカついてきた。


「ほしかわ~? 

 減給を御父様にするように言っても良いのよ?」

「自分、リクお嬢様の傍に居られれば幸せなので。

 写真の許可さえ取り消さないで頂ければ……!」

 

 ちなみにこの星川が私に専属している理由は、私に対して惚れたとかほざいたからだそうだ。

 その熱意に負けた御父様が私の従者を決める際に独断で決めたらしい。そこからずっと見てくれている。

 私の一言で助けられたとか言われたが、ウチ自身は何を言ったのかは覚えていない


「写真、何に使ってるのよ」

「秘密です」


 雇用条件として、写真を撮る許可と使用用途を聞かないで欲しいということを取り付けている。

 御父様も御母様も説得しているので、何気に凄い事をしている気がする。

 さておき、


「ソラのことで何か知ってることある?

 つい最近までへこんでいていい気味だとおもったのに、最近調子が戻ってきて気分が悪いの。

 浮かれてる、あの姉をへこましてあげたいんだけど」

「好きな人が出来たそうですよ?」

「――は?」

 

 予想外の言葉に思考が停止する感覚を覚えた。

 色恋沙汰にウツツを抜かすタイプではないと思っていたのだが……


「クラスメートに好きな人が出来たそうで、朝にサンドイッチを作りに行ったら惚気られました。

 恐らく三十も過ぎたおばさんには眩しすぎて、聴いてられませんでしたわ」

「星川、三十過ぎたの、もっと若いかと」

「……おっと失敬、忘れてくださいな」


 失言だったと、ミラーに写った星川の顔が物語っている。


「ばばぁの歳なんて気にせんでください、へい」

「まぁ、いいけど……」


 ちなみにこの星川、鳳凰寺家に雇われる以前の経歴が謎である。

 意図的に隠している気配があるし、詮索もしないで欲しいと言われている。

 御父様はしっているようだけど……


「で、相手は?」


 だから、突っ込まない。

 万が一、時の恩返しのように突っ込んで星川が居なくなってしまうのも嫌だからだ。

 無駄な好奇心は猫を殺す。


「リクお嬢様も恋バナに目覚める歳ですか、感慨深いですね……」


 わざとお道化て私に罪悪感を埋め込ませないように配慮してくれた感のが判る。

 優秀な執事だと思う。


「同じ学校の同じクラスの生徒みたいですね。

 私より凄いとか言ってて、ソラお嬢様より凄いって化け物か何かだとは思うのですが、そんな感じです」

「ふーん、面白そうね」


 興味を覚えた。

 ソラがそんだけ言う相手が気になったのだ。

 どうせ大したことない相手だとは思うが、それはそれで男の趣味が悪いと蔑むことが出来る。

 もし、ソラが認めるほどの相手なら、


「奪ってしまうのもありよね」

「それ、悪役令嬢ぽくてゾクゾクしますね。

 でも、大抵は負けフラグですよね、それ」

「五月蠅い!」


 運転席を後ろから蹴飛ばす。

 デュフフと嬉しそうに笑う星川は実はマゾなんじゃないかと言う疑惑もある。


「ちょっと様子を見に行きたいわね、帰りによりなさい」


 今日は丁度、時限が一個少なく、一時間ほど早く帰れる日だ。


「まーた、ソラお嬢様のストーカーですか、四月に二回も行きましたよね?

 元気が無い様子だったから、学校の生活もみたいと……結局、どこにいるか見つからなかったんでしたっけ?」

「黙っていきなさい」

「はい、あ……私、リクお嬢様の帰宅をさせ次第、旦那様のアッシーをしなくちゃいけないんですが。

 ――久しぶりに友に会うとか、他の方はこの前の火事で対応中だとか」


 珍しいこともあるもんだ。

 普段なら、私の専属扱いだから星川を動かすことが無いはずだが。


「そしたら、途中で下ろしてくれて先に帰っていいわよ」

「一人で大丈夫ですか? 

 方向音痴ですから迷子になりません?

 万が一があって私がクビになるのは良いんですが、私の感情的に不安になってイヤなんですが」

「ならないわよ、もう中学三年生よ……」

「そうだといいんですが……」


 思えばこの発言はフラグだった。

 いろんな意味で。

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